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ヤりたいと思わない

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 ギルドの近く、冒険者を当て込んだ店がひしめき合う一角にガイルが贔屓にする、ごった煮定があった。多種族の郷土料理が味わえる貴重な居酒屋だった。 
 
 ガイルはスバルとギルドに依頼達成の報告をすませたあとに、一人ごった煮定に飲みにきた。
 
赤い暖簾をくぐって店の中に入ると「おーい!ガイル、こっち来いよ!一杯やろうぜ」と飲み仲間の青年達にすかさず声をかけられた。 
 
「おっ!チェスナは久しぶりだな?冬以来か?」ガイルは体長30センチほどの妖精族フェアリーの隣に座った。
 
「うん。越冬に里に帰ってたんだ。あんまり寒いと羽が凍るから」チェスナはふうふうと湯気の出るホットハチミツ酒を飲むとにっこりした。  
 
「妖精族は軟弱だからな」 
がははと笑うのはドワーフのズズ、髭にビールの泡がついている。 
 
「ところで、スバルは飲みに来ないのか?」 
リザードマンのキューイがウォッカを片手に尋ねた。 
 
「スバルは娼婦を買いに行ったな」 
ガイルが頼んだビールを一気に飲むとおかわりを注文した、戦闘で疲れた体にビールが旨い。
 
「いいなー。スバルは僕も行きたい。」 
「うむ!羨ましい。」 
「最近ご無沙汰です。」 
三人は真底羨ましそうに言い、自分たちのお気に入りの娼婦を語り合いだした。 
 
「僕はアリアちゃんの豊乳に埋もれたい!」 
「わしは、蔑むココナちゃんに騎乗位で責められたい!」
「私はふわふわのビビちゃんを舐めまわしたいです!」 
鼻息荒く熱く語る三人に若干引きぎみのガイルがいた。
 
「娼婦ってそんなにハマるもんか?」 
ガイルもスバルに連れられ、娼婦を抱いたこともある。 
狼化出来るスバルは人より鼻が良いため、不特定多数と交わる娼婦は他人の匂いがして苦手だった。 
 
「良いよなー。彼女持ちガイルは不自由してなくて!僕も美女に挟まれたい!」 
「くー!羨ましいぞ、わしもあんな美女に責められたい!」
「ハアハア。おみ足を舐めまわしたいです!」 
 
「あ?お前ら何言ってるんだ?」 
「何って、ガイルってコレットちゃんと付き合ってるんでしょ?」      
「は?付き合ってない、俺とコレットは仲間パーティーだぜ?仲間に発情しないだろう?」 
「コレットちゃんだったら発情するよ!」 
「わしも!」 
「私もです!」三人の圧に押されるガイル。  
 
「コレットちゃんと飲みに行くじゃないか!本当の本当に付き合ってないの?あんな美女が目の前にいて、ヤりたいとか思わないの?」 
チェスナがグイグイ質問してくる。 
 
「ヤりたいとか違うだろ?俺とコレットはそんなんじゃない……あいつ危なっかしいから、ついつい口出して迷惑がられてる。」 
ガイルはため息をつくと今度は酒を煽る。 
  
 昼間の戦闘も腹が痛いなら、俺がすぐに援護したのに…何で言わないんだ?あいつ素直じゃないからな。 
ガイルが良かれとアドバイスする度にコレットに突っぱねられてきた。    
  
 魔女として幼い頃から一人で生きてきたコレットは甘えるのが下手だ。肩の力を抜いて少しは俺に頼って欲しい。 
 六人兄弟の長子のガイルは、人の面倒をみることも頼られるのも好きだった。
 
「コレットちゃんに発情しないとか、まじでないよー。ガイルチンチンついてんの?」
「お!競べるか?」 
「いや。負けるからいいよ」 
小柄な妖精族のチェスナは項垂れる。 
「がはは。ガイルのはバカデカイからな」   
「男はデカさじゃありません。愛です!」  
真面目な顔でキューイが言う。   
「お前らは愛より性欲だろうが!」 
「違いない!」男達の笑い声が居酒屋に響いた。 




 
 ガイルは娼館に行く三人と別れ緑風荘に戻ってきた。 
ついコレットが気になり、お腹に優しいスープをお土産に買ってきてしまった。 
俺が渡しに行くと嫌がるだろうから、リリアカに頼むか。  

緑風壮は一階は食堂になっていて安価でおいしいと中々繁盛していた。 
2階から、ガイルたちのような冒険者が長期間滞在できる宿屋になっていた。 
大部屋もあるが、ガイルたちはそこそこ稼ぎのあるパーティーなので、小さな個室を借りていた。 
 
 
「ガイル!探したぞ」 
一階の階段で急ぎ降りてきたリリアカに呼び止められた。 
「どうしたんだ?そんなに慌てて」 
「すまん。しばらくパーティーを抜ける。一族から速達があってな、大長老が倒れたそうだ。大長老は私の祖母なんだ。」 
リリアカは珍しく渋い顔をしていた。
 
「それは心配だな。了解した、こっちは何とかなる。リリアカも気をつけて行ってこい。」 
「ああ、ありがとう。あとコレットを頼む、痛みで暫く動けないだろうから、面倒みて守ってやってくれ」 
「動けない……あいつ、そんなに悪いのか?」 
「ああ、出血が多いとしんどいだろうな。毎食食事を持っていて、薬草の痛み止めを飲ませてやってほしい」 
   
なんて事だ!出血してたなんて気づかなかった!腹を押さえていたから腹からか? 
ガイルは悔やんだ。 
あいつは嫌がるだろうが、ちゃんと出血部位を確認すれば良かった。
 
 祖母が倒れ、動揺していたリリアカは、コレットが月経で寝込んでいると言い忘れていた。  




   
   
 狭い個室の布団の中にコレットは小さな体を丸めて、波のように表れては消える月経痛に耐えていた。 
   
(うー、痛い痛い。薬草切れたみたい。リリアカ早く来ないかな?ご飯と薬草持って来てくれるって言ってたけど、忘れちゃったのかな?私、また1人なのかな?) 
  
 コレットは、魔女の森から1人旅立った朝を思い出し、悲しくなってきた。 
 
黒魔女の一族はその昔、膨大な魔力で多民族に恐れられ、魔女狩りで数を減らした。  
 
 魔女の森から出ると魔法で森の場所を忘れてしまう、もう二度と魔女狩りで里が焼かれないようにするためである。 
でもコレットは故郷に帰りたかった、泳いだ川も通った学校の屋根の色も覚えているのに…… 
 
(ああ、寂しい。嫌だ。月経でナーバスになってる~。) 
 
その時――コンコンと部屋のドアを遠慮がちに叩く音がした。涙でぐずぐずのコレットは安心した。 
 
(リリアカがやっぱり来てくれた!) 
 
ノロノロ立ち上がると部屋のドアを頑張って開けた、少しふらふらする。
 
「ありがとー。リリアカ来て、えっーきゃ!」 
最後まで言えなかった、ドアの前には驚いた顔のガイルがいたからだ。 
 
「お、お前?コレット?」 
ガイルの両眼が大きく見開かれた。匂いは確かにコレットだ、しかし見た目が違う。 
 
「ガ、ガイルがなんで!!」 
(嫌だ、地味な素を見られたくない) 
 
コレットは慌てて、変身魔法を使おうとした瞬間――くらりと天井が回り貧血を起こした。 
前に倒れたコレットをガイルが抱き止める。 
 
「おい、大丈夫か?無理するな」 
ガイルの腕の中は広く暖かく、コレットはドキドキする。  
 
「大丈夫だから、離れて」 
いつものように、突っぱねてしまい後悔した。 
「大丈夫じゃないだろう?嫌だろうが、ベッドまで我慢しろ。」 
ガイルは少し悲しそうな顔をしたが、優しくコレットをお姫さま抱っこするとベッドに横たえた。
 
(ひえー。お姫さま抱っこ嬉しいけど恥ずかしい……そうじゃなくて、私、ガイルに素直に甘えると決めたんだったわ!) 
 
「い、嫌じゃないわ」 
「あ?」 
「ガ、ガイルに、お、お姫さま抱っこされても嫌じゃない、う、嬉しいの」 
素直初心者のコレットは真っ赤になりシドロモドロだ。 
 
(ひゃー素直になるのって恥ずかしいのね) 
 
「…そ、そうか」 
ガイルは何故か変な顔で目を反らした。 
 
(やっぱり、急に私が素直になったら変よね) 
 
コレットは今までの自分を反省し、もっと素直になろうと固く誓うのだった。 



変な顔のガイルは、心の中で叫んでいた。 
なんだこの可愛い生き物は―――と


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