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お酒は飲んでも飲まれるな①
しおりを挟む三人の熱が心地よく、離れたがい。まだ抱き合ったままの私たちにシャーリングさんが温かい声をかけたい。
「ほっほっほっ……仲良きことは美しきですな。離れたがいお気持ちはわかりますが、シリウス様がお風邪を召す前にお着替えをいたしましょう?」
「あっ??まだすっぽんぽんでした!大変です~」
「ミミはまだですか?」
旦那さまが後ろを振り向けば洋服を持ったミミさんが進み出で手渡した。
「シリウス様。本当に良うございました。ミミはミミはこの日を心待ちしておりました」
ミミさんは滝のようにボタボタと泣いていた。凄い涙……シリウスの洋服は大丈夫かな?
濡れていなかった洋服を旦那さまと一緒に着せた。お誕生日用の上質な礼服。半袖白シャツに赤い蝶ネクタイ、藍色の半ズボンをサスペンダー吊って固定した。品の良い礼服もとても良く似合う。
ズボンの専用の穴からひょろりと伸びた白に黒水玉模様のしっぽ。ピクピク動く猫耳。
人型になったシリウスはかわいい……ただでさえかわいいのに、猫耳としっぽつきなんてもはや犯罪級では?
「お似合いですよシリウス様っ!」
「かわいいですな」
屋敷の人達の絶賛の声を聞き、得意気にちょろっと舌を出す仕草は、猫型の時と変わっていない。
「かわいいです~シリウスっ!もう好きっ、大好きです~っ!!」
ギュウと抱き締めて頬をスリスリしちゃう。チュッとおでこに目に鼻に頬に口づけを落とす。はう、もちもちプニプニのお肌の感触っ。たまりません~。
「マァマ~っ。くすぐっちゃいよ~」
キャっキャと笑うシリウスに追加のキスの雨を降ら続ける私の腕を旦那さまがぐっとわし掴む。旦那さま、手の力ちょっと強いですよ?
「ヴィヴィアン、シリウスへのキスはそのぐらいにしておきましょうか?」
にぱっと牙を見せた初めての笑顔。
笑顔なのに底冷えするような冷ややかさを感じるのはなぜですかー?
も、もしかしてシリウスにちゅうちゅうし過ぎて旦那さま怒ってますか?大事な息子を汚すな的な?
「すいません、余りに可愛いので我慢出来ませんでした」ペコリと頭を下げた。ここは素直に謝っておこう。
「ちがう~っ。マァマだめじゃない。おとうしゃまウソちゅき。マァマとキスしたいのに、いわないの~」
「っ!シリウス、余計なことは言わなくていいです!」焦った旦那さまはシリウスくんのお口をふさいだ。もごもごと訴えるシリウス。
え?旦那さまも私とキスしたいと思っていてくれたんですか?本当だったら嬉しいし、止めてくれて言うまでしちゃいますよ。妄想だけで顔がにやけちゃいます。
その後、誕生日会はまるで宴会場のような賑やかさに。侍女さんたちの着せ替え人形と化したシリウスは、次々と新しい洋服を着せられ歓声を浴びていた。
ワタルさんが「良い酒が飲める素晴らしい日だ」と、貴重なお酒を持ち出せば、シャーリングさんが「そうですな!こんな日御目出度い日に飲まずにいられましょうか?」と、秘蔵のワインを開けた。旦那さまもシリウスの誕生日と人型になれた喜びを祝いたい皆の気持ちを汲んで無礼講とした。
獣人はお酒好きなのか、追加のつまみとアルコールが次々に運ばれ、誕生日会から飲み会にシフトチェンジした頃、初めて人型になり疲れはてたシリウスは私の作ったファーストシューズを握りしめたまま、寝てしまった。
その隣には寄り添うようにミミさんがワイン瓶を枕に高いびきをかいていた。ミミさんは、シリウスくんが人型になって本当に嬉しそうだったな~。自分の子供のように孫のようにシリウスを大切にしてくれたミミさんには頭が上がらない。
ファーストシューズ。靴としてはさておき……ネズミのオモチャとしてでも気に入ってくれたなら、不器用なりに努力して作って良かったです。
ミミさんを酔っぱらっていない貴重な使用人にお願いして、シリウスを抱っこして部屋に戻ろうとした。
その私を呼び止めたのは、旦那さまだった。お酒を飲んでいた旦那さまはいつも色白の肌が仄かに赤く、瞳も潤み色っぽい。
「ヴィヴィアン、重いでしょう。私が部屋に連れて行きます」
「え?でも」
旦那さまについて一緒に部屋に戻ろうとした私の肩にスージーさんが腕を置いた。
「おいっ!奥さま飲んでねぇーのか?」
真っ赤な顔のスージーさんはすっかり出来上がっていて、ワイン瓶片手に直のみしていた。
「飲みましょう奥様。たまには旦那様にお任せして、妻も息抜きが必要ですから」
リンスさんがピンク色の液体の入ったグラスを私に持たせた。
え?飲めということですか?体のお姉さんはとっくに成人していますが、中身の私は、未成年です……大丈夫でしょうか?
迷っているとシャーリングさんがスススっと私の隣に来ると小さく耳元で囁いた。
「ほっほっほっ……奥様。獣人は酒好きが多いです。我らにとって善き妻と云うのは夫の晩酌に付き合える妻のことです」
「!っ私、善き妻になりたいです……お酒飲めたら旦那さま喜んでくれますか~?」
「お酒を飲んだ色っぽい奥様をご覧になられたら、旦那様も男として喜んでくださいますよ」
シャーリングさんは含み笑いを浮かべ髭を撫で付けた。
「わかりました!飲みます!」
女は度胸でピンク色のお酒に口をつける。ふわっと広がる桃の香り。甘くて口当たりも良くて飲みやすい。
「ぷはーっ!初めて飲みましたお酒って美味しいですね」
「初めか?これも旨いぞ。飲んでみろ」
ワタルさんが御猪口に注いだ日本酒のような透明のお酒を勧めてくれた。くいっと飲むと懐かしいお米の匂いが広がる。奥深く美味しい、本当に日本酒みたい。
「ほっほ、いける口ですな奥様。このワインもおすすめですよ」
シャーリングさんが血のような真っ赤なワインを注いでくれた。
次々にみんなからお酒を勧められた結果………旦那さまが戻る頃には酔っぱらいと化していた。
「なっ!!ヴィヴィアン大丈夫ですか?」
「はら~っ。だんにゃさまお帰へりにゃさい~」
全く呂律が回らない、頬が体が熱くて頭がふわふわする。お酒でいい気分っ!気持ちいい。
「誰ですか?ヴィヴィアンにこんなに飲ませたのは」私にお酒を勧めた全員が旦那さまから露骨に目を反らした。その人数の多さにため息を付く。
「困った人たちですね」
旦那さまは私の顔を覗き見て、ゴクリと喉を鳴らした。瞳孔が開き縦長に変化した。獲物を狙うような凶暴な目付きに怯む。
え?どうしたの?旦那さま?
疑問は口から滑り落ちる機会を永遠に失った。上着を脱いだ旦那さまは、私の頭に上着を被せた。
旦那さまは顔を隠されて驚く私を軽くお姫様抱っこすると、「羽目を外すのもほどほどにしてください」とみんなに苦言を呈し部屋に向かって歩き出した。
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