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断罪後の悪役令嬢だったよ

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 医者は記憶喪失の私に安定剤を渡すと「王に報告しないとですな」っとそそくさと帰って行った。 

「本当に記憶喪失でしたら、また公爵家が黙っていませんね」 
 シャーリングさんは小声で旦那さまに進言した。  

「そうですね……また娘が獣人に不当な扱いをされたと流布して回るでしょう……はあっ、今から頭が痛いです」 
 こめかみを押さえ、迷惑だと言わんばかりに大袈裟に言うものだから、少しぐらい心配してくれても良いのにって思う。

「シャーリング、念のためです。記憶喪失のヴィヴィアン嬢に支援をお願いします。獣人嫌いのヴィヴィアン嬢のことですから、直ぐに虚言だとわかるでしょう…」 
 旦那さまは記憶喪失なんて、信じていない。私のこと嘘つきだと思ってるよねー。  
 まあ、中身別人だからお姉さんの記憶あるわけないんだけど! 
  
 旦那さまが片手をあげると、ミミさんは私に一瞥してから、眠るシリウスくんを連れ去った。膝の重み温もりが無くなり少し寂しい。旦那さまはもう私を見ないで無言で去っていく。 

 
「奥さま、改めてご挨拶するのもおかしいですが、家令のシャーリングです」
 羊の縦長の瞳孔に私が写る。この人も嘘だと思っているのかな?
 でも、私はお姉さんについて何も知らない、ここは潔ぎよくお教え頂こう! 

「初めましてシャーリングさん。えっと、中身が変わりまして体のお姉さんのこと何も知らないので教えて下さい!」  
  
 
 


 
 お姉さんことヴィヴィアン・マクガイヤ辺境伯令息夫人。旦那さまはマクガイヤ辺境伯爵の息子で今は獣人騎士団隊長とのこと。 
  
 お姉さんは反獣人派を牽引するローベルハイム公爵の娘で貴重な闇魔法を使えた。 
 野心家の父親のゴリ押しと闇魔法が決め手になり、10歳の誕生日同じ歳のこの国グランシアの第一王子ジャスティス様の婚約者となった。 
 以後、厳しい正妃教育を完璧にこなしつつ、第一王子を支えてきたそうだ。周囲からの評判も上々で、彼女ほど正妃に相応しい令嬢はいないと褒め称えられてきたんだって。 
  
 それが、貴族学園入学して脆くも崩れ去った。同学年に入学してきた、男爵令嬢ミリア・バレント。無邪気で魅力的、従順な彼女をジャスティス王子が気に入り側に侍らすようになったそうで。
 彼女は聖女のみが行使可能な聖なる力を僅かに使えた。闇魔法より更に貴重で世間体も良い。口煩いお姉さんに辟易していたジャスティス王子はこれ幸いにと乗り変えたそうだ。 
 
 酷いっ!携帯じゃないんだからさ!尽くしてきたお姉さんを捨てて乗り換えるなんて、お前の血は何色だ! 

 で、腹をたてたお姉さんは闇魔法で学生を操り様々な嫌がらせをしたそうだ。物を隠したり水をかけたり花瓶を落としたり等々。 
 嫉妬に狂ったお姉さんは自分の手を汚すことなく、嫌がらせといじめを繰り返した。 
 そして、ある日一線を越えてしまった。ごろつきを操りミリアさんを凌辱させようとしたそうだ。 
 
 あー、確かに酷いお姉さんアウトよ。 

 当時、ジャスティス王子の護衛騎士だった旦那さまと王子の活躍でミリアさんは無事に救出された。 

 満を持して、ジャスティス王子は卒業式の日に婚約破棄を突き付け、お姉さんの罪を暴き断罪した。  

 王子はお姉さんを死刑にしたかったみたいだけど、ミリアさんは格下の男爵令嬢。しかも、闇魔法を使った明確な証拠はなく。嫌がらせといじめにお姉さんは直接手を出していない。凌辱事件は未遂で終わり、ごろつきたちも記憶が曖昧で、重い罪には問えなかった。  
 
 そこで、王子は罰としてお姉さんが毛嫌いする獣人との婚姻を命令した。王様も勢いを増す反獣人派を押さえるために賛同した。 
 そう、シオン・マクガイヤ。護衛騎士だった旦那さまとの結婚を!
  
 私的にはご褒美でしかない。
  
「酷いですね王子様。旦那さまはとんだとばっちりですね」 
 シャーリングさんの話を聞き終え、そんな感想しかでない。シャーリングさんは目を細め私を見据えた。 
 
「ほっほっ、奥さまがそんな風に言われるとは……とばっちりでも大いなる利益がありまして」
 
「え?利益なんてあるの?不良物件を押し付けられたようにしか思えないけど」 

「ふ、不良物件ですか? 
 ほっほっ、反獣人派を牽引するローベルハイム公爵の娘が獣人に嫁いだことに意味があるのですよ」 
 
「うーん……反獣人派の勢いを殺ぎ、ローベルハイム公爵に対する人質というところかな?」

「それもありますが……この国は爵位を継ぐ者はその家の血を引いていないと継げないのですよ。 
 ローベルハイム公爵に子供は奥さまだけ、孫はシリウス様だけです」 
 にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべてるけど、内容は重い。つまり、公爵家を乗っ取りますって言うことですか?
  
 だから、公爵は早くお姉さんこと私を離縁させて別の人と子供を作らせたいと。




 その後、私の侍女件護衛係りの狼獣人スージーさんを紹介された。大きな狼耳がゆさゆさ揺れる。しっぽはスカートの穴からニョッキと生えていた。 
  
 うう、ふさふさしっぽ触りたい。が、我慢。 
  
 茶色の瞳で同じ色の髪を1つに縛り、目付きの悪い筋肉質なお姉さんだった。ワイルド系美人さんね。 

「シャーリングよ、今さら奥さまに挨拶なんて気持ち悪いけど、どうかしたのか?」 

 シャーリングが事情を話すとキラリと瞳の奥が光った。  
 
「ふーん。中身別人で奥さまじゃないなら敬語苦手なんだ、使わなくっていいよな?」  
 にかりと牙を見せて挑戦的に笑う。 
 あー、この人も信じてないよね。 
 まあ、いいや!それより私聞きたいことが二人にあるので。 

「敬語、私も苦手だから使わなくていいです。 
 そんなことより!お二方、旦那さまの好みのタイプを知ってたら教えてほしいな!」   
 牙はないけど同じように、にかりと笑ってやりましたよ。

 
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