最後は一人、穴の中

豆丸

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秘密

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 カスミのペンダントの中央が淡く白く点滅し、光が溢れカスミの体に還ってゆく。
 隠していたはずの突然の力の行使にヨナは、驚き二の句が告げない。 

「これでヨナものんびり寝られるわよー!私テントより外で寝たいわー!」 

 カスミは、ヨナが焚き火の側に敷いた、シュラフの上に寝ころがると、枕がわりに置いたヨナの荷物を抱き締めた。

「そこは俺の寝床!カスミはテント!―――って、聖なる力を使えること秘密じゃなかったのか?」 

 ヨナは、武器の入っている荷物をカスミから奪い返す。  

「あー、枕が!……力を使えることは、もちろん秘密よー!でも……ヨナ知ってたでしょ?毎朝祈る私を、熱心に観察してるわよね~」 

 荷物を取られ、口を尖らせ拗ねながら言う。 

「ははっ、黙ってるなんて人が悪いな姫さん」
 へらりと笑いながら、これだから油断出来ないと心の中で思う。  

「でも、黙ってる特別な理由があるのか?聖なる力があれば、傷を癒せて尊敬もされるのに~?」 

「……教えて欲しいなら、まくら貸して?」

 可愛らしく小首を傾げるカスミに、ヨナは仕方なく荷物を渡す。  

「私の貯めた聖なる力はね。人の傷を癒すより、もっと大切なことに使いたいのよ」 


「……大切なことって?」  


「ひ・み・つ!……ヨナが獣化した姿を見せてくれたら教えてあげるわよ」 
 期待に満ちた顔でカスミはヨナを見上げた。 

「………姫さん残念!俺の獣化は、嫁さんになる奴にしか見せませんよー」 
 自分の手の内を、さらけ出すようなことはしない。

「えー!ヨナのケチ。妻設定なんだから、しっぽの先ぐらい見せてくれたって、いいじゃない?………ねえ、ヨナ。先っぽだけで我慢するから、ちょっと撫で撫でしたり、すりすりしたりするだけだから~お願い!」

「――――っ!」 

 ヨナはカスミに、潤んだ瞳で色っぽく囁やかれ、しっぽじゃない体の一部に変換してしまう。 
(ただでさえ、溜まっているのに止めてくれー!くそ!襲っちまうぞ姫さん!)  

 ヨナは、心の中で悲鳴をあげながら、カスミ用のテントからシュラフを引っ張りだすと、焚き火を挟んでカスミの反対側に敷き、素早く潜り込む。 

「ははっ。本物の妻にしか触らせません~。明日も朝早いんだから、戯れ言は止めて寝て下さいよ。次の目的地ロッテトリスクの滞在日数が減っても良いんですか~?」 

 ナルシア大陸随一のカジノ都市ロッテトリスク。ナール砂漠を越えた先にあり、スロットやカードゲーム、ルーレット等々あらゆる賭事を網羅し、ホテル、歓楽街を併設した夢のような場所。動物園の次にカスミが行きたいと騒いでいた。 

「よくないわ!最低でも5日は遊ぶからね!」 

 カスミもシュラフの上から、中に体を移動させた。 

「ねえ、ヨナ………もし………ううん、望め…ない。ごめん!何でもないわ、お休みなさい」

「姫さん?」聞いたことのないカスミの暗い声音にヨナが振り向く。頭までシュラフに潜りその表情まで窺えない。

(ヨナの本物の妻になれたらどんなに良いだろう、悪魔の穴を目指す私が決して望んじゃいけないことだわ……)カスミは、唇を噛んだ。 

 ヨナ愛用のシュラフから、仄かに彼の体臭がする。草原のようなヨナの匂いに安心してやがて、カスミは目を閉じた。 

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