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最終回・虹の向こう側②

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 予定より1ヶ月遅れて式典は行われた。 
 
 ベンダルさんが暗黒竜の消滅を伝えた。暗黒兵の脅威も無くなり、黒花病の治療薬が完成した。これからは平和な時代が訪れると高々に宣言した。
  
 竜神様はふっくらとした艶のある芋虫に成長した。誇らしそうに、私が作った赤いマントを羽織る。お腹が弱く腹巻きが手放せないので、式典用に見栄えの良いのを作ったので、それを履き、ご機嫌なご様子。  
   
 私と綾乃さんもノコアちゃんたち侍女隊にこれでもかと磨かれ、綺麗な式典用のドレスを着せられていた。綾乃さんは鮮やかな赤い色で華やかな彼女に良く似合う。 

 私は、淡い黄色のドレスで竜神様と同じ色合い。ノコアちゃんに、意味深に渡されたイヤリングは、右はルビー、左はサファイアだった。グレンさんとレインさんの瞳の色。 

 これも、自分たちの所有物というマーキング的な意味があるんだわ。嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。 

 綾乃さんの耳には、セナさんの瞳の色と同じ紺碧色のラピスラズリが揺れていた。綾乃さんの済ました様子から、彼女は何も知らないのね………うん、黙っておこう。 

 神官長レインさんが、民衆の前で私と綾乃さんを紹介した。 

「黒花病の治療薬を完成させた聖女アヤノ様と、暗黒竜討伐に貢献した真の聖女マナツ様です!」 

 会場から、温かい拍手をもらい。嬉しくて自然と笑みが溢れる。

「マナツ様は、この私、神官長レインとグレンの婚約者でもあります。近々式を挙げる予定です」 

 しれっとレインさんが結婚式の発表をした。驚き口をぱくぱくさせるしかない私の肩をレインさんが抱き寄せた。 

 拍手と共にワーッと会場が沸いた。 

「おめでとうー!聖女様!」 

「お幸せにー!」 

 や、やられたわ。 

 大々的に発表されて否定も出来ず、肩を抱かれ袖に逃げることも出来ない。 

 私は、終始ひきつり笑顔を張り付けたままだった。

 式典会場に黄色い花びらが舞う。
 竜神様が小さい羽を動かし、花びらを掴もうを空を飛んだ。 
「ギュロロロ!」っと、歓喜の声をあげて。
 
 誰も、芋虫だと竜神様を謗らない。暗黒竜を倒した竜神様にみんなが敬意を払う。拍手喝采で式典は無事に終わった。  


 



 心配した竜神様のお手当ては真の聖女になり聖なる力の量が増えたせいか、二度目の慣れのためか、前ほど疲労感は少ない。隈は薄いはずだわ。

 それにグレンさんにレインさんが毎日協力してくれるから、とても助かっている。 

 3日に1回は深い魔力譲渡で動けなくさせられるけど……。 

 結婚式まだ早いと逃げている。竜神様が育つまで待っていてほしい。 

 先日綾乃さんを呼んでお茶会をしたとき。  「グレンさんもレインさんもイクメンだからいつ子供が出来ても安心ね」と、綾乃さんに揶揄られた。  

「そうね……イクメンなら、子供が出来ても大丈夫ね。結婚は竜神様が成体になるまで、考えられないけど」と、言ったらグレンさんが物凄く真剣な表情で、綾乃さんにイクメンの詳細を聞いていたけど……何だったんだろう? 

 レインさんもわざわざ離宮に出向き、綾乃さんに尋ねていたわ。 

 そう、綾乃さんとセナさんに進展(?)があったの。二人は今、空になった西の代理統治長としてベンダルさん監視下で半壊したアリーヤの復興を目指している。 

 西には暗黒竜が消滅してなお、黒花病の後遺症に苦しむ人々がいる。綾乃さんはポーションの聖女として彼らを救い、共に西の地で生きたいそうで……。 

 その決断には多分セナさんの意向が大きいと思うのだけど、素直じゃない綾乃さんは認めてはいない様子。 

「奴隷が行きたいって言うから行くのよ!私は、素晴らしいご主人様だから」っと、ふんぞり反って言ってたわ。 

 そろそろ誰か、綾乃さんのダメージが小さいうちに、奴隷の本来の意味を教えてあげて。恥ずか死ぬ前に。  
  
 ベンダルさんは、北の領地の統治と、西の再起に奮闘する綾乃さんとセナさんの援助で忙しい。それでも合間を縫って竜神様に会いに来る。 

 ブランドさんは気がつけば神殿の居座り、竜神様におやつを食べさせたり、構いすぎて相変わらず噛まれている。 
 優秀な副統治長に首根っこを捕まれ強制送還させられてる。 
 西の解放軍だった人々は、暗黒竜と竜神様の戦いを目の当たりにして、心を入れ替えたようだ。今は、西の領地の再起を手伝ってくれている。 



 

 式典から、1ヶ月経て竜神様は繭玉様から、幼性体に育った。短い手足とプクプクお腹はいつ見ても可愛いくてメロメロになる。

 大好きなおやつタイムに、何時ものようにお膝に乗せようとしたけど、「めっ!」と、頑なに拒否されてしまった。 

 反抗期なのかしら? 

 地味に凹んでいると、たまたま近況報告に来ていた綾乃さんがニマニマしながら言った。 
 式典より小降りのラピスラズリの耳飾りが揺れていた。セナさんと順調そうで良かった。 

「真夏さん、もしかして赤ちゃん出来たの?」 
 
「赤ちゃん?そんなわけない……」 
 とは、言いきれない。濃厚な魔力譲渡を行っているから。 
  
 そういえば、この前の生理はいつだったろう? 
 何となくお腹を押さえると、綾乃さんが思い出したように笑った。 

「真夏さん出来ても大丈夫よ。 
 グレンさんとレインさん前に私の所に来て、『自分たちがイクメンになれば、マナツは子供を産んでくれる』って、息巻いてたわよ!」 

「え??私、そんなこと言った覚えないわ」  

「それっぽいことは言ってたわよ。 
 あの二人、真夏さんが頑なに結婚してくれないから、子供から先に作ろう作戦に切り替えたのね!」

  
 どんな作戦よ……。 
 乾いた笑いしか出ない。 

 
 結果的に、二人の作戦は成功していた。 
 この2ヶ月後、私は、虹色の卵を二個産むことになる。 
  
 ちょっとお姉さんに成長した竜神様が卵のお世話をしたがったり、過保護過ぎなグレンさんが暴走したり、レインさんが結婚式を強行したりと相変わらず慌ただしく、騒がしい毎日。 

 卵が還ったらもっと騒がしくなりそう。グレンさん、レインさんどちらに似ているか楽しみでならない。
  
 
 ここは、狂おしいほど、愛しい私の居場所。
  
 
                   
                 〈終わり〉 
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