上 下
79 / 87

虹の向こう側①

しおりを挟む
 
 深夜の時間帯のはずなのに、外は仄かに明るい。運び込まれる兵士も、もう居なくなった。 
 人々が眠れない夜を身を寄せあい過ごす中、私は神殿の入り口に佇んだ。
 
  
 浄化の光が西の領地から広がるのをアーガストの全ての人々が目撃した。 
 暗黒竜を退治したはずなのに、竜神様、ベンダルさん、ブランドさんは未だに帰って来ない 
 
 
帰って来ると誓ってくれたのに。 
瀕死の怪我をしていたら。
 
 不安で押し潰されそうな私に冷たい風が吹きつけた。 

「マナツ、此処に居たのか?風邪をひくぞ」 
 グレンさんが肩にフワリと毛布をかけてくれた。自分も毛布を被ると私の隣にぴったり寄り添う。 
 
「ありがとうグレンさん……竜神様を待っていたいの」 

「お気持ちはわかりますが……女性に冷えは良くありませんよ」 
 レインさんが温かい紅茶を私とグレンさんに差し入れてくれた。 

 冷たい風に負けないよう三人で肩を寄せあい、空を見上げ続けた。 


 
 

「おい、マナツ。早く起きろ」 
 いつの間にか眠ってしまった私は、グレンさんに揺すぶられ起きた。 
 
「見て下さい西の空を!」 
 眠い目を擦り、レインさんが指差す方向を仰ぎ見れば、遥か遠くに飛んでくる二匹の竜の姿。 

「え?一匹足りないわ……誰か後から来るの?」 
 嫌な予感に心臓が痛くなる。衣服の上からぎゅっ押さえた。 

 だんだん近づく竜、その鱗の色が否応なしにもわかった。 

「竜の鱗の色は……紫と緑だ」  
 呆然とグレンさんが呟いた。
 
「ベンダル様とブランド様だけです……竜神様のお姿はありません」空を睨むとレインさんが残酷に告げた。 

「竜神様は?居ないの?……そんな……嘘、嘘よねえ?」
 頭を振って否定した。 
 涙が止めどなく流れ、力なく地面に崩れ落ちた。  


 グレンさんもレインさん何も言わない。ただ空を見上げ、ベンダルさんとブランドさんを迎え入れた。 

 竜から人型に戻ったベンダルさんは私に駆け寄ると深々と頭を下げた。 

「すまない聖女マナツ。ソナタの献身を無駄にした」この世の終わりのような悲痛な顔。 

「嫌です!聞きたくない!」 
 私は、泣きじゃくり耳を塞いだ。竜神様の最後なんて絶対に聞きたくなかった。 
 
 
 止めどなく涙を流す私の頬を生暖かいぬめるナニかが舐めた。 
  
 ペロペロペロと美味しそうに私の涙を拭うのは、懐かしい芋虫様だった。出会った時より更に小型化している。 
  
「え?竜神様?」 
 驚きに涙が引っ込んだ。 

「ギュロロローー!!」
 涙をもっと寄越せとばかりに長いしっぽを床に叩きつける。 

「……死んだんじゃないの?」 
 呆然とベンダルさんを見上げる。  

「聖女マナツ、勝手に竜神様を殺すな!全ての力を使い果たし芋虫に戻っただけだ」 

「芋虫に……戻っただけ?」 

「今回は毒は吐きませんから安心です!聖女マナツ!貴女の聖なる力で1日でも早く、美女に戻して下さい!」 
 ブランドさんが期待を込めた視線を私に向けた。
 
 
竜神様が生きていて物凄く嬉しい。
 
でも……。
 
もしかしなくても、初めからお手当てやり直しなの?  
……今までの苦労は……全て水の泡で。 
また、オムツ、ミルクに寝不足の日々がやって来る。
 
 体力もつかしら?  
 今度も隈の妖精になるの?
 はあっと大きくため息をつく。 
 
「また、俺たちがお手当てを協力するから心配するな」 
「魔力譲渡は任せて下さい…三人で行いましょう」
 私の肩にグレンさんとレインさんが手を置いた。 
 
 三人で行った魔力譲渡を思い出して顔が赤くなる。誤魔化すように頬を押さえると竜神様に向き直る。
 
「遅くなったけど、竜神様。お帰りなさい!無事とは言えないけど、生きて帰ってきてくれて嬉しいわ」 
 カサカサして干からびた小さい体を抱きしめた。

「ギュロン?」 
 抱きしめる私を竜神様は不思議そうに見つめる。
  
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

白い結婚 ~その冷たい契約にざまぁを添えて~

ゆる
恋愛
政略結婚――それは貴族の娘にとって避けられない運命。美しく聡明なルシアーナは、シュヴァイツァー侯爵家の冷徹な当主セドリックと婚約させられる。互いの家の利益のためだけの形だけの結婚のはずだった。しかし、次々と巻き起こる陰謀や襲撃事件によって二人の運命は大きく動き出す。 冷酷で完璧主義と噂されるセドリックの本当の顔、そして家族さえも裏切るような権力争いの闇。やがてルシアーナは、ただの「道具」として扱われることに反旗を翻し、自分の手で未来を切り拓こうと決意する。 政略結婚の先に待つのは、破滅か――それとも甘く深い愛か? 波乱万丈のラブストーリー、ここに開幕!

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

処理中です...