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二人の聖女
しおりを挟む西の領地に空を覆うほど巨大な暗黒竜が現れ、神殿内は騒然となった。
暗黒竜の狙いは竜神様、神殿を第一に攻撃するはずと レインさんとグレンさんは神官長の力で、神殿に大きな結界を張った。
邪悪なモノを拒む聖なる結界。暗黒竜でも容易には入れないと言う。
レインさんが、町の人たちを北の領地に避難誘導するように神官兵に指示を出す。
直ぐに攻めてくると思っていた暗黒竜は沈黙を守ったまま……。何か企んでいるの?
ベンダルさんとブランドさんは未だに帰ってこない。
「まさか、暗黒竜が復活するとはな」
「竜神様が倒したはずよね?どうして復活したのかしら?」
「あい~」
竜神様も不安なのか、私にくっついて離れようとしない。
「暗黒竜が現れたのは西の領地です。おそらくアンローザ様が復活させたのでしょう」
「アンローザさんが」
「媚薬事件を起こして強引にコハル様を手にいれ、西の領地に戻られた。時を置かずにして西の領地から、暗黒竜が復活した。残念ですが偶然ではないでしょう」
「………でも、どうやって?こんな短期間で小春さんの聖なる力を奪ったの?」
「アイツは闇属性の竜だ、聖なる力は受け付けない。害になるだけだ」
「害になる?」
「ええ、そうです。今にして思えばアンローザ様は、媚薬事件でマナツ様の浄化の光を浴び、ダメージを受け倒れてしまった。
だから、マナツ様を連れて行けなかった。本気で抵抗されて浄化の力を使われたら厄介ですから」
「そうだったのか。
聖なる力の弱いコハル様なら、思いのままになると踏んだんだな」
「聖なる力の為じゃないなら、どうして小春さんを連れて行ったの?」
「マナツ様には酷な話になります………コハル様を連れ去った理由は聖女の血肉を食らうだめです」
「ち、血肉……っ!」
「聖女の血肉には、聖なる力とは比べ物にならないほどの癒しの力があります。暗黒竜を復活させるだけの力が………」
「そんな……そんなことって」
ガクガクと震え、膝を付いた。心配そうに竜神様が袖を引っ張る。
「大丈夫かマナツ?顔が真っ青だ」
グレンさんが駆け寄り背中を擦る。
こんなの酷い、あんまりだわ。
小春さんに助かったと希望を持たせておいてから、どん底に落とすなんて。
小春さんの恐怖、絶望は計り知れない。
そして、歯車が少しでも違ったら食べられていたのは私だった。
怖くて、震えが収まらない。
「マナツ様、暗黒竜は復活したばかりで、まだ動かないようです。戦いになる前に、竜神様と少し横になられ休んでください」
心配したレインさんに勧められた時だった。神殿内が再び慌ただしなった。
「大変です!!
西出身の兵士が次々と倒れています!アヤノ様の治療薬で抑えられていた黒花病が進行して、蔦模様が体中に広がってきています!!」
ノコアちゃんが髪を振り乱し駆け込んできた。
「なんだって!」
「今、アヤノ様が必死に治療に当たっています!広場に早く来てください」
心配した二人に休むよう勧められたけど、今は休んでいる場合じゃない。
ノコアちゃんに案内され広場に行くと、30人近くの兵士たちが敷かれた毛布の上で、のたうち苦しんでいた。顔、手、足の先まで、黒い蔦模様が濃く浮き上がり、体に巻き付いている。
その中に苦しむセナさんと、兵士に治療薬を飲ませるアヤノさんがいた。
「遅いのよ!!早く飲ませて!!」
「わかったわ!」
アヤノさんの迫力に押されて、手分けして治療薬を飲ませた。苦しそうな呼吸が少しずつ穏やかになり、蔦模様が徐々に小さくなっていく。
「これで安心ね、綾乃さん」
「安心じゃないわ!これは、治療薬じゃないわ!ただ進行を遅らせるだけだもの!!」
悔しそうに唇を噛み、下を向いた。悔しくて不甲斐なくて泣きたいのだろう。それを必死に耐えていた。
「遅らせるだけでも、大したモノですよ」
「はあ?レインさんが言うと嫌みに聞こえるのよ」
ふんとレインさんから顔を背けた。
「アヤノ、口の聞き方に気を付けろ」
上半身を起こしたセナさんが嗜める。
「バカ!なに勝手に起きてんのよ!まだ寝てて」
アヤノさんはセナさんの毛布を引っ張り、肩までかけた。口は悪いけど、心配しているのが丸わかりだわ。
もうすぐ、夕食の時間。
私は竜神様と厨房に行くと、料理長と協力して夕食をみんなに作り始めた。労いと聖なる力をたくさん込めて、これからの戦いに耐えられように。
……綾乃さんもセナさんの分も作ってほしいと、厨房にきたので、せっかくなので一緒に料理を作る。
今夜のシチューは、特別製だわ。
私と綾乃さん二人の聖なる力と思いがこもっているもの!
「おーち!」
竜神様は三杯もおかわりをして、お腹がはち切れそうにぽんぽこりん。可愛い丸みに癒された。
「美味しいわ……それに、癒しの力が凄い」
倒れた兵士に配り終わり、セナさんの横で一口食べた綾乃さんは、呟いた。
「マナツの料理はいつもうまいぞ」
グレンさんが言うと、竜神様も頷いた。
「ハイハイ!色ボケ、グレンさんは黙ってて!!」
「そうですね……いつものマナツ様の料理とはまた違う癒しの力を感じます。これはアヤノ様の力との相乗効果でしょう。二人の聖なる力が上手に調和しています」
レインさんは、それはそれは美味しそうに食べた。
「……二人の……聖なる力…っ!!ちょっとマナツさんを借りるわよ!!」
「え?まだ、食べ途中で……」
「アヤノ様、私のマナツ様を連れ去るのはお辞めください」
「おい!レイン!俺らのマナツだ。お前だけのモノじゃない」
「なに?レインさんも色ボケしてるの。心配しないでよ!今さら、マナツさんに危害を加えたりしないわ」
引きずられるように、綾乃さんに連れていかれた。食べ終えたグレンさんと竜神様が大慌てで、後を追ってくる。
「ここは?離宮?」
綺麗だけど、人気のない冷たい建物。
「そうよ!私のポーション研究所よ!
それよりマナツさん、黒花病治療薬に貴女の聖なる力と思いも入れてほしいの!完璧な配合、成分なのに進行を遅らせることしか出来ないなんて、おかしいもの!!貴女の力、貸して頂戴!」
あの、綾乃さんが頭を下げたのだ……断る理由なんてない。
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