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宣戦布告

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 食事の後に、中庭で竜神様をボール遊びをした。短い足で大振りで蹴ろうとして、ボールに乗ってし転んだり、逃げるボールを捕まえようと、ひっくり返ったりと目が離せない。 
  
 竜神様の一挙一動が可愛すぎて、ニマニマしてしまう。 
 
 疲れた私に代わり、グレンさんがボールの相手をしてくれた。子供のあの無限の体力は何処からやってくるのだろう?  

「マナツご苦労様です。まだ無理をしないで下さいね」書類仕事を終わらせたレインさんが合流した。
 レインさんは、ノコアちゃんに命令し、飲み物の準備をさせると私に勧めた。 
 そして、途中になっていた媚薬事件の顛末の話をしてくれた。 
 
 シャインさんは牢屋で服毒死、小春さんは牢屋に幽閉中で、「自分は悪くない、シャインに騙されたの!」と、未だに叫び続けているそうだ。 
 
「………小春さんは、処罰されるの?」  
 声が知らずに震えた。竜神様にナイフを突きつけたのだ。ただでは済まないことは解っていた。 
  
「マナツ様はお優しいですねご自身も害されたのに………アヤノ様のように、更正の機会は与えますよ。厳しいものになると思いますが……」 
 
「き、厳しいもの?」   

「……悪黒竜残党狩りの最前線に立って頂きます」
  
「さ、最前線?小春さん、死んでしまうんじゃ……」

「最前線にはベンダル様もいらっしゃいます。コハルさまは聖なる力を使い残党を浄化してくだされば良いのです……死ぬとは限りませんよ」

 でも、これは……若い女の子には死刑宣告に他ならない。戦場を這いずり回り、苦しみのたうって死ねと言っているようなものだわ。 
  
 唇を噛んで下を向いた。 

「マナツ……気持ちはわかるが。コハルは罪を犯したんだ、やってはいけない逆鱗に触れた。罪は償わなければならない。本当は………俺が今すぐでも八つ裂きにしたいぐらいだ」
 黙って竜神様と遊んでいた、グレンさんが口を挟んだ。 

「そうです。コハルさまは、私たちの大切な婚約者にも危害を加えたのです。塵に引き裂かれなかっただけでも有難いと思って頂かないと」 
 レインさんは、にっこり笑った。顔は笑っているのに、底冷えするように冷たい瞳をしていた。 
 美しい冷笑に胸を締め付けられた。
  
 彼らは怒っているのだ本気で。

 これ以上、私に何が言えるだろう? 

 暗く重苦しい空気を破るように竜神様が大声をあげた。 

「マナァ!!ちっこ、でぇるよー!もぇるー!」 

「え??おしっこ!もれちゃうの、早くお手洗いに!」 
 私は、竜神様を抱き上げるとトイレに急いだ。
 

 ギリギリで間に合い、「ちーちでた!えらえいー!」と、手を叩き喜ぶ竜神様。しっかり女の子の局部を確認した。 
 
 竜神様が女の子なら、なにかと竜神様の世話をしたがるブランド様に絶対にトイレ介助はさせないようにしないと……と、硬く誓う。 

 あれ? 

 そして、やっと気づいた。 
 竜神様が愛らしい幼女に成長したのに、ブランドさんが側に居ないなんておかしいことに。  


 ◇

 
「………急ぎ勇み、竜神様の部屋に飛び込んだ私たちが見たのは、だらしない顔で竜神様と添い寝する幸せそうなブランド様でした」
 
「そ、そうだったのね」 
 その光景が目に浮かぶようだわ。きっと可愛さに我慢出来ず、抱き締めて何度か噛まれていそう。 
  
 レインさんに手紙を見せられブランドさんがシャインさんを唆し、竜神様に媚薬を盛り傀儡の王として操ろうとしたと説明されても、到底信じられなかった。 

「……私、媚薬事件の主犯はブランドさんじゃないと思うわ」 
 
「どうしてですか?」
 
「もし……ブランドさんが犯人だったら、手紙は処分するように言いそうだわ。それに……ブランドさんが竜神様を慕う気持ちに、嘘はないように見えたから」
 
「あーっ。俺だって、心情的に竜神様を恋慕うブランド様を信じたい。でもな、ご丁寧に証拠の手紙も、西の領主の調印入りであるんだぞ。この印はな、始まりの竜の牙からしか作れないんだ」
   
「そうです……始まりの竜の牙しか作れない。裏を返せば、作れると言うことですよグレン」  

「レイン?」  
 
「レインさん……私、媚薬事件の時、すごく違和感を感じたことがあるの」
 
「マナツ様、私も感じました。二人の時にお話を聞かせて下さいね」 

「おい!俺は?」  

「グレンは、直ぐに顔に表れるので駄目ですよ」

「仲間外れかよ!!」 
 
「グレ、いーこ」  
  不貞腐れるグレンさんの頭をポンポンと竜神様が叩く。慰めているつもりのようだ。  

「今は、憶測で物を語るのは辞めておきましょう。実際に西にブランド様を新たな竜神様に望む組織が在るのも事実です。当分……ブランド様の軟禁、監視が解かれることはないでしょう」 

 始まりの竜のブランドさんが本気で抵抗し暴れたら、いくら神官長の二人でも止められない。 

 今、ブランドさんは同じく始まりの竜のベンダルさんの監視下に置かれている。彼ならブランドさんに抵抗出来るから。 

 

「ベンダル様、竜神様に会えなくて大丈夫かしら?」 

 150年ぶりに人型化した竜神様の側に居たいであろう、ベンダル様が可哀想になってきた。 

「たいへん、イライラしてらっしゃいますよ」 

「ああ、荒れてるな」
 
 可哀想なので、会わせに行こうかと相談しているときだった。 


「たいへんです!西のサイレイクから宣戦布告が出ました! 
 神殿は、ブランド様を不当に監禁していると、真の竜神はブランド様だと主張し自分たちは解放軍だと名乗っています。すでに出兵も確認済みです!」
 泣きながら、ノコアちゃんが駆け込んできた。  


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