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蠢くモノ①

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 ベンダルさんが渋い顔をしている理由を良くわかった。忠誠と嫉妬の板挟みの感情。
 不本意だけど、竜神様が決めたこと。ブランドさんが番に加わることに従うしかないんだから。 
 
 番は、番を裏切れない。 
 裏切ったときはその心臓が停止する。 
 番同士で、念力で会話も可能だそうだ。 

「複雑だか、これでブランドは竜神様を裏切れない!……いいだろう共に行くぞ!!」 
 
「ああ!竜神様に勝利を捧げます」 

 二人は、息を吐くようにスルリと竜化すると紫色に滲む空に飛んで行った。 
  
 竜神様は、二人が豆粒になり、見えなくなっても小さな手を振り続けた。 
 私は、竜神様が手の振り過ぎで疲れてうとうとするまで、反対側の小さな手を握りしめ、隣にいた。 
 
 疲れて寝てしまった竜神様をレインさんが寝室まで運んでくれた。 
 ついでに魔力譲渡ですと口づけをされ、当たり前のように舌を絡められる。スルリと際どき場所に降りた手を掴むとやんわりと拒否を示した。 
  
「んっ、今は……だめよ」 
 体は快感を期待して疼くけど、いつ竜神様が起きるかもしれない環境で、深い魔力譲渡はしたくないから。
 レインさんは私の意を汲んで無理に抱こうとはしなかった。 
 私から離れる寸前に、「今じゃなければいいんですね?朝を……楽しみにしています」と、耳をぺろりと舐めた。妖艶に微笑むと顔を真っ赤にした私を残して寝室から出ていく。  
 もう、レインさん、解放軍を迎え撃つ準備で忙しいはずなの。 
 私に出来ることはなんでもお手伝いしよう。 
  
 今は、お昼寝をする竜神様に聖なる力を与えることが私の仕事だわ。 
 
 
 お昼寝から、目覚めた竜神様とお部屋でのんびりご本を読んでいると廊下から人の行き交う音と慌ただしく声が聞こえてきた。 
 
 ダンダンと一際大きな足音が部屋に近づいてくる。 
 
「マナツ!竜神様、無事か?」  
 扉を壊す勢いでグレンさんが飛び込んできた。
 
「私たちは、大丈夫よ。それより何があったの?」 
 
「訳は後で話すから、俺と来てくれ!!」 
 竜神様ごとお姫様抱っこされ運ばれる。切羽詰まった表情にただ事じゃないことを悟る。私は、黙ってグレンさんに身を任せた。 

 連れて来られたのはグレンさんの部屋。その奥のクローゼットの中にある隠された小さな扉から隠し部屋に案内された。 

「マナツ!俺かレインが迎えに来るまで絶対にここから出るな!」 
 肩を強い力でわし捕まれた。  

「……解ったわ」 
 こくりと頷くと安心したのか、少しだけ表情を緩めた。でもすぐに精悍な顔に戻ると竜神様に頭を下げた。 

「竜神様!マナツをお願いします。非常の際には竜珠をお使い下さい」 

「あいーっ!」 
 竜神様は、金色の珠を受け取るとピシッと右手を高く背伸びして上げた。 
  
 なんで?竜神様に?そこは私に竜神様を頼む場面じゃないのかな。 
 疑問を口にする前にグレンさんは、名残惜しそうに私の頬をひと撫ですると部屋から出ていった。 


 本当に何か起きているの?
 
 まさか……もう解放軍が攻めてきたの。
 
 レインさんとグレンさんは無事かしら?
 
 不安に駆られ竜神様をギュウと抱き締めると、「へーき」と、私を抱き締め返してくれた。 
 その健気さに、勇気付けられる。私も強くならないと。 

 外が夕やみに染まる頃、疲労を滲ませたグレンさんが戻ってきた。彼の姿を確認し、涙が出るほど安心した。 
 
「グレンさん……無事で良かった」 
 駆け寄り見上げと、グレンさんは私をそっと抱き締めた。壊れ物に触れるような、優しい手つきで。体は強張り冷たくて少し震えていた。 
 
「マナツ……すまない。コハル様が連れていかれた」 
 
「え?小春さんが?そんな……誰に連れて行かれたの?」 
 
「連れ去ったのはアンローザ様ですよ」 
 静かにレインさんが隠し部屋に部屋に入ってきて、告げた声はカサカサに乾いていた。 
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