上 下
45 / 87

東の代理統治長

しおりを挟む
  
 白い神秘的な神殿に、場違いな明彩色が舞い降りた。 
 
 腰まで流れるピンクと黒、僅かに金色の混じる長髪を靡かせな妖艶な美女。 
 鮮やかな桜色のアーモンド型の瞳。瞼には紫色のアイメイクを施し、長い睫毛はクルリと曲がり金色のマスカラで彩られていた。瞬きするたびに優雅な扇のように広がる。すらりと高い鼻梁にシミひとつない白い肌。真っ赤な口紅は優雅に弧を描く。
 
 首元から手首まで隠すように覆われた黒いハイネックの上から色とりどりの蝶をあしらった12単のよう衣を着て、腰は帯ではなく皮のベルトを巻いている。 
 日本の着物より生地は薄く透け間があり、ふわりふわりと風に靡くさまは、蝶の羽ばたきのように美しい。 
 下手をしたら下品になりそうな装いのに、絶妙なバランスで美しい芸術品に仕上がっていた。 

「あら?急なのに盛大なお出迎えありがとう。アタシは始まりが竜の一人、東のアリーヤ代理統治長アンローザと言うのよろしくね」軽くウィンクをしながらアンローザさんは響く美声で挨拶をした。 

 え??ハスキー声? 
 
 女性にしては低過ぎる声質。喉を凝視すると大きく膨らんだ立派な喉仏が。 
 よく観察すると、胸は平らで肩幅も広い。女性らしい腰の括れおしりに丸みはなく……。 
 
 あれ?もしかして、アンローザさんておネエ系男子。  

「あの!アンローザ様は男性なんですか?」 
 単刀直入に怖いもの知らずの小春さんが聞いてくれた。うん、私も気になってたけど、もう少し湾曲して聞いてほしい。 

「そう、男よ!アタシ、美しいモノ綺麗なモノが大好きなの。自分が着飾るのも可愛い子を着飾らせるのもね……あなたも可愛いわね~。ねぇグレン、アタシの荷物は?」 

「大量の荷物ならいつも使用する東の角部屋だ」 

「うふふ、ありがとう~。ちょっと聖女候補借りるわよ」 
 アンローザさんは私と小春さんの手首をむんずと掴みと引きずる勢いで歩きだした。

「え?」 
「きゃ!」 
 やっぱり男性だわ、手は大きいし力は強い。  

「すいません二人とも、アンローザ様の気がすむまで着せ替え遊びに付き合って下さい」 
 驚く私と小春さんにレインさんがにこやかに声をかける。 

「今回は、俺たちじゃなくて助かるな……マナツ様、竜神様が昼寝から覚めたら迎えにいくから心配するな」グレンさんは珍しく愛想良く私たちに手を振り見送る。 

「相変わらず下らない趣味です」 
 ブランドさんはアンローザさんを鼻で笑うと、蕩けるような笑顔で乳母車でお昼寝中の竜神様の頬をつついた。 
  
 起きるから止めてほしい。  

「あら?ブランドまだ居たの?副統治長に早く帰って仕事しろって催促されてるんじゃないの?」 

「な、なぜ其れを知っているんだ?」 
 ぎょっとした顔でアンローザさんを睨んだ。 
 
「アタシは風竜よ!風に乗って沢山の情報を知ることができるわ」
 
「早く帰せと言われ、私たちも板挟みで困っているんですよ」レインさんはこれ見よがしにため息をついた。 

「まあ!神官たちまで困らせて!!ブランドあなた……仕事だけは真面目にする子だったのに」 
 母親がダメ息子を叱る図のようになってる。 

「……竜神様が可愛いのが悪いのです!あと2日!いや3日したら帰ります」 
 ブランドさんは寝ていた竜神様をひしっと抱きしめた。気分よく寝ていたところを起こされ、怒った竜神様に頭づきを食らう。 

い、痛そう。 

「竜神ちゃんにはベンダルがいるのに、不毛ねー」
 痛みに踞るブランドさんを横目にアンローザさんは部屋を出た。 


  
  
  

 東の部屋は角部屋で天井も高く大きな窓があり日当たりもよい。 
 アンローザさんは部屋の中にところ狭しと並べられたスーツケースの中から、次から次に豪華なドレスを出した。色とりどりのきらびやかな衣装の海。 

「まあ!これも可愛いわ!これも素敵。それじゃ、アクセサリーはコレかしら?口紅はピンク?あらあら!赤もいいわ~」 

 アンローザ様は鼻歌まじりで楽しそうに、私と小春さんをお人形のようにアレコレ着せ替えさせ遊んだ。 
 着飾るのが、苦手な私は五枚目にして疲れた。 

「これも素敵です!似合いますかアンローザ様」 
 疲れ知らずの小春さんはきらびやかな衣装を纏い可愛いらしくクルリと回る。 
「ええ、とてもよく似合っているわよ」 
「嬉しいです!アンローザ様!」 
 小春さんは頬を薔薇色に染め、アンローザさんの腕に抱きついた。うるうると上目遣いであざとく見つめる。  
 小春さん……毎度のことながら守備範囲が広いわ。アンローザさんのことも気にいったのね。 
 私がげんなりしているとアンローザさんはとんでもないことを言った。 

「あらあら、コハル様可愛いわ!聖女候補なんか止めてうちの子になる?私の領地においで」
   
「え?私がですか?」 
 小春さんは満更でもない様子でうっとりとアンローザさんと見つめる。 

「真夏さんじゃなくて私ですか?」 
 
「そう、コハル様よ」 
 
「嬉しいです!でも、真夏さんに悪いですから」 
 小春さんは自分が選ばれた優越感からか、得意気な私を視線を投げた。 

「だって、コハル様は真の聖女にはなれないでしょう?竜神ちゃんに嫌われちゃってるから」 

「え?」 
 優越感に浸っていた小春さんの表情が曇った。
 
「レインに聞いたの、竜神ちゃんに拒否されてお手当てから外されたんでしょ?」憂いを帯びた表情。 
 
「違うんです!きっと真夏さんが竜神様に私を拒否するよう命令してるんです……だから、私。悲しくて……って、うっ、」 
 ポロポロと茶色掛かった瞳から宝石のように涙がこぼれる。芝居のように大袈裟に小春さんはアンローザさんに抱きついた。 
 庇護欲を掻き立てる姿に、まるで私が本当に虐めてるみたい。 

「私、命令なんてしてないわ」 
 ぼそっと囁くが小春さんの泣き声にかき消される。わざと?わざとよね! 
 
「コハルさま、嘘はつくな!マナツ様は竜神様に命令してない。竜神様が拒否されたのは、お前が真摯にお手当てしてこなかったからだ」
 竜神様が起きたからと私を呼びに来た、グレンさんが助け船を出してくれた。 

「うっ、うっ。真夏さんはいつも言葉巧みに神官さんを味方につけて私を虐めるんですー。助けてくださいアンローザ様」 

「まあ?そうなの……かわいそうに」 
 アンローザさんは小春さんの髪を撫でた。
 
「アンローザ様、コハル様で遊ぶのはほどほどにして下さい……勝手に自分の子にして領地に持ち帰ろうとするのも禁止です!」 
 部屋に入って来たレインさんがアンローザ様を笑顔で諌めた。目が笑っていないから怒っているわ。 
 
「えー?駄目?聖女候補三匹居るんだから、一匹位私に頂戴よ。役にたたないこの子で良いから」 
 アンローザさんは小春さんを後ろから抱き締めた。 

 ぴき?私たちの単位は匹なの? 

「私、役にたたなくなんかありません!」 
 涙の引っ込んだ小春さんは堪らず抗議した。 

「あら?泣き真似はもういいの?滑稽で可愛かったのに。コハル様、竜神様には誰も命令出来ないのよ。腐っても神様だからね。一度嫌われたら最後、でも盛らない限りコハルの様のことを好きにはならないわよ」 
 酷く艶やかに残酷にアンローザさんは微笑んだ。 

 


「………………媚薬」 
 暗い顔でポツリと小春さんが呟く。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

処理中です...