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居たたまれない。

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「やっぱりマナツ様には、落ち着いたアメジスト色がお似合になりますよ」  
 
「こちらのエメラルド色はどうですか?」 
  
 ノコアちゃん率いる侍女部隊に完全包囲された私は、すでにヘロヘロである。 
 着せ替えゴッコのお人形のように、次から次にドレスを着せられ、装飾品を付けられいる。 
 なぜか……化粧までノコアちゃんが楽しそうなので良しとする。 

 レインさんが部屋に来た用事は式典用のドレスの試着だった。 
 隣国の方々を招待し竜神祭が開催されるその時に、私達聖女候補を紹介する予定。 
 買い物嫌いの私を考慮して、館に商人さんを呼んでくれたのだ。 
 
(買い物も苦手だけど……着飾るのも苦手だわ) 

『着飾っても変わらない無駄無駄』 
 モラハラ元クソ夫の顔が過る。 
 はあっ……嫌だなもう結構経つのに思い出す。振っ切れたつもりでいても、ふっと墨を落としたように不安が広がる。まるで呪い。

「マナツ様大丈夫ですか?」 
 私の暗い顔つきを心配したのか、レインさんが声をかけてくる。 
 いつの間に部屋に入ってきたの?気配を感じなかったわ。 
 グレンさんもレインさんも女性の部屋にずかずか入るのはどうかと思う。 
 
「これは、化けましたね!素晴らしいですマナツ様」 
 レインさんはドレスを着て、化粧まで施された私を見ると、薄く微笑む。 

「レインさん、はっきり化けたと言いましたね!」 
 
「はははっ、妖精のように美しいということですよ。グレンも喜びます」 
 白々しく笑うレインさん。 
 グレンさんは関係ないと思うけど、まあ、一乙女として反応は気になる。 

 
「すまん遅れた!マナツ様、終わりそうか?」 
 当のグレンさんが息を切らして入ってきた。グレンさんはレインさんを睨むと怒り始める。
 
「レインお前!煩わしいからとアヤノ様の対応を俺に押し付けるな!自分も商人から式典の衣装を買うと喚き散らしてたぞ」 
 
「そうですか……本当に困った人ですね。アヤノ様は既に十分ドレスをお持ちなのに」 
 レインさんの双眸が三日月のように細くなる。綾乃さん聖女候補の予算半年分を使い果たしたのに、まだほしいなんて……買い物依存性なのかしら?困った人だわ。  

「ちょっと待って!聖女候補予算残り半分なんでしょ?私のドレスも今あるので十分よ!」 

「駄目ですよ!今あるものは式典用には地味過ぎます。マナツ様の美しさを引き立てるドレスを頼むんです!」速攻でノコアちゃんに却下されてしまった。 

「……マナツ…様?」 
 今やっと私の存在に気づいたのかな? 
 グレンさんの視線が私に止まり、驚きに見開いたまま石像のように固まった。
  
「グレンさん…どうしたの?私のドレス姿そんなに変?」 
 そんなに固まるほど、ドレス姿の私は似合わないのだろうか?不安になる。 
 じーっと上目遣いで見上げると、グレンさんの目元が少しずつ赤くなった。

ーそして。 
 
「わ、悪くない」 
 ポツリと呟くとグレンさんは反対方向を向いてしまった。 
 
「はい?悪くないって誉めてるつもりなんですか?」
 
「誉めてるぞ」
 
「グレンはマナツ様が美し過ぎて直視出来ず、照れていますね」 
 揶揄する口調のレインさん。  

「グレン様、頑張って!もっとしっかりマナツ様をお褒め下さい!」なぜかグレンさんを応援するノコアちゃん。 

(グレンさんが照れてるの?……そう……誉めてるつもりならいいわ)
  
 なぜだろう?赤い顔のグレンさんにつられて私の顔も赤くなる。
  
 私とグレンさんを見守る侍女さんとレインさんの視線が生暖かい。
 
い、居たたまれないー。
  
「そ、それより!レインさん約束守って下さいよ」 
  
「はい、竜神様のマントの件、こちらからお願いしたいぐらいです。了解しましたよ!」 
 
「は?マント」 
 訝しげなグレンさんにレインさんが説明してくれた。 
 今度の式典に参加する竜神様が、興奮して呪いを放出しないよう、対呪い用マントを作成したいと申し出た。 
 布地はレインさんに準備してもらい、私は手縫いで思いを込めて縫う。 
 それにくるめば、慰問会での阿鼻叫喚再びを防げるはず!
 マントを縫うついでに、腹巻きと帽子もこっそり編もう作戦決行予定である。
 
「手縫いって……お前また倒れたいのか?」 
 グレンさんの機嫌が急降下した。 

「大丈夫よ!今度は絶対に無理しないわ。倒れてグレンさんに迷惑かけないから」 
 応急処置口づけさせるつもりはないから安心してほしい。

「グレン……心配なのは解りますが縫い物を禁止して、何処かでひっそり倒れられるより、監視下に置いた方が得策ですよ。マナツ様はどーしても竜神様に腹巻きを編みたいようですから…」 
 ニコニコとレインさんは微笑む。こっそり編もう作戦、既にレインさんにバレていた。 

 渋るグレンさんを説得し、承諾をもらう。喜ぶのも束の間、綾乃さんが部屋に押し掛けてきた。 
  
「狡い!私もドレス!!」と、大暴れするので、神官見習いとグレンさんに摘み出された。左右の腕を捕まれ捕獲された宇宙人のごとく自室に連行される。レインさんに説教されるそうだ。
  
 アヤノさん、レインさんラスボスを余り怒らせない方がいいと思う。 

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