上 下
40 / 87

朝食と勘違い

しおりを挟む
 
 レインさんの指を咥えて別れたあと、グレンさんと合流し厨房で朝ご飯を作る。 
 
 今日のメニューは野菜たっぷりポタージュグラタンとイチゴ蒸しパンである。 
  
 竜神様はいい子で「ギュロ、ギュロ」言いながら、左側に抱っこされ、ご飯を作りを見学している。左腕に乗る重さがうれしい。芋虫のときより確実に伸びて大きくなった証拠だから。 
 いとおしくてすりすり頬擦りすると、もふもふした肌触りと温かい感触。竜神様も大きな瞳を瞬かせて、お返しとばかりに私に頭を押し付ける。ちゅっと小さなおでこに口づけた。

「……羨ましい」   
ポツリと呟いたのは、ブランドさんだった。 
「私も竜神様に口づけしたい」  
 ブランドさんは欲望に忠実なようだわ。竜神様の真横にそーと近寄り横頬に、こっそり口づけしようとして一噛みされた。 
「い、いたたた!!」 
「ブランド様、また治療します!」 
 グレンさんの眉間のシワが確実に今、増えた。 

 
 竜神様専用の食堂で私、竜神様、ブランドさん、グレンさんでテーブルを囲む。 
 レインさんの分はノコアちゃんにお届けを頼んである。今レインさんは、神官長として書類に向かい神官室に籠っている。 

 滞在初日、ブランドさんは用意された豪華な神殿料理を拒否し、竜神様と同じ物が食べたいと駄々をこねた。結果、料理長と協力して私が作るはめに。 
  
 注意すべき点は、ブランドさんが竜神様の苦手な野菜を食べてしまうこと。 
 この前の嘔吐下痢で過度の餌付けが禁止されたので、竜神様に良く思われたいブランドさんは苦手な野菜を食べることで評価を上げようとしている。 
 大の大人が、好き嫌いを増長させてどうするのかしら?本当に困るわ。 
  
 竜神様も学習して苦手な野菜があるとわしづかみ、「ギュロ?」っと、可愛く小首をかしげてブランドさんに押し付けるようになってしまった。 
 その可愛いさに悶絶して転がり、竜神様の手で潰された原型のわからない野菜を嬉しそうに咀嚼するブランドさんに周囲は引きぎみ。 
 
「グレンさんもどうぞ!」  
 ことりとお皿をグレンさんの前にも置いた。 
 
「マナツ様、俺の分まですまない」 
「あっ!」  
 スプーンをフォーク置こうとして手が滑った。からーんと床に転がってテーブルの下に転がる。 
 中腰になり奥に転がったスプーンを拾って立ち上がった。そのとき、踵が何か硬い物を踏んだ。バランスを崩した私は後ろに倒れそうになりーー。 
 
「おい!大丈夫か!」
 すかさずグレンさんが、腕を伸ばし私を後ろから抱き止めた。倒れないようしっかりとお腹に両腕がまわされている。腕の逞しさに熱さに、先日を思い出しドキリとする。 
 
「グレンさん、ありがとう!転がらなくてすんだわ……グレンさん?」 
 もう大丈夫なのに離してくれない。きつく抱きしめられ、しきりに首後ろの匂いを嗅がれた。 
 
ちょっと、鼻息がかかりこそばゆいから。
 
「んっ」
「ちっ、レインの色がこんなについてる」 
 舌打ちまでして、苛立ちを隠せない。 
「ちょっとグレンさん、なにして!!あっ!」  
 首後ろをペロリと舐められ、ハムハムと唇で甘噛みされた。ぞくんと皮膚が粟立ち、体が跳ねてしまう。
  
「よし!これぐらいでいいだろう」 
 満足したのかグレンさんは私を腕から解放した。 

「よし、じゃあ、ありません!朝っぱらから止めて下さい!」確実に心拍数の上昇した胸を押さえ、抗議した。 
 
「朝じゃなければいいのか?」 
「朝じゃなくても、お触り禁止です!」 
 しごく真面目に問われでも、必要以上の接触は禁止させて頂きます。 
  
 周りに竜神様もブランドさんも侍女さんたちも居るのだから、仕事中は節度を持って接してほしい。
 ノコアちゃんたちは優秀な侍女で、見ていない振りをしてくれるけど。 
 ブランドさんはまた「羨ましい」と、呟いた。 
 
 
 
「……レ…イ……なら……いい…の…か?」 
 グレンさんは前髪をぐしゃぐしゃにしながら何か囁いた。その前は小さすぎて断片的にしか聞こえなかった。 
 聞き返そうと思ったけど、腹を空かせ限界だった竜神様がお皿にスプーンを叩き騒いだ。 

「ギュロ!ギュロ!!」 
 
「グレン、聖女マナツ。戯れはそのぐらいにして下さい。竜神様が朝食を御所望です」 
 
「ごめんなさい!すぐに準備するわね!」
 ノコアちゃんたちも手伝ってくれたので、あっという間に朝食の準備ができた。  
 
「ギュロロロ!」 
 ブランドさんは竜神様にグラサンを食べさせる。嬉しそうにしっぽを動かす竜神様を蕩けるような視線で見つめ、もふもふ毛皮を堪能してる。 

 それにしても、この人ブランドさんいつまでアーガストに滞在するのだろう。
  
 かれこれもう、1週間は経つけど。彼の代理統治する西のサイレイクは大丈夫なのかしら?  
 
 でれでれのブランドさんを呆れて見ながら、朝食のグラタンを口に入れる。 

「ん!いた!熱い!」 
 思ったより熱々だったグラサンが、腫れた口の中に染みる。
 
「おい!大丈夫か?そんなに熱いか?」 
 グレンさんが差し出してくれた水をごくごく飲んだ。
「はぁっ。ありがとうグレンさん。もう、レインさんが無理やり口に突っ込むから、奥が腫れちゃったわ。だから余計熱く感じるのよ」 

「…………無理やり……何を突っ込まされたんだ!!」 

「え?ナニって?」
 
「レイン、許さねえ」  
 
「ひっ!グレンさん」 
 
 ゆらりと立ち上がったグレンさんは鬼のような形相をして食堂から飛び出して行った。 
 
 グレンさん、絶対勘違いしてるわ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達
BL
母親の借金でヤクザに連れ去られてしまった少年。目の前で母親を殺された上に殴られ躾だと言われ暴力を振るわれる毎日。いつ売り飛ばされるのかも分からず恐怖の毎日だった。そんな日々から逃げ出すために逃亡を試みるが…。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...