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新しいお仕事
しおりを挟む何も言えず下を向き、繭玉様を撫でる私にグレンさんが話しかけた。
「アヤノがお手当てせず居なくなって一週間。アヤノの分は俺やレイン、手の空いてるコハル様の神官見習いを手を借り竜神様のお世話は出来ている。たいした不都合はない。ただ……」
グレンさんはもうアヤノさんに様をつけることはないんだわ。
悲しいけど、これは彼女が起こしたこと。誠意を持って接した彼らを裏切ったのは彼女だから。
彼女が心から反省して、一生懸命ポーション作りに取り組んだら、また道は拓けるのかも知れない。
気持ちを切り替えようと息を吐く。私は私の出来ることをするしかないのだから……。
「ただ?」話を促す。
「今のお手当て体制だと、繭玉から羽化するまで膨大な時間がかかるんだ」
「そうなんです。年単位かかりそうなので、1ヶ月半後の式典に間に合うようマナツ様のお力を御借りしたいのです!」
「私の力?えーと、今のお手当て体制でも、隅凄いってレインさんに言われる位、疲れ果ててるのに……仕事増えたらまた倒れて迷惑かけちゃうわよ!」
既にキャパオーバーなのに、責任取れない新しい仕事を安請け合いはできない。
拒否する私にグレンさんとレインさんの声がぴったり合わさって聞こえた。
「大丈夫だ!俺がマナツ様を支える」
「大丈夫ですよ。私がマナツ様を支えますよ」
ーーーと。
そうして、二人に強引に押し切られる形で新しいお仕事をすることになってしまった。
◇◇◇
いつもの竜神様のお部屋の高い天井を見上げ、何度かのため息をついた。大きなベッドの中央でお腹の上の繭玉様を抱きしめる。絶賛竜神様に聖なる力を与えてお手当て中。夜の方がぐんぐん吸収する。
(はあっ。なんで、こんなことになったんだろう?)
「大丈夫かマナツ!体が辛いのか?」
私の右隣に寝ていたグレンさんががはっと上半身を起こした。
「マナツ様、お疲れでしたら、私が応急処置しますよ」私の左隣に寝ていたレインさんはにこり笑顔で私の頬を撫でる。
「あー、大丈夫です」
赤い顔、バクつく心臓を悟られないよう、真顔でお断りする。
「レイン!次は俺だと言ったぞ」
「私はまだ1回なので」
にこにこと私を挟み言い合いをする二人。
整った美しい顔、瞳と髪色は異なるけど、息を飲むほど美しい。
私の為に争わないでシチュエーションかと思いきや、ただ二人の仲良きイチャつきを見せられているだけ。
真面目なグレンさんをレインさんが私をダシにからかって遊んでいる状態。間に挟むの止めて欲しい……ドキドキして心臓に悪いから。
アヤノさんのお手当てだった日と私のお手当て日に竜神様と神官さんと添い寝すること、それが私の新しい仕事。
1ヶ月半後の式典までに竜神様を羽化させるには、膨大な聖なる力が必要。子供と同じて成長するのに昼間より夜間の方が効率がいいんだって。
私は、竜神様と添い寝する前に、神官さんどちらかに応急処置してもらい聖なる力を補給する。
補給した力を夜の間中、羽化促進のため竜神様に与え続ける。
高濃度の栄養を夜間ドーピングするイメージかな?
いつも自然に竜神様から溢れる呪いを浄化しながら、聖なる力を与えて居るんだけど、それだと効率が悪いので、神官さんどちらかが一緒に添い寝する。呪いの浄化は全て神官さんにお任せし、私が浄化しない余剰分も羽化の栄養に当てられる。
二人の魔力、体調を心配したけど、ポーションと竜玉に単語貯めた聖なる力で回復するので、大丈夫とのこと。
「竜神様の為、ひいてはアーガストのためです!」
そう説得され添い寝することになった。
これって端からみたら、神官見習いを侍らす小春さんと変わらないのでは?
「グレンさんもレインさんもいくら竜神様の為とはいえ、私と添い寝しても大丈夫なの?神官長としての立場もあるでしょう?」
竜神様の為とはいえ、同じ寝室に添い寝したら男女の関係にあると穿った見方をする人も必ずいる。
二人が悪し様に言われるのは嫌だわ。
「マナツ様はお優しいですね。ご心配には及びませんよ」
「ああ、心配するな!言いたい奴には言わせておけばいい」
二人とも、竜神様の為と割り切っているのか、拍子抜けするほど、さっぱりした返答。
はあっ……。
毎日になる応急処置を意識してるのは……私だけかも。
女の子として思われてないと思うと、ちょっと切ない。
でも、そっちが意識してないのに、私だけするのも疲れるので。
私は目を瞑り、仕事に集中する。暖かい竜神様の心音を聞きながら聖なる力を注ぎ込んだ。
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