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上手い話には裏がある。
しおりを挟む「キャー聖女様!ありがとうございます!」
「聖女様ー!!我らの希望ー!!」
「どうか、どうか聖なる力で竜神様を救ってくださいー!!」
「三人とも美しいなー!聖女様!」
聖女様、聖女様と群集は口々に私達(聖女候補)を絶賛している。綾乃さんが手を振るとわっと群集が沸く。
「おお、なんと華のある聖女様だ!」綾乃さんを褒め称える男性の大声に、負けじと小春さんが手を振る。また、わっと群集が湧いた。
「黒髪がなんとも神秘的だー!」
「清楚な品位を感じるわ」
こちらは小春さんを絶賛している。
綾乃さんも小春さんもバルコニーから神殿に押し寄せた民衆を眺め。満足気な恍惚な表情を浮かべ顔を紅潮させている。
(上手いわね~。二人の優越感と自尊心を煽り捲っているわ)
かくゆう私はそれを二人の後ろから冷静に観察中。神官の二人は竜神様のお手当ての具体的な説明もせず、民が押し寄せているからとバルコニーに私達を連れてきた。
(怪しいわよ、ここまで期待されたら断りにくいわ、竜神様のお手当てってもの凄く大変なんじゃない?)
はあっとため息をつくと私を観察していたらしいグレンさんと目が合う。
「……お前は馬鹿じゃないんだな?」
二人に聞こえないよう、そっと耳元で囁かれ親しげに肩に手を置かれた。
その手を失礼にならない程度にゆっくり引き剥がし距離を置く。
「私は、日本に……住んでいた場所に返してもらえればそれで良いですから。その間の衣食住、竜神様のお手当て代は期待してますよ。お願いしますね」イヤミたっぷりににっこり微笑んだ。
民衆の声援の続く中、王座の前に戻ってきた。高揚感覚めない二人と夜勤明けで寝不足の私の前に神官のレインさんが恭しく誓約書を差し出す。
「聖女候補として竜神様と契約をして頂きたいのです」
「聖女候補と竜神の双方の権利を護る為に必要なことなんだ」グレンさんに念を押された。
(怪しい、怪しすぎる。詐欺の押し売りみたいだわ、クーリングオフはあるかしら?)
「ふん、おばさんは、判断が遅いし人を信用出来なくていやね~」
小さな文字まで見逃さないよう食い入るように読む。用心深い私を綾乃さんが嘲笑う。
「…じゃあ幼い綾乃さんだったっけ?お母さんに上手い話には裏があるって教わらなかったの?」
「な?教わったわよ!この私が騙されるわけないでしょ!」
「私達は聖女ですし、尊い聖女を騙す人なんていませんよ」ふわふわと小春さんが微笑んだ。
駄目だわ。
この二人……聖女様と媚びへつらわれ冷静な判断力が欠けている。よく考えて欲しい、大義名分を掲げ聖女召喚と言うけどやってることは拉致だからね。
要約すると聖女候補三人で1日ごとに交代で竜神様のお手当て(お世話)をする。
聖女候補は竜神様を第一に考え誠心誠意仕えること。その間は衣食住を提供しお給料を払うことを国が保証する。聖女候補が真心を込め竜神に仕える限りアーガスト国は神官は民は聖女候補を敬い尽くすだろう。
竜神が回復した暁には、一番竜神を癒し貢献した聖女候補を真の聖女と定める。
残った聖女候補にも恩賞を与え望めば自国に帰還させてくれるという。
(……真の聖女ってなんだろう?謎だし成りたくない代物だわ。うーん、竜神のお世話を拒否は出来なそうだし、タダじゃあ帰してくれないわね。衣食住、お給料、恩賞とう貰えるなら竜神のお世話悪くないわね)
看護師のクセにお金に汚いと言われるけど、労働による対価は重要だわ。ナイ◯ンゲールも言ってる、お給料はキチンと貰いなさいと!
「解った!戻いた時間と場所に帰れるなら良いわ」
私は、覚悟を決め契約書にサインをした。仕事と思えば多少きつくともなんとかなるだろう。
「ありがとうございますマナツ様!」
「やっとかよ、竜神様が待ちくたびれてるぜ」
グレンさんは、私達を豪華な家具のある部屋に案内した。広い部屋にキングサイズのベッドがあり、その真ん中にポツンと黒い塊があった。
体長50センチ位の芋虫のような黒い塊はもそもそ動く。それが動くたびに周囲に腐敗臭が漂う。
「ひっ?なに?何なの!」綾乃さんが悲鳴をあげた。
「きゃあ!い、芋虫?私、虫は苦手です」
小春さんはちゃっかりグレンさんの腕を掴んだ。
「ま、まさか……これ…が?」
「はい!このお方が今日から聖女様がお世話をする竜神様です」悪びれもせずレインさんはにこやかに微笑んだ。
人にも、とかげにも見えない竜神様は芋虫に似ていた。呪われているのか全身どす黒く、禍々しい。長いしっぽは腐って根本から取れそう。異様な腐敗臭が鼻につく。
………やっぱり上手い話には裏があるのね。
「頼むぜ、聖女候補様」
ニヤリと挑戦的にグレンさんが笑った。
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