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4章 因縁の姉妹

23 縁切り1

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エリカの近くには、苦々しい顔をしたエドワードがいた。ギルドマスターの会話に紛れてひっそり話していたらしい。

「エリカ……騙していたのか? どうしてそんなことを言うんだ!」

「騙してたって、あんたらが勝手に勘違いしただけじゃない! 運命の糸が見えた気がしたけど、違ったんだもん。ヒューゴ様にたしかに繋がってるんだから仕方ないでしょ?!」

「結ばれるためにはクレアやナンシーが障害だと言ったのも嘘だったのか? 俺はなんのために……本当はするべきではないと思っていたのに!」

「ちょ、ノリノリだったくせに急に正義面するのやめてくれる? そういうとこが使えないのよ!」

あまりにも大声で明け透けな罵倒が繰り広げられる。エリカとエドワードが罵倒し合うとか夢かなにかを見ているみたい。

「いつかこうなりそうだなーと思ってたけどさ。あたしらもいること忘れてる? こいつら」

「無料オペラ気分も、もう終わりだよね~」

ヒートアップするエドワードとエリカの罵り合いに、レオンも参加し始める。反対にギルドマスターやレナード、ミリアたちは呆れかえっているみたいだった。

「もう、みっともないからやめて」

我慢できず、つい口に出してしまう。

「クレア……! すまない、俺は君を追放するべきではなかった。エリカに騙されていたんだ!」

「やめてっていってるの! もう、聞きたくないのよ」

エドワードが苦しそうに懺悔するように語りかけてくる。けど、その言葉をあえて聞かないようにした。

拾ってくれたことは感謝している。

依頼の最中に魔物に襲われる子供をなんの見返りもなく助けたり、正義感のある頼れる人だと思っていた。

でも、もうそのエドワードはどこにもいない。

「私の追放を最後に決めたのはエドワードでしょう。それに、ナンシーを置いていった時点で、騙されていたとか間違っていたとか関係ない、許せないのよ」

私はすうっと息を吸って唱えた。
 
「スリープ」

エドワード、レオン、エリカに向かって、眠りの呪文を唱える。

このまま警備隊に頼んで強制送還してもらいたい。もう正直変わってしまった皆は見たくなかった。

「……やっぱり、やっぱり全部お姉ちゃんのせい! お姉ちゃんがいるからあたしは幸せになれないの!」

「エリカ?!」

なぜかエリカが眠っていなかった。

「もしかしてこの子、感情が昂ると魔力上がるタイプかも。クレアちゃんの魔法がレジストされてる」

ギルドマスターが呟く。鑑定魔法を起動して確かめてみると、エリカの魔力量が覚えているものよリずいぶん高かった。

スリープの魔法をもっと強度をあげて撃つべきか、とにかくなにか考えるべきだけど、エリカの気迫につい気圧されてしまう。

「本当は冒険者なんて嫌だった、優しくてかっこいい運命の相手と結ばれて幸せに暮らすの、そうなるべきなの。ねえ、ヒューゴ様! お姉ちゃんはパパとママの顔覚えてるんですって。でもあたし、パパとママがいなくなっちゃって顔も覚えてないの。愛された記憶もない。お姉ちゃんよりずっと辛いの。お姉ちゃんに騙されてるんでしょ? 大丈夫、全部わかってるから、近くに来てよ!」

「……すみませんクレア。時間の無駄どころか嫌な思いをさせてしまいました」

ヒューゴがそうつぶやくと、エリカの周囲にまたバインドの魔法が走った。紅く光る鎖はエリカの顔に巻き付き、口を覆う。

エリカは口を塞がれながらもなにかを叫ぼうとしているけど、鎖に阻まれてなんの意味も拾えない音の羅列になっている。

「先ほども言いましたが、あなたの運命の人とやらは勘違いかなにかです。私の愛している人はクレアだけ。クレアの血縁といえどもその浅はかな振る舞いと罪深い行いは見ていて不快です。そういうことですので、お休みになってください。ちゃんとエーデルランドには送って差し上げますから」

ヒューゴが指を鳴らすと、エリカは力なく倒れ込む。気絶したみたいだった。

「これ、告白だよね?」

「いやあ、いいもん見せてもらったね」

「いや、そんなことよりヒューゴ、お前まだそんな隠し玉を……」

ミリア、ナンシー、レナードが順に呟く。

頬や手がどんどん温かくなっていくのを感じる。それは、公開告白レベルの発言が恥ずかしかったからじゃなくて……。

私、やっぱり、どうしてもヒューゴのことが好き。

エリカがヒューゴのことを運命の相手っていったとき、苛立ちのようなものを感じたのも。

さっき、ヒューゴが私を愛しているといってくれて安心したのも。

エドワードのパーティから離れるときは、簡単に諦められたけど、ヒューゴとは離れたくないって、どうしようもなく気づいてしまったから。

「あー、ということで、とりあえず弁償はこちらで賄いますね。あと、エーデルランドへの強制送還なんですけど、ギルドへの連絡私がしても大丈夫ですか?」

ヒューゴはミリアとナンシーが茶化すような目で見てるのを気にもせず、ギルドマスターに話しかけた。

「あ~うん、ヒューゴくん顔広いんだっけ? じゃあ頼むわね~。あと、さっきも言ったけど弁償はいいわよ。クレアちゃんたちのおかげでなんだかこの街に冒険者増えたしね~みんなで使う物だしいい機会だから改修しちゃうわ」

「お、いいねマスター! 酒場みたいにして吟遊詩人呼べるスペース作らない?」

「そんなお金はないわね~というか二人にも手伝ってもらうからそのつもりで、ね」

ミリアとレナードがあからさまにうなだれた。

「とりあえず、これで解決、なのかな」

「そうなんじゃないかい? あー、まったく疲れたねえ。まさかエリカがギルド壊すと思わなかったし、流れで来たとはいえ正直眠いわ」

「そうですね。さすがに疲れましたし。そうだ、レナードさん、ミリアさんにも後で報酬をお渡ししますので。とりあえず部屋に帰りましょうか」

私たちは頷いて、それぞれの部屋に戻った。ナンシーも一泊してからエーデルランドに戻るらしい。

エリカたちにはヒューゴがバインドをかけ、エーデルランドからくる馬車が来るまで昏睡状態で寝かせておくことになった。
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