37 / 39
アップデート
しおりを挟む
ちょうどいい場所が無くて昨日と同じカフェに三人で入る。店員さんに顔を覚えられていないといいなぁ。
僕がオレンジジュースを頼むと、堂本さんにそれが好きなんだなと言われた。そうじゃないけどそれでいいです。朝川さんはケーキセットを頼んでいた。強い。
「で、どういう相談なんです? 唄さんとのことですか?」
「その通り。今から説明するから、忖度無しで答えてくれ。決して怒らないことを約束する」
本当かなぁ。一抹の不安を抱えながら、堂本さんと僕で朝川さんに土曜日のことを伝えた。そして、そこからの堂本さんの考えも。
途中から朝川さんの瞳に光が入らなくなった。大丈夫じゃなさそう。
「どうかな」
どこか満足気な堂本さんが尋ねる。朝川さんが間髪入れずに答えた。
「最初から最後までアウトの発言しかないです」
「最初から!?」
堂本さんが声を荒げそうになるのをぐっと堪える。ここがどこだか思い出したのだろう。
足を組み直し、引きつった笑顔で先を促す。
「続きをどうぞ。全然怒らないから」
その声を聞いているだけで僕は居たたまれなくなる。朝川さんは平気そうな顔で堂本さんを見ていた。
「とりあえず、おじさんが若い人に付きまとっている時点でアウト、言っていることもアウト」
「俺はおじさんじゃない」
「立派なおじさんですよ。見た目も言動も」
「見た目も言動も……!?」
相当なショックを受けたようで、堂本さんは朝川さんの辛辣な言葉を何度も反芻していた。
だよね。年下の女性をおばさん扱いするくらい、自分のことお兄さんだと思ってたんだもんね。そこから間違っているんだけど。
「俺は、おじさんなのか……」
堂本さんはしばらく俯いていた。飽きたのか、朝川さんが僕に目配せをしてくる。もう帰ろうか。そう思ったところで、堂本さんが顔を上げた。
「頑張る。変わる。俺が全て悪かった。本当に申し訳ない」
僕は目を見張った。
いくら言っても謝らなかった堂本さんが。
しかも、変わると言った。あの堂本さんが。
堂本さんは女性が好きだから、多分、もう唄さんをそういう対象として見てはいないと思う。それでも、唄さんのことを考え、自分が悪いと理解した。
「申し訳ないと思うなら、是非それを本人に伝えてください」
「ああ、もちろん」
「ただし、唄さんが謝罪を受け入れなくても怒らないでくださいよ。謝られても許すかどうかは唄さんの自由なんですから」
「え、そういうものなのか……?」
まだアップデートが必要な気がする。でも、子どもの僕たちがそれらを教えられるはずもない。
子どもだって大人だって、知らないことは沢山あって、全てを理解している人なんていないのだから。
「ありがとう。また何かあったら教えてほしい」
「じゃあ、校門で待ち伏せされるのは迷惑なんで、今度からはスマホに連絡ください」
「教えてくれるのか!」
連絡先を教えるつもりはなかったけれど、変わってくれた堂本さんに免じて交換することにした。朝川さんが横で半分呆れた笑顔をくれる。
損なことをしていると思う。でも、ちょっとだけ彼の行く道がどんなものか興味が出てしまったんだ。まだ道半ばの堂本さんが突撃するであろう、唄さんのことも心配だしね。
僕がオレンジジュースを頼むと、堂本さんにそれが好きなんだなと言われた。そうじゃないけどそれでいいです。朝川さんはケーキセットを頼んでいた。強い。
「で、どういう相談なんです? 唄さんとのことですか?」
「その通り。今から説明するから、忖度無しで答えてくれ。決して怒らないことを約束する」
本当かなぁ。一抹の不安を抱えながら、堂本さんと僕で朝川さんに土曜日のことを伝えた。そして、そこからの堂本さんの考えも。
途中から朝川さんの瞳に光が入らなくなった。大丈夫じゃなさそう。
「どうかな」
どこか満足気な堂本さんが尋ねる。朝川さんが間髪入れずに答えた。
「最初から最後までアウトの発言しかないです」
「最初から!?」
堂本さんが声を荒げそうになるのをぐっと堪える。ここがどこだか思い出したのだろう。
足を組み直し、引きつった笑顔で先を促す。
「続きをどうぞ。全然怒らないから」
その声を聞いているだけで僕は居たたまれなくなる。朝川さんは平気そうな顔で堂本さんを見ていた。
「とりあえず、おじさんが若い人に付きまとっている時点でアウト、言っていることもアウト」
「俺はおじさんじゃない」
「立派なおじさんですよ。見た目も言動も」
「見た目も言動も……!?」
相当なショックを受けたようで、堂本さんは朝川さんの辛辣な言葉を何度も反芻していた。
だよね。年下の女性をおばさん扱いするくらい、自分のことお兄さんだと思ってたんだもんね。そこから間違っているんだけど。
「俺は、おじさんなのか……」
堂本さんはしばらく俯いていた。飽きたのか、朝川さんが僕に目配せをしてくる。もう帰ろうか。そう思ったところで、堂本さんが顔を上げた。
「頑張る。変わる。俺が全て悪かった。本当に申し訳ない」
僕は目を見張った。
いくら言っても謝らなかった堂本さんが。
しかも、変わると言った。あの堂本さんが。
堂本さんは女性が好きだから、多分、もう唄さんをそういう対象として見てはいないと思う。それでも、唄さんのことを考え、自分が悪いと理解した。
「申し訳ないと思うなら、是非それを本人に伝えてください」
「ああ、もちろん」
「ただし、唄さんが謝罪を受け入れなくても怒らないでくださいよ。謝られても許すかどうかは唄さんの自由なんですから」
「え、そういうものなのか……?」
まだアップデートが必要な気がする。でも、子どもの僕たちがそれらを教えられるはずもない。
子どもだって大人だって、知らないことは沢山あって、全てを理解している人なんていないのだから。
「ありがとう。また何かあったら教えてほしい」
「じゃあ、校門で待ち伏せされるのは迷惑なんで、今度からはスマホに連絡ください」
「教えてくれるのか!」
連絡先を教えるつもりはなかったけれど、変わってくれた堂本さんに免じて交換することにした。朝川さんが横で半分呆れた笑顔をくれる。
損なことをしていると思う。でも、ちょっとだけ彼の行く道がどんなものか興味が出てしまったんだ。まだ道半ばの堂本さんが突撃するであろう、唄さんのことも心配だしね。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
サンスポット【完結】
中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。
そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。
この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。
※この物語は、全四章で構成されています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ジャグラック デリュージョン!
Life up+α
青春
陽気で自由奔放な咲凪(さなぎ)は唯一無二の幼馴染、親友マリアから長年の片想い気付かず、咲凪はあくまで彼女を男友達として扱っていた。
いつも通り縮まらない関係を続けていた二人だが、ある日突然マリアが行方不明になってしまう。
マリアを探しに向かったその先で、咲凪が手に入れたのは誰も持っていないような不思議な能力だった。
停滞していた咲凪の青春は、急速に動き出す。
「二人が死を分かっても、天国だろうが地獄だろうが、どこまでも一緒に行くぜマイハニー!」
自分勝手で楽しく生きていたいだけの少年は、常識も後悔もかなぐり捨てて、何度でも親友の背中を追いかける!
もしよろしければ、とりあえず4~6話までお付き合い頂けたら嬉しいです…!
※ラブコメ要素が強いですが、シリアス展開もあります!※
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ナナイの青春生存戦略
しぼりたて柑橘類
青春
至って普通の男子高校生、和唐ナナイは平和な日常を求めている。天才にして破天荒な幼馴染、西上コズハの好奇心に振り回される毎日だからだ。
ようやく始まった高校生活こそは守り通そうとしたその矢先、またもコズハに押し切られてエイリアンを捕獲しに行くことに。
半信半疑で乗り込んだ雑木林、そこにはUFOが落ちていた。
〜女子バレー部は異端児〜 改編
古波蔵くう
青春
異端の男子部員蓮太が加わった女子バレー部は、代表決定戦で奮闘。蓮太は戦勝の瞬間、部長三浦に告白。優勝し、全国大会へ進出。異例のメンバーが団結し、全国での激戦に挑む。男女混成の絆が、郭公高校バレー部を異端児として輝かせる。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる