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挑戦
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「また遊びに来てね」
「はい。お邪魔しました」
「またね~」
途中ランチを挟んで十五時、僕は二人に見送られながら朝川家を後にした。だいぶ長い間お邪魔しちゃった。近所のカフェでお昼食べたのも楽しかったな。
「それにしても」
今、僕のスマートフォンには秘密の写真が収められている。朝川さんのファッションショーの後に、僕のメイク画像が保存されているのだ。
──ヤバいヤバいヤバい。これが誰かに見られたら絶対に詰む。
スマートフォンが入っているボディバッグを不自然に掴む。チャックが閉まってるんだから落ちるわけないのに、地面に落とさないか不安になってしまう。
頬を触る。メイク落として洗顔したから無駄につるつる。まだメイクしたまま出歩く勇気はないから落とさせてもらえてよかった。
『今度、メイクして原宿行こ』
さっき朝川さんにそう言われた。勢いに負けて頷いちゃったけど、今度っていつだろう。来週とかじゃないよね、さすがに。この一週間だって僕の心は大嵐なのに、それ以上の衝撃を一気に受けたら吹き飛びそう。
「服、かぁ」
今日は無難な服を着ている。地元で、いつ誰に会うか分からないから。
メイクするってことは、メイクに合う服を着るってことだ。着てみたい系統はなんとなく分かった気がするけど、それを買う自信が無い。というか、買ったものをクローゼットに入れて見つからない自信が無い。
部屋に鍵が付いていないから、掃除の時にお母さんが入ってくる。散らかってたらクローゼットも開けると思う。絶対見つかる。あ、その服だけハンガーに掛けないで、洋服ダンスの奥の方に仕舞えばいいか。
メイク用品は唯一鍵がある机の一番上の引き出しに。それなら、入る分だけ買えばいけるかもしれない。せっかく朝川さんが協力してくれているんだ。僕も自分の物を買ってみたい。
電車の移動時間を使ってSNSで人気の商品を調べてみる。最初に出てきた値段に怯んだけど、次に出てきたラインナップが薬局で買えるプチプラで安心した。
保湿は肌が荒れないようにお母さんが買ってくれた全身用の使えばいいけど、化粧水もあった方がいいよね。あとは下地、ファンデ、パウダー、アイシャドウ、アイライナー……うん、プチプラでも厳しい。
今年のお年玉ほとんど使ってないから、とりあえずそれを使おう。バイトは校則的には大丈夫だけど、部活と両立出来るか不安。短期とか?
日払いか夏休みの短期ならいけそう。メイク用品と一着買うだけなら一週間働けば足りる。よし、頑張ろう。
そういえば、朝川さん沢山洋服持ってたけど資金面はどうしてるのかな。実はお金持ちでお小遣いを溢れるくらいもらえるとか。もしくはバイトしてるとか。明日聞いてみよう。それにしても、今日は充実した一日だったな。
「ただいま」
「おかえり」
帰ったらお父さんが出迎えてくれた。
「お母さんは?」
「買い物だよ」
お父さんとは忙しくてたいてい週末しか話せないけど、仲は良い方だと思う。たまに二人で買い物に行くこともある。
「友だちのところ行ってたんだって? 楽しかった?」
「うん」
「いいね。同じ中学から一緒の子が少ないから心配していたけど、友だちが出来てよかったよ」
そう、中学の皆は自転車で数分の地元の高校が一番多くて、電車通学を選んだ人は思ったより少なかった。学区が無いわりに、結局一番近いところが良いという人が多かったな。あとは私立組か。中学が三クラスしかないからもともと人数も少ないし。
「機会があったらうちで遊ぶといい」
「そうだね」
相手が女の子だって知ったらお父さん驚くかな。そこまで気にしないか。お父さんやお母さんにとっては、まだ僕は小さい子どもと同じだから。
会話もそこそこに自室に入る。深呼吸をしてからスマートフォンの写真フォルダを開いた。
「うう……」
知らない自分がいる。朝川さんのメイクが上手だから見られる程度の顔になっているけど、やっぱり女の子よりごつい気がする。もっと自分に合うメイクを見つけたらマシになるかな。
それとも、自分がそう思うだけで意外と似合っているんだろうか。朝川さんは似合うって言ってくれていたけど、まだ客観的に自分を見る術を僕は身に着けていない。
「髪型も弄ってみたら変わるかも。今日はワックスも付けてないから」
単なるショートカットなのも男っぽい要因かもしれない。でも、この髪の毛の長さは気に入っているから、長さは変えずアイロンで前髪をカールさせたりして可愛い髪型に出来たらいいな。
とりあえず、今度メイク用品見に行こうかな。ネットでも買えるけど、初心者だからちゃんと直接確認しないと失敗しそう。予算内で買わないといけないから、一度の失敗も許されないぞ。
ただ、あとは行く勇気がね……。薬局なら誰にも話しかけられないし、セルフレジにすれば行けるかも。よし、遠くの薬局調べよう。
スマートフォンで近所の薬局の店舗一覧を表示させる。あまりお金がかからないところがいいので、乗り換えなくていい店舗へ行くことにした。
今からだと帰りが遅くなっちゃうから、次の土曜日かな。それまで欲しいものを厳選しておこう。
「はい。お邪魔しました」
「またね~」
途中ランチを挟んで十五時、僕は二人に見送られながら朝川家を後にした。だいぶ長い間お邪魔しちゃった。近所のカフェでお昼食べたのも楽しかったな。
「それにしても」
今、僕のスマートフォンには秘密の写真が収められている。朝川さんのファッションショーの後に、僕のメイク画像が保存されているのだ。
──ヤバいヤバいヤバい。これが誰かに見られたら絶対に詰む。
スマートフォンが入っているボディバッグを不自然に掴む。チャックが閉まってるんだから落ちるわけないのに、地面に落とさないか不安になってしまう。
頬を触る。メイク落として洗顔したから無駄につるつる。まだメイクしたまま出歩く勇気はないから落とさせてもらえてよかった。
『今度、メイクして原宿行こ』
さっき朝川さんにそう言われた。勢いに負けて頷いちゃったけど、今度っていつだろう。来週とかじゃないよね、さすがに。この一週間だって僕の心は大嵐なのに、それ以上の衝撃を一気に受けたら吹き飛びそう。
「服、かぁ」
今日は無難な服を着ている。地元で、いつ誰に会うか分からないから。
メイクするってことは、メイクに合う服を着るってことだ。着てみたい系統はなんとなく分かった気がするけど、それを買う自信が無い。というか、買ったものをクローゼットに入れて見つからない自信が無い。
部屋に鍵が付いていないから、掃除の時にお母さんが入ってくる。散らかってたらクローゼットも開けると思う。絶対見つかる。あ、その服だけハンガーに掛けないで、洋服ダンスの奥の方に仕舞えばいいか。
メイク用品は唯一鍵がある机の一番上の引き出しに。それなら、入る分だけ買えばいけるかもしれない。せっかく朝川さんが協力してくれているんだ。僕も自分の物を買ってみたい。
電車の移動時間を使ってSNSで人気の商品を調べてみる。最初に出てきた値段に怯んだけど、次に出てきたラインナップが薬局で買えるプチプラで安心した。
保湿は肌が荒れないようにお母さんが買ってくれた全身用の使えばいいけど、化粧水もあった方がいいよね。あとは下地、ファンデ、パウダー、アイシャドウ、アイライナー……うん、プチプラでも厳しい。
今年のお年玉ほとんど使ってないから、とりあえずそれを使おう。バイトは校則的には大丈夫だけど、部活と両立出来るか不安。短期とか?
日払いか夏休みの短期ならいけそう。メイク用品と一着買うだけなら一週間働けば足りる。よし、頑張ろう。
そういえば、朝川さん沢山洋服持ってたけど資金面はどうしてるのかな。実はお金持ちでお小遣いを溢れるくらいもらえるとか。もしくはバイトしてるとか。明日聞いてみよう。それにしても、今日は充実した一日だったな。
「ただいま」
「おかえり」
帰ったらお父さんが出迎えてくれた。
「お母さんは?」
「買い物だよ」
お父さんとは忙しくてたいてい週末しか話せないけど、仲は良い方だと思う。たまに二人で買い物に行くこともある。
「友だちのところ行ってたんだって? 楽しかった?」
「うん」
「いいね。同じ中学から一緒の子が少ないから心配していたけど、友だちが出来てよかったよ」
そう、中学の皆は自転車で数分の地元の高校が一番多くて、電車通学を選んだ人は思ったより少なかった。学区が無いわりに、結局一番近いところが良いという人が多かったな。あとは私立組か。中学が三クラスしかないからもともと人数も少ないし。
「機会があったらうちで遊ぶといい」
「そうだね」
相手が女の子だって知ったらお父さん驚くかな。そこまで気にしないか。お父さんやお母さんにとっては、まだ僕は小さい子どもと同じだから。
会話もそこそこに自室に入る。深呼吸をしてからスマートフォンの写真フォルダを開いた。
「うう……」
知らない自分がいる。朝川さんのメイクが上手だから見られる程度の顔になっているけど、やっぱり女の子よりごつい気がする。もっと自分に合うメイクを見つけたらマシになるかな。
それとも、自分がそう思うだけで意外と似合っているんだろうか。朝川さんは似合うって言ってくれていたけど、まだ客観的に自分を見る術を僕は身に着けていない。
「髪型も弄ってみたら変わるかも。今日はワックスも付けてないから」
単なるショートカットなのも男っぽい要因かもしれない。でも、この髪の毛の長さは気に入っているから、長さは変えずアイロンで前髪をカールさせたりして可愛い髪型に出来たらいいな。
とりあえず、今度メイク用品見に行こうかな。ネットでも買えるけど、初心者だからちゃんと直接確認しないと失敗しそう。予算内で買わないといけないから、一度の失敗も許されないぞ。
ただ、あとは行く勇気がね……。薬局なら誰にも話しかけられないし、セルフレジにすれば行けるかも。よし、遠くの薬局調べよう。
スマートフォンで近所の薬局の店舗一覧を表示させる。あまりお金がかからないところがいいので、乗り換えなくていい店舗へ行くことにした。
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