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研究

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「勘助、実は一つ頼みがあるんだが」
「いいよ。なに?」

 翌朝、朝食を終えた勘助に半次郎が尋ねた。

「勘助の舌を生かして、新しいものを作りたいんだ。屋台引きが終わったら手伝ってくれないか?」
「新しいもの?」

「おう。といっても、みつ豆をちょっと改良するくらいだが、俺の舌は今使いものにならないから」
「舌は先生に診てもらったの?」

 勘助が半次郎の元に行き、不安気に見つめる。半次郎が寂しそうに笑った。

「行ったよ。栄養のあるもん食べて、よく寝て、あとは女房のことでくよくよしなきゃいつか治るんだと」

「難しいね」
「うんとな」

 半次郎が棚の引き出しを開けて紙を一枚取り出す。そこには女性の姿絵が描かれていた。

「これがおミツ。前に絵描きに頼んで描いてもらったんだ。もう女房の顔を見るにはこれしかないが、いくらか気晴らしにはなる」

「いいなぁ。俺もお母ちゃんの絵が欲しいよ」
「そうだよなぁ。お母ちゃんはどんな人だった?」

 勘助は上を見上げた後、自身の両手のひらをじっと見た。

「うんと、手があったかくて、声がすごく優しくて、いつも俺と一緒にいてくれたよ。兄ちゃんにからかわれて転んだ時とか、兄ちゃんを怒ってくれた」

「そうか。素敵なお母ちゃんだな」
「うん」

 もじもじと指を絡ませる。半次郎が立ち上がった。

「さあ、食器を洗ってくるから、店の準備をしよう」

 その日も覚束ないながら、勘助は一生懸命手伝いをした。途中子どもが親に連れられて買いに来て、その時ばかりは俯いて、ほんの一瞬だけぎゅうと下唇を噛んだ。

 昨日と変わりなく店仕舞いをして帰宅する。違うのは、今日はまだ仕事が終わっていないということだ。

 手を洗い、調理場で材料を広げる。横に茶葉も置いた。

「よし」
「どんなの作るの?」

 まな板の上を覗こうと勘助がぴょんぴょん跳ねる。

「こら、危ないぞ。そうだな、黒蜜をもっと改良したいと思っている」
「今でも美味しいよ」

「一種類だけじゃいつか飽きられちまうかもしれねぇってとこだ」
「ふうん」

 勘助にはいまいち分からなかったが、半次郎の手伝いを必死にやった。

「今よりねっとりさせて、具と一緒に食べられるくらいにしたらもっと美味しくなるかもしれない」
「ちょっと甘すぎるかも」
「じゃあ、調節しよう。そうだ、小豆を使ってみようか」

 試行錯誤の末、どうにか試作品が出来上がった。夢中で食べ続けた勘助はすっかり腹いっぱいになってしまった。

「すまん、つい食べさせ過ぎちまった。腹は痛くねぇか?」
「大丈夫。美味しかった」
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