3 / 39
部活紹介
しおりを挟む
翌日、五時間目。部活紹介の時間だ。合唱部の出番は五番目で、舞台袖で並んでいる。ソプラノの一番端にいたら、横にいるピアノ担当の奈々ちゃんが真っ青な顔をさせていた。
「奈々ちゃん、どうしたの!」
小声で尋ねると、奈々ちゃんが泣きそうになりながら答えた。
「楽譜忘れちゃった……」
「楽譜?」
本番は指揮の先生とピアノの人以外楽譜を見ないので、持ってきている人は基本的にいない。奈々ちゃんも暗譜はしているはずだけど、あるのと無いのでは安心感が違うのだろう。
「あ、もしかしたら私あるかも!」
さっき棚に置いた確認のため持ってきていたクリアファイルを漁る。沢山の楽譜の中、今日やる曲の楽譜が出てきた。
「奈々ちゃん、これ使って」
「ありがとう~……!」
「泣かないで。もう大丈夫だから」
「うん」
焦った。今日の一番の重要人物はピアノである奈々ちゃんだ。私たちは楽譜を見ないからいいけど、奈々ちゃんが楽譜が無いことで失敗したら部活紹介がしっかりできないところだった。
心配性でいつも荷物が多い私の性格が役立ってよかった。
『こんにちは、合唱部です。私たちは月曜日から金曜日まで、音楽室で練習をしています。興味がある人は是非見学に来てください』
まずは家原先輩が代表して合唱部の説明をする。後ろで私は少しだけ緊張しながら体育座りをする一年生たちを眺めた。
二百人分の瞳がこちらを向いている。この中の何人が見続けてくれるだろう。私は俄然やる気になった。
先生の指揮に合わせて歌い始める。姿勢と口の開け方に注意して。喉仏を下げるのも忘れない。ここがコンクールの舞台だと思って。
『有難う御座いました』
ぱちぱちぱちぱち。
たった一曲だったけど、良くできた。ほぼ全員が拍手をしてくれている。私は気持ちよくお辞儀をしてステージからはけた。
「あ~~~緊張した! ありがとう咲菜ちゃん!」
「全然いいよ。ピアノとっても良かった」
奈々ちゃんが何度もお礼を言う。クリアファイルに仕舞いながら、改めて自分のことを褒めたくなった。
人の役に立てるのってすごく好き。自分がしたことで相手が笑顔になるなんて、良いこと尽くめだよ。時には良い人ぶってると思われるかもしれないけど、私がしたくてするだけだから、遠慮することはない。
体育館の外に出ると、野球部の面々とすれ違った。彼らは屋外スポーツだから紹介するの難しそう。でも、明るくみんなで笑い合っていて楽しそうな雰囲気が伝わってくる。そうだよね、新入生はこういう素の雰囲気を知りたいよね。私たち、楽しそうにできていたかなぁ。
六時間目を終え、部活の時間になった。明日からは仮入部期間が始まるので、一年生が来た時の練習をしておく。そして、後半は中断していた課題曲の音取りが始まった。
コンクール用に作られた初めて聞く曲だから、まずは音源を何度も聴いて、一つ一つ丁寧に歌っていく。
「半音上がりのところ注意しよう」
「はい」
明るくてテンポの良い曲だからか、メロディが詰まっているところがあって間違えてしまった。最初だから許してもらえるけど、次からは気を付けよう。私は間違えた音符にぐるぐると赤丸をした。
今日は時間が少ないので、曲の半分までで終わった。続きは明日らしい。一年生の前で音取りするのか、緊張する。
「先生、自由曲はいつ決まりますか?」
小川先生が終わりの挨拶をしたところで聞いてみる。
「今月中に候補をいくつか出すので、みんなで聴き比べて決めましょう」
「分かりました」
コンクールは夏休みだからまだまだ先だけど、自由曲の話をしたら急に実感が湧いてきた。どんな曲が候補になるんだろう。
帰宅して夕食を掻き込んだ後、すぐ部屋に籠って課題曲の復習をした。明日は先輩として立派な歌声を披露しなくちゃ。
「あー」
電子ピアノの電源を入れて、明日の予習をする。だいぶ終わったところでノックが聞こえた。
「咲菜、窓閉めてる?」
「閉めてるよ」
「じゃあ、平気だね。咲菜の歌一階まで聴こえてきたから」
「え、本当!?」
不安になってもう一度窓を見る。うん、ちゃんと閉まってる。大声じゃないし、お隣さんには聞こえないはず。
「新しい曲かな、応援してるね」
「うん」
お母さんの足音が遠ざかる。お母さんは、もちろんお父さんも私のことをいつも応援してくれている。
「よし、もうちょっとやろう」
ピアノはヘッドフォンを付けているから周りには漏れない。お風呂に入る二十時まで私は練習を続けた。
「奈々ちゃん、どうしたの!」
小声で尋ねると、奈々ちゃんが泣きそうになりながら答えた。
「楽譜忘れちゃった……」
「楽譜?」
本番は指揮の先生とピアノの人以外楽譜を見ないので、持ってきている人は基本的にいない。奈々ちゃんも暗譜はしているはずだけど、あるのと無いのでは安心感が違うのだろう。
「あ、もしかしたら私あるかも!」
さっき棚に置いた確認のため持ってきていたクリアファイルを漁る。沢山の楽譜の中、今日やる曲の楽譜が出てきた。
「奈々ちゃん、これ使って」
「ありがとう~……!」
「泣かないで。もう大丈夫だから」
「うん」
焦った。今日の一番の重要人物はピアノである奈々ちゃんだ。私たちは楽譜を見ないからいいけど、奈々ちゃんが楽譜が無いことで失敗したら部活紹介がしっかりできないところだった。
心配性でいつも荷物が多い私の性格が役立ってよかった。
『こんにちは、合唱部です。私たちは月曜日から金曜日まで、音楽室で練習をしています。興味がある人は是非見学に来てください』
まずは家原先輩が代表して合唱部の説明をする。後ろで私は少しだけ緊張しながら体育座りをする一年生たちを眺めた。
二百人分の瞳がこちらを向いている。この中の何人が見続けてくれるだろう。私は俄然やる気になった。
先生の指揮に合わせて歌い始める。姿勢と口の開け方に注意して。喉仏を下げるのも忘れない。ここがコンクールの舞台だと思って。
『有難う御座いました』
ぱちぱちぱちぱち。
たった一曲だったけど、良くできた。ほぼ全員が拍手をしてくれている。私は気持ちよくお辞儀をしてステージからはけた。
「あ~~~緊張した! ありがとう咲菜ちゃん!」
「全然いいよ。ピアノとっても良かった」
奈々ちゃんが何度もお礼を言う。クリアファイルに仕舞いながら、改めて自分のことを褒めたくなった。
人の役に立てるのってすごく好き。自分がしたことで相手が笑顔になるなんて、良いこと尽くめだよ。時には良い人ぶってると思われるかもしれないけど、私がしたくてするだけだから、遠慮することはない。
体育館の外に出ると、野球部の面々とすれ違った。彼らは屋外スポーツだから紹介するの難しそう。でも、明るくみんなで笑い合っていて楽しそうな雰囲気が伝わってくる。そうだよね、新入生はこういう素の雰囲気を知りたいよね。私たち、楽しそうにできていたかなぁ。
六時間目を終え、部活の時間になった。明日からは仮入部期間が始まるので、一年生が来た時の練習をしておく。そして、後半は中断していた課題曲の音取りが始まった。
コンクール用に作られた初めて聞く曲だから、まずは音源を何度も聴いて、一つ一つ丁寧に歌っていく。
「半音上がりのところ注意しよう」
「はい」
明るくてテンポの良い曲だからか、メロディが詰まっているところがあって間違えてしまった。最初だから許してもらえるけど、次からは気を付けよう。私は間違えた音符にぐるぐると赤丸をした。
今日は時間が少ないので、曲の半分までで終わった。続きは明日らしい。一年生の前で音取りするのか、緊張する。
「先生、自由曲はいつ決まりますか?」
小川先生が終わりの挨拶をしたところで聞いてみる。
「今月中に候補をいくつか出すので、みんなで聴き比べて決めましょう」
「分かりました」
コンクールは夏休みだからまだまだ先だけど、自由曲の話をしたら急に実感が湧いてきた。どんな曲が候補になるんだろう。
帰宅して夕食を掻き込んだ後、すぐ部屋に籠って課題曲の復習をした。明日は先輩として立派な歌声を披露しなくちゃ。
「あー」
電子ピアノの電源を入れて、明日の予習をする。だいぶ終わったところでノックが聞こえた。
「咲菜、窓閉めてる?」
「閉めてるよ」
「じゃあ、平気だね。咲菜の歌一階まで聴こえてきたから」
「え、本当!?」
不安になってもう一度窓を見る。うん、ちゃんと閉まってる。大声じゃないし、お隣さんには聞こえないはず。
「新しい曲かな、応援してるね」
「うん」
お母さんの足音が遠ざかる。お母さんは、もちろんお父さんも私のことをいつも応援してくれている。
「よし、もうちょっとやろう」
ピアノはヘッドフォンを付けているから周りには漏れない。お風呂に入る二十時まで私は練習を続けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる