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第1章

親友(?)ノア 〜ジェイドsaid〜

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「彼女は何者なんだ?」

奥から出て来るなり、ノアは問いただした。

「何者って、人間だけど?」

「そういうことじゃない。あれだけ死にたがってた君を、どうやってそんな幸せそうな顔にしたんだってことだよ。」

「僕、そんなに幸せそう?」

「あぁ、とっても。彼女が、君の唯一か?じいさんかと思ってたぞ。」

「僕もそう思ってたさ、つい最近まで。」

あの一瞬で理解してしまうなんて、本当にノアは誰より僕の性質を理解している。きっと、一生敵わない。

「彼女と過ごしてどれくらいだ?どこ出身で、どうやって出会った?」

「ちょっと待って、質問が多いよ。大丈夫、彼女は僕に害するような人ではないよ。」

「なぜ、そう言い切れる?君は自分の価値を理解してるのか?」

ノアが呆れたような、少し怒ったような顔で詰め寄って来る。

「理解しているさ。他人から見た僕の価値を、誰よりもね。」

"絶対わかってない!"って顔にかいてあるよ?心配しなくても、ちゃんとわかってるさ。

「僕の口から、彼女の事情は言えない。」

そんなに睨まれても、ただ根拠もなく盲目に信じてるわけじゃないさ。

ロビーに置いてあるソファに腰掛けた。つられたように、ノアが向かいに座る。

「これは僕の独り言なんだけどね、彼女はこの世と思えない服を着て先日の嵐の日に倒れていたんだ。」

やっぱり、服に興味を惹かれたみたいだね。
最新の服を隅々までサーチして、知らないものはないんじゃないかってくらい服に詳しいノア。そんな君も知らない服って、本当に存在するのか確認したいよね?見てみたいよね?
身を乗り出しちゃってるし。そんなに態度に出るなんて、商人として心配だよ。

「それから彼女は、1週間も目を覚さなかった。」

「・・・1週間?」

「人として1週間も栄養を取らずに寝続けるなんてありえないよね。彼女がどこから来たか聞いて、納得したよ。なぜ、僕の元にやって来たかもね。」

「彼女はどこから来たって言うんだ?」

「僕は独り言を言っていただけにすぎないからね。本人に直接聞くといい。」

そんなに顔をしかめないでくれよ。僕から話せるのはこれが限界だ。

「そんなの、会って直ぐに話してくれるような事情じゃねぇじゃないか。」

「僕には話してくれたけどね。」

「恩人なんだからそりゃそうだろうよ。」

お前のそういうとこらが嫌いだぜ、と小さい声で呟いたの、ちゃんと聞こえてるからね?

「仕方ねぇ。とりあえず、これくらいで納得しといてやるよ。」



「上に行こうか。姉貴たちはまだしばらくかかるだろうからよ。あ、そうだまだお前に言うことあったわ。」

ノアは僕の首に手を回し、ひそひそ話をするように話を続ける。

「アカリちゃんの下着とか、どうやって用意してた?人間の女性の生態について、どこまで理解してる?」

ああぁぁ!!僕、彼女に下着を渡さなかったんじゃないか?言われるまで気付かないなんて・・・!

「その顔、やっぱりなぁ。お前は服をここでしか買わないもんな。過去に女がいたこともないし。」

言われなくてもわかる。僕は今、きっと顔が真っ青だ。あと、指先が冷たい。

「大丈夫。姉貴が今見繕ってるから。」

神様!ノア様!ビオレット様!!
君たち姉弟がこんなに頼もしく思える日が来るなんて!

少し先で階段を登っているノアの背中を拝んでおく。僕、無宗教だけど。


そこから2階の客室で、ノアの伝えたかった"女性の生態"というものを教えてもらった。それでわかったことが1つ。僕の無知っぷりが、アカリに苦労を強いていたということ。
そして思ったこと。


これで彼女を幸せにしているつもりだったのか!?


ノアはそれなりにモテる。女性と付き合っていた経験もある。僕なんかよりよっぽど女性というものを理解している。後で個別にビオレットに教えを乞うとして、今はノアから聞けるだけ聞き出したい。

聞けば聞くほど、自分の無知さに呆れるけどね。
そんなこと、彼女に無理を強いてることに比べたらちっぽけなことだ。
僕はノアのような友だちがいて、心から良かったと思ってるよ!(人生で初めて、ね。)

アカリがいると知れば、もうナンパ(彼的には客引き)に付き合わされることもないし。ノアと僕ができてるなんて、意味のわからない噂も消えるはずだ。そう考えても、やっぱりここにアカリを連れてきて良かった。

「ジェイドが好きそうな服を選んでおいたから。今の話を合わせて、俺に借りがあることを忘れるなよ?」

・・・・・・・・・やっぱり訂正する。
君は商人に向いているし、こんなやつが友だちなんて嘘だ!!!
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