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第1章

じいさんと僕 〜ジェイドepisode〜

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僕には両親の記憶がない。物心ついた時には森に住んでいた。
あの頃は洞窟に住んでいた。どうやって覚えたかはわからないけど、魔法が使えたから生きるにはあまり困らなかった。

そんな時に出会ったのが、今住んでる小屋の元々の持ち主だったじいさんだった。
じいさんは俺を捨て子だと勘違いしたらしい。いや、俺には勘違いかどうかわからなかったけど。
親の存在を認識していなかったので、少なくとも捨てられたとは思っていなかった。

「ついてこい」と小屋に連れて行かれ、なんだかんだそのまま住むことになった。
突然「ついてこい」と言われた時は、近付かない方がいいんじゃないかと警戒したものだ。
僕からしたら初めて見た他人。判断基準もわからず、どうしたものかと狼狽えた。

結果的に、じいさんについて行って正解だったように思う。

家事も畑仕事も、この世界の常識も、全てじいさんから教わった。学校にだって行かせてもらったし、ノアの店に連れて行ってくれたのもじいさんだ。

学校を卒業して、やっと恩返しができると思い始めた2年前。あっけなく亡くなった。
朝、いつまで経っても起きてこなくて、違和感を感じて部屋に行った。
もう既に、身体が冷たくなっていた。
初めて人の死に立ち会った。
こんなに儚いものなのか。昨日はあんなに元気だっのに。
出会いも別れも突然だった。

あの日アカリを助けたのは、もう目の前で人の死を見たくなかったから。見てしまったら、じいさんを亡くした時の消失感を思い出しそうだったから。
だから、無意識にでも助けないといけないと思った。

じいさんと生きた時間が、今のアカリとの生活に活きている。

ジェイドという名前は、じいさんがつけてくれた。
1人で生きてきた頃は、名前が必要なかったから。



「いい拾い物をした。」

じいさんはよく言っていた。
正直、金のかかる拾い物だったと思うし、損の方が大きかったのではないかとも思う。
しかし実は、奥さんが亡くなってどうや寂しかったらしい。1人で死にたくはなくて、お金もそれなりにある。本当に丁度良かったのだど言っていた。
"拾い物"という言い方をしたのは、多分照れ隠しだろう。



「もっと早くにお前と出会いたかった。儂らには子どもがおらんかったで、もっと早う出会っとったら婆さんも喜んだろうに。」

亡くなる前の晩。じいさんが言った言葉だ。
僕も、もっと早く出会いたかった。そしたらもう少し長くじいさんと過ごせたのに。

早く2人の元へ行きたいと、つい最近までは思っていた。でも今はアカリがいる。
だから、ごめん。直ぐには2人に会いに行けないや。


あと、数百年は待っててもらうかもしれないけど。
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