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ルカ様へのプレゼント

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私は前世の記憶があってよかったと思っている。

最推しのルカ様と出会えたから。
ルカ様と両思いになれたから。
シナリオの知識で回避できる不幸があるから。
日本人が考えた世界だから、理解しやすい世界。

利点がたくさんあった。なんて、私に生きやすい世界だろう。

日本に戻りたいと思ったことはない。"前世"というくらいだ。戻ったとしても、私の居場所はもうそこにない。両親より先に死んでしまったことは申し訳ないと思っているが、娘は次の人生を謳歌しているから安心してほしい。

「お嬢様、ルカ様にお渡しするというプレゼントは何にされるのですか?」

「そうねぇ。」

「殿下はエミィになら、何をもらっても喜ぶんじゃないか?」

昼下がり、すっかり毎日の習慣になりつつあるお兄様とのティータイムを、今日はテラスで過ごしている。

「確かに、お嬢様が用意したものであれば喜んでくださいそうですね。」

「ただ単に購入したものなんて、ルカ様はいつでもご自身で買い求めることができるでしょう?」

「まぁ、そうだね。だから迷ってるって話かい?」

「いいえ。手作りのもので攻めようかと思ってます。」

「攻める・・・」

エミィは何と戦ってるの?殿下はラスボスか何かなの?

なんて、お兄様の質問はオール聞こえなかったフリです。

何を作るかはまだ決めてなくて、お兄様と話している間に何かヒントを得られないかなぁなんて考えているのですけど・・・。

食べ物は王都に着くまでに傷んでしまうから、お城のキッチンを貸してもらえるか交渉しないといけない。いつかは手料理を食べてほしいと考えているけど、何が好きで嫌いかをちゃんとリサーチしてからがいい。

ハンカチに刺繍だけだと何か物足りないから、もう1つはプレゼントを考えておきたいのだけど。

チューリップを使ったポプリや栞は、手紙と一緒に送ろうと思っている。

「・・・・・・それで、父様のところに相談にきたというのか。」

「お父様なら、何かいい案が浮かぶのではないかと思いまして。」

「お嬢様、スチュワート様は気が利かないのでそういったことは聞いても無駄ですよ。」

「シン、お前は誰の部下だよ!そんな口を聞いていいと思ってるのか!」

「上司として敬ってほしいなら、すぐ逃げようとせずにササッと仕事を片付けてください。私が仕事を押し付けられてどれだけ苦労していることか。お陰で、私は今でも独身です。」

「あちこちから引くて数多で誘いが来てるのを、全部断っておいて何を言ってるんだか。お前が結婚しないのは、私のせいではないだろう!」

あぁあぁ、喧嘩しないでください。なんでこの2人はいつもこうなんですか。

「シンでもいいんです。何か案はありませんか?」

「エミィ、シンはこの顔なのに恋愛経験はほとんどない社畜だぞ。」

「顔で好かれても嬉しくないんですよ。それに社畜にしたのは誰ですか!」

うーん、やっぱり聞く人を間違えたかしら?

「お嬢様、ルカ様は剣術をなさるのですよね?」

「えぇ、お兄様と稽古をなさってたわ。」

「鞘につける刀飾紐なんていかがですか?」

「私はアイシャが編んでくれたアンクレットを今でも大切に使っているぞ!」

刀飾紐にアンクレットですか。確かにそれもいいですね。

「今後の参考にもなりそうな意見ですね!ありがとうございます!」

「お嬢様に喜んでいただけるなら、いつでも知恵をお貸しいたしますよ。」

「シン、娘は婚約済みだからな!」

「わかってますよ。親バカ過ぎるんですよ、あなたは!」

また始まった・・・。これ以上巻き込まないように退散しよう。

危ないけど、廊下を歩きながらもらった案を整理してみる。

「花の種なんてロマンチックじゃないですか?ルカ様ならきっと綺麗な花に育ててくださいますよ!」

庭師のジャックはそう言って種をくれた。何の種かは教えてくれなかった。部屋に置けるくらいの小さな植木鉢で育てられる花だとは言っていた。

「お揃いの髪紐はいかがですか?ルカ様のお髪、肩につくほどの長さだったではないですか。服同様、喜んでもらえそうではないですか?」

ラナはそう言っていた。確かにそれはグッジョブだと思う。

「城下町では、恋人がお揃いのマグカップを持つそうですよ!」

あぁ、確かに前世でもそれやってるカップルいたな。

さぁて、何にしようかな。

「いた!エミィ!」

呼ばれて振り返ると、お兄様がこちらにやって来るところだった。大声出すなんて珍しい。どうしたのかしら?

「ひどいじゃないか!」

「どうしたんです?」

「どうしただって!他の人には案をもらっているのに、僕には聞いてこなかったじゃないか!」

お兄様、そんなことで拗ねてたの?

この話を最初にしたのはお兄様だ。お兄様にヒントをもらおうと思ったけど、浮かばなくて・・・って、確かに私は見ていただけでお兄様に直接聞いてはなかったわね。

「何か良い案があるのですか?」

「ブックカバーやポーチなんてどう?僕の誕生日にくれたもの、後からエミィがデザインした特注品だって聞いたんだ。あれは最高に嬉しかった。僕が持ってて殿下が持ってないとなると、僕はいつか嫉妬で殺されてしまう。だから、それにしてくれ。」

最後、懇願しちゃってるじゃないですか。でも確かにそうですね。ルカ様も本はお好きだと聞いていますし、お兄様が殺されちゃうのも本意ではないです。最上級に嫉妬に狂ったルカ様は、最愛の人を殺しますからね。兄だって対象になりますよね。

「わかりました。お兄様のお陰でプレゼントが決まりましたわ。ありがとうございます!」

「決まってよかったよ。ここ最近、ずっと眉間にシワを寄せていたからね。」

そう言って、お兄様はツンツンと眉間を突いてくる。先程の発言は私の悩みを解決するために、半分冗談で仰ったのでしょう。

「早速、デザインを考えてくることにします!」

「うん、頑張って。僕は授業を抜け出してきたところだからね。部屋に戻るよ。」

そう言いながら、私の部屋まで送ってくださるお兄様は紳士だと思います。持つべきものはサイラスお兄様ですわね!お兄様が婚約する時は、私も体調を崩してしまいそうです。
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