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サイラス・シューリット

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ルカ様は私の隣に腰を下ろして、肩を掴んできた。

近い近い近い!お顔が近すぎて、このままでら心臓が止まってしまいます!

怒ったお顔を私に向けている。ちょっぴり怖いけれど、それ以上にドキドキしていた。

「もう!何に怒ってるかわかってないでしょ?」

ひゃぁぁあ!!!

そのぷくっと膨らました頬はなんですか?リスですか?私をキュン死にさせるおつもりなんですか?

「おい、聞いてないだろ?」

「や、やめてくらひゃい。」

両手で頬をむにむにつまんでくる。痛くないけど恥ずかしい。

「僕は怒ってるんだ。」

存じ上げてますけど、私の心臓はそれどころじゃないんです!

「はぁ、こんな顔も可愛いってどういうこと?」

「え、」

ぎゅゅぅうっ。

「この距離は家族か僕しか許しちゃダメ。」

わかった?なんて小首をかしげられてもですね、近距離すぎて頭が追いつかないんですよ。とりあえず、コクコク頷いておきましたけど。急に推しに抱きしめられ、耳元で話されたら誰でもこんな風になるんじゃない?

ちゅ。

「・・・ほんとかなぁ?本当にわかってる?」

いやいやいや、あのですね。頬や額にキスされながら言われても、理解できるものもできないんですよ。頭、真っ白になるんですよ!

その後もしばらく離してもらえなくて、ルカ様が満足される頃には半死体になった私が腕に収まっていたそうだ。(その頃には意識が現実世界になかったんだよね。)




★★★




「おはよう、エミィ。」

「おはようございます、お兄様。」

無事、目覚めた私はルカ様と朝食を食べに向かった。食堂にはお兄様がいて、お母様とお父様は既に朝食を食べ終えたらしい。


「あ、殿下もおはようございます。」

え、お兄様。いくら将来、義兄弟になるからと王族にそんな失礼な!おまけみたいな言い方ではないですか!

「・・・・・・お前の妹ファースト、俺は好きだぞ。」

「???ありがとうございます。」

・・・・・・ルカ様がいいと言うならいいのかな?まぁ、身分とかで区別するのはあまりお好きではないものね。うん、ルカ様が気にしないならいいんだ。後ろにいるラーヤ様も気にされている様子はないし。いつものことなのだろう。

「殿下、書類がこちらに届くまであと数日はあるんでしょう?」

「あぁ、あと2~3日はあるんじゃないか?」

「ここに滞在している間は、何かあれば僕か妹さんにお伝えください。父と母は家を開けることが多いんです。」

お父様は領地内の付近の視察や貿易のために昼間は出かけていることが多い。騎士団をまとめるお仕事もあるし、とにかく忙しい人。すぐにサボろうとしているけど。家族に会いたくて、夜までに帰って来れるようなスケジュールを立てているらしい。

お母様は情報収集のためにお茶会やお父様の視察についていったりしている。社交会でも名高いらしい母が情報を発信すれば、すぐさま王都まで広がるようなコミュニティが出来上がってるらしい。お母様のような人は絶対、敵に回しちゃいけないタイプだ。

「リアは今日、何するの?」

「今日は家庭教師の方が来てくださるので、夕方まではお勉強ですね。」

前世では勉強は嫌いだったけど、ゲームをしていた時にはわからなかった細かい設定が知れると思うとわくわくするんですよね。

「そっか。じゃあ、僕も受けようかな。」

「一緒にですか?」

「だって、どうせサイラスも授業なんだろう?ここに来て暇なのも、リアと一緒に過ごせないのも嫌だよ。」

あら、こんな甘い言葉をお兄様の前で言って大丈夫かしら?婚約の話をしたときを考えたら、お兄様の精神の健康的に悪くない?

チラッとお兄様を伺うと、殺気こそ飛ばしていないけど真顔でルカ様をガン見してるわ。あぁ、こんなお兄様のお顔、見たことない。手元は一切見ていないのに、綺麗に食事しているところは流石だわ。

ルカ様滞在中、気をつけないといけないわね。抱きつかれているところやキスされてるところをお兄様に見られたら、数日は寝込んじゃう気がするもの。

「・・・ルカ様、あとで僕の剣の稽古に付き合ってはいただけないでしょうか?」

「いいよ。将来のお義兄様とも仲良くしておきたいからね。」

ああぁ、ルカ様。そんな言い方したら・・・。ほら!お兄様のこめかみがピクッとしましたよ!辺境伯の跡継ぎということもあって、お兄様の剣の腕はこの年頃で1番だと言われているんですから。火に油を注がないでくださいな。

「是非、仲良くしていただきたいものです。」

お兄様はニコッと笑って食堂をあとにされましたが、あれは怒ってますね。



「違うわよ。確かに可愛い妹が取られると思って嫉妬している部分もあるけど、思ったよりもあなたの婚約が早くて寂しがってるのよ。サイラスはエミィが後ろからついてくるのを、小さい頃から喜んでいたのよ。」

ルカ様とお兄様が剣の稽古をしているとき、私は帰って来たお母様とお茶をしていました。

「小さな足でトテトテと、自分についてくるのが可愛くって仕方なかったみたいでね。どこに行くにも一緒にいたがった。お陰で、あなたが1番初めに話した言葉は『お兄様』なの。父様がどれほど悔しがったか。」

「初めて聞きました。」

「あなたが転んで泣いたら、サイラスも泣きながらあなたを抱っこして私の元に連れてくるの。2つしか歳が変わらないのに、幼児を抱えてくるなんてどこにそんな力があるのかしら?って驚いたものだわ。」

「ふふふ。お兄様は小さな頃からシスコンなんですね。」

「本当、うちの男どもはエミィに弱いのよ。」

愚痴るように、お母様は桃のタルトを口に運ぶ。

「もう少し、しっかりしてくれないかしら?」

悪役令嬢が出来上がる背景に、親家族が甘くてワガママに育ったというのは鉄板ですからね。仕方ないかもしれません。大抵、悪役令嬢は家族からも嫌われているか好かれすぎているかの2択だと思います。

でもゲーム内では、どんどんワガママが酷くなるエミリアを兄のサイラスは苦手に思うようになるのよね。
自分の接し方が悪かったのではないか。何か問題を起こす前に、どうにか昔の可愛らしいエミリアに戻ってはくれないか。
自分を責めて悩み、ヒステリックに叫ぶエミリアをなだめて。そんな日々を過ごしているサイラスの前に現れるのがヒロイン。昔のエミリアを思い出させるような可愛らしさに自然と惹かれ、自分の心に寄り添ってくれるヒロインを愛すようになるのだ。

「サイラス様は何も悪くないわ。悪いのは、サイラス様の優しさにいつまでも甘えているエミリア様です!」

そう言って涙するヒロインの言葉で、サイラスの心は助けられるシーンがあった。前世を思い出した私が、ゲームのような悪役令嬢になるとは考えにくいですが。

「お母様、この桃のタルト美味しいですわね。」

桃は瑞々しくて、間に入っている濃厚なチーズクリームと相性抜群。タルト生地はサクサクですし。

「そうね。さすが料理長だわ。」

家族と笑い合える、この和やかな空気を壊さないためにも私は悪役令嬢にならない努力をしなくてはなりませんね。
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