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57・リザードマンとの第二戦
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キングvsリザードマンとの第二戦が始まった。
キングの眼前に立つのは独眼のリザードマン侍、その名をジュウベイ。
ジュウベイは大太刀を両手で握ると体を斜めに向けて野球のバッターを真似るかのようなスタイルで刀を構えていた。
八相の構えである。
背筋はピンッと真っ直ぐに延ばしているが、開いた股幅だけで腰を落としていた。
履いている袴で爪先までが隠れている。
そして、右肩を前に出したジュウベイが摺り足で少しだけ前進した。
その動きは頭の高さがブレずに下半身だけが滑るような歩法で進む。
キングの後から見ていた俺は、顎先を撫でながら呟いた。
「なるほどね~」
『どうしました、魔王様?』
「あのジュウベイって剣士は左目が利かない。だから右目だけで距離を見るために、右目を前にして、真横に構えているんだな」
『それが横向きの構えの理由ですか』
「八相の構えとは、片目の戦士ように考えられた構えなんだな」
片目では両目に比べて視野が狭い。
更に片目は微妙な距離感を掴み難い。
故に八相の構えとは特殊な型なのだろう。
現代の剣道では、片目の障害者剣士なんぞ少ないから、めっきり見られなくなった構えである。
そして───。
ジリリっと爪先の動きだけでジュウベイが前に出る。
「参ル!」
そうジュウベイが唸った刹那に前方に直進した。
だが、その動きは不思議だった。
頭が揺れていない。
肩が揺れていない。
足が動いていない。
なのに速い移動で詰めて来る。
それは、まるで氷の上を滑るかのように前進してきた。
「何っ!?」
キングが目を見開いて驚いた。
その驚くキングにジュウベイが大きく縦振りで斬りかかる。
鋭く、力強く、速い兜割りの一撃だった。
「ゼイッ!」
「ぬっ!」
キングが体一つ分ほど後ろに跳ねて回避した。
素早く躱したキングの残像をジュウベイの縦切りが割る。
初撃はキングが躱した。
だが───。
「ハッ!」
更にジュウベイの逆手による二太刀目が下から昇る。
ジュウベイは滑る前進から逆袈裟斬りでキングを斬撃で追っていた。
「なんのっ!」
するとキングはツーステップでジュウベイの二太刀目を回避した。
そして、刀を振り上げたジュウベイが、今度は後方に滑るように動いて距離を作る。
離れた。
大きく7から8メートルは離れただろう。
どうやらジュウベイは仕切り直しを選んだようだ。
すると両者の立ち回りを関心したキルルが言う。
『凄く流れるような水みたいな動きですね。しかもリザードマンさんの剣技も鮮やかですが、足捌きは更に不思議です。なんであんなに滑るように動けるのですか?』
俺は不思議がるキルルに説明してやった。
「あれは、簡単なパントマイムの動きだな」
『パントマイムって、大道芸のアレですか?』
「そう、アレだ」
『んん~……?』
まだ分からないとキルルは首を傾げていた。
「あのリザードマンの足元は袴で隠れているせいで見えてないからな。まあ、分からないか」
『あのスカートのような異国の履き物がトリックの種なのですか?』
俺は両爪先を立てて踵だけで立つ。
「こうやって踵だけで立つだろ」
『はい……』
俺は両方の爪先を右に向けてから、今度は爪先を地につけて踵を浮かせる。
すると俺の体が少しだけ右に移動する。
そして今度は爪先だけで立ったまま両踵を右に動かした。
今度は両踵を地につけると再び爪先を上げて右に向ける。
それを繰り返して俺は爪先と踵の動きだけで少しずつ右に右にと動いて行く。
『右に進んでますね……』
「あのリザードマンは、この動きをもっとスムーズに、更にスピーディーにとやって動いてるんだ。それが滑るような動きの正体だ」
『そうだったんですか!』
「白鳥が美しく水面を泳いでいるように見えるが、水中では必死に両足で水を掻いているのと一緒だな。あれはスムーズでスピーディーに動いているように見えるが、その実は、かなりの練習を積んで習得した歩法だろうさ。袴の中は、かなり世話しなく動いているはずだぜ」
『アヒルさんも蜥蜴さんも大変なんですね~』
「アヒルじゃあねえよ、白鳥な……」
まあ、そんなことよりもだ。
あのジュウベイたる蜥蜴侍は剣技も体術もピカイチだ。
技だけならキングに勝っているだろう。
だが、それだけでは基本の数値で上回るキングを倒せない。
それは一番手のバイケンで証明されているだろう。
ならば、更に何か策を弄してくるのは確かだ。
その奇策が楽しみである。
どのように今度は俺を楽しませてくれるかが期待されていた。
「ヤハリ剣技ダケデハ倒セヌカ……」
ジュウベイが鋭い独眼でキングを睨み付けながら言った。
そして、ジリジリと後退して距離を作る。
間合いを広げた?
両者の間合いは10メートルは開いていた。
そこでジュウベイは高く大太刀を振り上げて上段に構える。
俺は呟く。
「勢いを溜めているのか?」
助走の後に、一気に飛ぶ作戦だろうか?
しかし、距離が開き過ぎている。
本来なら剣刀で戦う間合いではない。
だが、身体能力を俺の鮮血で強化されたキングならば、10メートルの間合いぐらいなら一飛びで詰められる距離だろう。
それをジュウベイは察していないのだろうか?
いや、それはインシュンやバイケンとの戦いで知られているはずだ。
ならば、距離を作ることが有利に立てる策とは思うまい。
なのに距離を築いた。
ならば、何かある。
何かを企んでいる。
そして、ジュウベイは上段の構えのまま待ちを狙っていた。
だが、俺は疑問に思った。
ジュウベイの様子を見るからに、ただの待ちだろうか?
何か違和感がある。
「来ないなら、こちらから参るぞ!」
言いながらキングが腰を深く落とした。
膝を曲げて飛び出すバネを溜める。
今度はキングから行くようだ。
「来イ!」
「参る!」
ダンっと音を鳴らしてキングが跳ねた。
真っ直ぐに直進するキングの速さは弾丸のようだった。
まるでライフルの弾のようである。
その飛び込みに合わせてジュウベイが刀を振るった。
だが、まだ、距離が広い。
キングが間合いの半分、5メートルを越えたところでジュウベイが刀を振るったのだ。
「フンッ!!」
否、振るったのではない。
刀を投擲したのだ。
残り5メートルの距離を大太刀が回転しながら飛び迫る。
刀を投げて弾幕を張ったのだろう。
「なにっ!?」
大太刀の投擲にキングの足が止まる。
更に大太刀の投擲を合図に四方の家の屋根から人影が現れた。
その数は複数。
観戦していた俺やコボルトたちも、その異変に気が付き家の屋根を咄嗟に見上げる。
「伏兵かッ!?」
複数のリザードマンたちが、屋根の上で弓矢を引いていた。
「多数での奇襲か!?」
そして、矢が一斉に放たれた。
狙いはキングだけじゃない。
観戦していた俺やコボルトたちも狙っている。
「なんだと!?」
まさかの総攻撃である。
複数の一斉射撃だ。
ここに来て、このタイミングでリザードマンたちが全員で総攻撃を仕掛けて来たのだ。
屋根の上から弓矢を放ってきた数は五十匹は越えていた。
五十以上の矢が四方八方から俺たち十二名を狙う。
「まさか、ここで勝負を捨てて勝ちに来たかっ!?」
刹那、俺やキング、それにハートジャックや精鋭のコボルトたちに矢が飛び迫った。
「全員防御だっ!!」
俺の言葉に全員が反応して防御に専念する。
身体を捻って避ける者、飛んで逃げる者、剣や盾で防ぐ者と様々だ。
コボルト全員が唐突な一斉攻撃に対応していた。
キングの眼前に立つのは独眼のリザードマン侍、その名をジュウベイ。
ジュウベイは大太刀を両手で握ると体を斜めに向けて野球のバッターを真似るかのようなスタイルで刀を構えていた。
八相の構えである。
背筋はピンッと真っ直ぐに延ばしているが、開いた股幅だけで腰を落としていた。
履いている袴で爪先までが隠れている。
そして、右肩を前に出したジュウベイが摺り足で少しだけ前進した。
その動きは頭の高さがブレずに下半身だけが滑るような歩法で進む。
キングの後から見ていた俺は、顎先を撫でながら呟いた。
「なるほどね~」
『どうしました、魔王様?』
「あのジュウベイって剣士は左目が利かない。だから右目だけで距離を見るために、右目を前にして、真横に構えているんだな」
『それが横向きの構えの理由ですか』
「八相の構えとは、片目の戦士ように考えられた構えなんだな」
片目では両目に比べて視野が狭い。
更に片目は微妙な距離感を掴み難い。
故に八相の構えとは特殊な型なのだろう。
現代の剣道では、片目の障害者剣士なんぞ少ないから、めっきり見られなくなった構えである。
そして───。
ジリリっと爪先の動きだけでジュウベイが前に出る。
「参ル!」
そうジュウベイが唸った刹那に前方に直進した。
だが、その動きは不思議だった。
頭が揺れていない。
肩が揺れていない。
足が動いていない。
なのに速い移動で詰めて来る。
それは、まるで氷の上を滑るかのように前進してきた。
「何っ!?」
キングが目を見開いて驚いた。
その驚くキングにジュウベイが大きく縦振りで斬りかかる。
鋭く、力強く、速い兜割りの一撃だった。
「ゼイッ!」
「ぬっ!」
キングが体一つ分ほど後ろに跳ねて回避した。
素早く躱したキングの残像をジュウベイの縦切りが割る。
初撃はキングが躱した。
だが───。
「ハッ!」
更にジュウベイの逆手による二太刀目が下から昇る。
ジュウベイは滑る前進から逆袈裟斬りでキングを斬撃で追っていた。
「なんのっ!」
するとキングはツーステップでジュウベイの二太刀目を回避した。
そして、刀を振り上げたジュウベイが、今度は後方に滑るように動いて距離を作る。
離れた。
大きく7から8メートルは離れただろう。
どうやらジュウベイは仕切り直しを選んだようだ。
すると両者の立ち回りを関心したキルルが言う。
『凄く流れるような水みたいな動きですね。しかもリザードマンさんの剣技も鮮やかですが、足捌きは更に不思議です。なんであんなに滑るように動けるのですか?』
俺は不思議がるキルルに説明してやった。
「あれは、簡単なパントマイムの動きだな」
『パントマイムって、大道芸のアレですか?』
「そう、アレだ」
『んん~……?』
まだ分からないとキルルは首を傾げていた。
「あのリザードマンの足元は袴で隠れているせいで見えてないからな。まあ、分からないか」
『あのスカートのような異国の履き物がトリックの種なのですか?』
俺は両爪先を立てて踵だけで立つ。
「こうやって踵だけで立つだろ」
『はい……』
俺は両方の爪先を右に向けてから、今度は爪先を地につけて踵を浮かせる。
すると俺の体が少しだけ右に移動する。
そして今度は爪先だけで立ったまま両踵を右に動かした。
今度は両踵を地につけると再び爪先を上げて右に向ける。
それを繰り返して俺は爪先と踵の動きだけで少しずつ右に右にと動いて行く。
『右に進んでますね……』
「あのリザードマンは、この動きをもっとスムーズに、更にスピーディーにとやって動いてるんだ。それが滑るような動きの正体だ」
『そうだったんですか!』
「白鳥が美しく水面を泳いでいるように見えるが、水中では必死に両足で水を掻いているのと一緒だな。あれはスムーズでスピーディーに動いているように見えるが、その実は、かなりの練習を積んで習得した歩法だろうさ。袴の中は、かなり世話しなく動いているはずだぜ」
『アヒルさんも蜥蜴さんも大変なんですね~』
「アヒルじゃあねえよ、白鳥な……」
まあ、そんなことよりもだ。
あのジュウベイたる蜥蜴侍は剣技も体術もピカイチだ。
技だけならキングに勝っているだろう。
だが、それだけでは基本の数値で上回るキングを倒せない。
それは一番手のバイケンで証明されているだろう。
ならば、更に何か策を弄してくるのは確かだ。
その奇策が楽しみである。
どのように今度は俺を楽しませてくれるかが期待されていた。
「ヤハリ剣技ダケデハ倒セヌカ……」
ジュウベイが鋭い独眼でキングを睨み付けながら言った。
そして、ジリジリと後退して距離を作る。
間合いを広げた?
両者の間合いは10メートルは開いていた。
そこでジュウベイは高く大太刀を振り上げて上段に構える。
俺は呟く。
「勢いを溜めているのか?」
助走の後に、一気に飛ぶ作戦だろうか?
しかし、距離が開き過ぎている。
本来なら剣刀で戦う間合いではない。
だが、身体能力を俺の鮮血で強化されたキングならば、10メートルの間合いぐらいなら一飛びで詰められる距離だろう。
それをジュウベイは察していないのだろうか?
いや、それはインシュンやバイケンとの戦いで知られているはずだ。
ならば、距離を作ることが有利に立てる策とは思うまい。
なのに距離を築いた。
ならば、何かある。
何かを企んでいる。
そして、ジュウベイは上段の構えのまま待ちを狙っていた。
だが、俺は疑問に思った。
ジュウベイの様子を見るからに、ただの待ちだろうか?
何か違和感がある。
「来ないなら、こちらから参るぞ!」
言いながらキングが腰を深く落とした。
膝を曲げて飛び出すバネを溜める。
今度はキングから行くようだ。
「来イ!」
「参る!」
ダンっと音を鳴らしてキングが跳ねた。
真っ直ぐに直進するキングの速さは弾丸のようだった。
まるでライフルの弾のようである。
その飛び込みに合わせてジュウベイが刀を振るった。
だが、まだ、距離が広い。
キングが間合いの半分、5メートルを越えたところでジュウベイが刀を振るったのだ。
「フンッ!!」
否、振るったのではない。
刀を投擲したのだ。
残り5メートルの距離を大太刀が回転しながら飛び迫る。
刀を投げて弾幕を張ったのだろう。
「なにっ!?」
大太刀の投擲にキングの足が止まる。
更に大太刀の投擲を合図に四方の家の屋根から人影が現れた。
その数は複数。
観戦していた俺やコボルトたちも、その異変に気が付き家の屋根を咄嗟に見上げる。
「伏兵かッ!?」
複数のリザードマンたちが、屋根の上で弓矢を引いていた。
「多数での奇襲か!?」
そして、矢が一斉に放たれた。
狙いはキングだけじゃない。
観戦していた俺やコボルトたちも狙っている。
「なんだと!?」
まさかの総攻撃である。
複数の一斉射撃だ。
ここに来て、このタイミングでリザードマンたちが全員で総攻撃を仕掛けて来たのだ。
屋根の上から弓矢を放ってきた数は五十匹は越えていた。
五十以上の矢が四方八方から俺たち十二名を狙う。
「まさか、ここで勝負を捨てて勝ちに来たかっ!?」
刹那、俺やキング、それにハートジャックや精鋭のコボルトたちに矢が飛び迫った。
「全員防御だっ!!」
俺の言葉に全員が反応して防御に専念する。
身体を捻って避ける者、飛んで逃げる者、剣や盾で防ぐ者と様々だ。
コボルト全員が唐突な一斉攻撃に対応していた。
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