上 下
52 / 69

52・地中からの攻撃

しおりを挟む
地中からの攻撃────。

何か仕掛けがあるはずだ。

リザードマン集落の門前で始まったキングとインシュンとの戦い。

インシュンが十字槍で突き迫るとキングの足がクナイで刺された。

しかも、地面についているはずの足の裏側から刺されたのだ。

不自然で矛盾──。

そのダメージに戸惑ったキングはインシュンに十字槍で肩を突かれてしまう。

槍の一撃は傷が浅かったが、確かなダメージは受けている。

キングは足を貫通したクナイを抜くと爪先を地面に付けて踏み込みを確認していた。

「よし、問題ない」

足の裏から甲に向かって貫通した刺し傷だったが、戦いを継続するのには問題がないようだ。

肩の傷も同様なのだろう。

まあ、キングの意地だろうさ。

「ふんっ!」

気合いを入れ直したキングが鞘に収まったままのシミターを片手で構えた。

まだ、刀を抜かずに戦うつもりらしい。

三度キングとインシュンが睨み会う。

するとインシュンが威嚇的に述べる。

「次ハ、ソノ腹ヲ串刺シニシテヤルワイ!」

「上等、ならば参れ!」

槍を構えるインシュンが半歩だけ前に出ると、対するキングも半歩だけ前に出た。

両者の狭間で威嚇がぶつかり合い空間がドロドロに歪んで見える。

「イザッ!」

その掛け声に合わせてインシュンが前に跳ねた。

「ケイッ!!」

先手を仕掛けるのはインシュンだ。

十字の槍先がキングの腹部を狙っている。

「甘いっ!」

掛け声と共にキングが高く跳ねた。

槍先を避けて3メートルは高く飛んだキングが空中からインシュンに攻めいる。

俺は呟いた。

「安定の跳躍だな。謎の攻撃は地中から来ている可能性が高い。ならば地を捨てて宙から攻めればいいだけだ」

俺の作戦は単純なものだったが、キングも同じように考えたのだろう。

そして、跳躍で十字槍の刀身を飛び越えたキングが飛び蹴りでインシュンの顔面に迫る。

「フライングキック!!」

しかし、飛び蹴りが直撃すると思われた刹那だった。

キングが背を向けている地面の中からクナイが発射される。

そのクナイがキングの背中にズブリと突き刺さった。

キングが戸惑う。

「何っ!!」

再び謎の攻撃が地中から飛んできたことでキングの蹴り足が狙いを外した。

戸惑うキングの隙をついてインシュンが飛び越え躱された十字槍を、跳躍中のキングの足元から真上に振り上げる。

槍で切る気のようだ。

「ヌォォオオ!!」

「くくっ!」

キングは両足を揃えて十字槍の持ち手を踏みつけると下から上ってきた攻撃を足裏で受け止めた。

だが、インシュンは巨漢から生み出される怪力で槍先を踏みつけているキングの体ごと釣竿を振り上げるように槍を吊り上げた。

その勢いで槍を踏みつけているキングの体がインシュンの後方に投げ捨てられる。

飛ばされたキングは空中で膝を抱えて回転すると閉じている門の扉を蹴飛ばし跳ね返って来た。

華麗な三角飛びだ。

「甘いっ!」

「ナンノッ!」

インシュンもすぐさま振り返ると十字槍を横に振るってキングの撃墜を狙った。

三角飛びで宙を舞うキングは、体を延ばしながら腰に捻りを加えると空中で軌道を反らして十字槍の刀身を回避する。

「躱スカッ!!」

更にキングはインシュンの眼前で地面を蹴ると再び跳躍した。

その跳躍でインシュンの頭上を飛び越える。

「ナヌッ!?」

振り返ろうとするインシュンを無視してキングは、着地と同時に逆手に持っていた鞘入り刀を地面に突き立てた。

鞘の先端がガンッと地面に打ち刺さる。

その様子を見てインシュンが叫んだ。

「キリマルッ!!」

キリマルって、名前か?

今、インシュンは誰かの名前を叫んだのか?

続いてキングが鋭い爪を有した片腕を高く振り上げると、勢いを乗せてから足元の地面を指で突いた。

貫手で地中を抉る。

キングの手首が地面に深くめり込んでいた。

「掴んだぞ!!」

キングは叫んだ後に地面に突き刺した腕を力任せに引っこ抜く。

すると地面の中から一匹のリザードマンがキングによって掘り出された。

リザードマンは後ろ首をキングに鷲捕まれている。

その地中から掘り出されたリザードマンは額から流血を垂れ流して白目を剥いていた。

二つに割れた長い舌を口元からだらしなく垂らしている。

先程の鞘入り刀の降下突きで頭を打たれていたのだろう。

完全に意識が途切れているようだ。

「オラッ!」

キングは地面から引き抜いたリザードマンを頭上で振り回すとインシュンに向かって全速力で投げ捨てた。

投げられたリザードマンは人型手裏剣のように手足と全身を回転させながら飛んで行く。

「ナヌナヌナヌッ!!」

人型手裏剣がインシュンにヒットする。

投擲されたリザードマンがインシュンの巨漢を巻き込んで倒れ込んだ。

「オノレッ!」

投げつけられたリザードマンを自分の体の上から払いのけたインシュンが立ち上がろうとした刹那だった。

そのインシュンの眼前を猛スピードで何かが過ぎる。

カツリっと、僅かな音が鳴った。

途端である。

インシュンの意識が闇に落ちる。

巨漢も力無く崩れた。

キングが鞘入りの刀でインシュンの下顎をカスルような一撃で打ち殴ったのだ。

それがもたらす効果は脳震盪。

顎先を素早く横殴られてインシュンの意識は100メートル先まで飛ばされていた。

インシュンの意識がもどるまでは、相当時間が掛かるだろうさ。

この勝負、キングの勝ちである。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

処理中です...