上 下
5 / 69

5・人柱の少女

しおりを挟む
俺は柱の陰からこちらを覗いている少女に声を掛けた。

「誰だい、お前は?」

俺の質問に柱の陰から姿を完全に出さないまま少女が弱々しい声で答える。

『あなたこそどなたですか……?』

ああ、質問に質問で返してきたよ。

面倒臭いタイプの女の子かな?

でも声は綺麗で口調も可愛かったぞ。

しゃあない、ならば俺から答えてやるか。

「俺は転生してきた新しい魔王だ。名前は……。あ~、なんだったっけな……。ド忘れしちゃったよ……」

うぬぬ~、名前を思い出せない。

確か舌を噛みそうな名前だったのは覚えているが、それ以上は思い出せないぞ。

「確か名前はエリクなんたらだ」

『エリクなんたら?』

巫女服を纏った金髪の少女は首を傾げる。

「エリクでかまわん。そう呼んでくれ」

『魔王、エリクさま……』

「そう、新魔王エリクだ」

思い出せないものは仕方がない。

この先はエリクと名乗っていこう。

そもそも名前なんぞ小さな問題だからな。

「それで、お前は何者だ?」

ついでだからどんどん質問しちゃおうかな。

「そして、ここはどこだ?」

少女は俺の質問に答えてくれた。

『ここは忘れられた墓城です……』

「ぼじょう?」

お墓の城なのか?

それとも、お墓が城なのかな?

どっちだろう?

俺が詰まらないことで悩んでいると少女が柱の陰から語り出す。

『昔は魔王様の眷族が住んでおられましたお城でしたが、魔王様が亡くなられたあとはお墓として使われておりました』

「それで墓城なのか」

『はい……』

「それで、お前は誰だ?」

少女はおどおどしながら答えた。

『僕は人柱の巫女の……霊です……』

「人柱の巫女の……霊?」

人柱って、生け贄とかの類いなのかな?

少なくとも祀られて殺された人だよね?

それよりも、こいつ僕っ娘だよ。

本当に居るんだな、僕っ娘って……。

『簡単に申し上げますと、僕は巫女の幽霊です。ゴーストです』

俺はポンっと手を叩いてから言った。

「なるほど。要するに、ゴーストでアンデッドってことか」

『そうなります……』

それにしてもだ。

「こんな可愛らしい少女を人柱として捧げてしまうなんて、なんて美少女の無駄遣いなんだろうな。実に勿体無い話だぜ」

『そ、そうですか、てへへ……』

あっ、なに、このゴーストは?

死人なのに照れてやがるぞ。

でも、可愛いじゃあねえか。

「ところでお前の名前はなんて言うんだ?」

柱の陰から姿を出した少女の霊は微笑みながら名乗る。

『僕はキルルと申します、魔王様』

なんだ?

名前を訊かれて嬉しそうだな?

まあ、いいか。

「ところでキルルとやら、いろいろ訊きたいことがあるのだが、訊いても良いかな?」

『はい、なんでございましょう?』

キルルは柔らかく微笑みながら答えた。

その美少女に俺は個人的な質問を投げ掛ける。

「歳はいくつなん?」

キルルは俯きながら少し暗い表情で答えた。

『おそらく死んでから数千年ぐらいかと……』

「数千年って、すげ~長生きだな。いや、死んでるんだっけ」

『はい、僕は死んでいます……』

「生前の歳は?」

『14歳で人柱として祀られました……』

「14歳か~。そこで精神年齢は止まっているのか?」

キルルはキョトンっとした表情で首を傾げる。

『僕には訊かれている意味が理解できませんが……』

「なるほどね」

おそらく精神年齢は14歳だが、実年齢は数千歳を突破しているのだろう。

要するに、手を出しても合法だ。

犯罪にならないぞ!

そもそも幽霊だ。

エロいことをしても犯罪にならないだろうさ。

なんかラッキーな出会いである。

これは俺のハーレム一号として確保しなくてはならない人材だろう。

童貞放出の候補である。

「キルル、最後の質問だ。これは重要なことだから素直に答えるのだぞ!」

『は、はい……』

俺はズバリと訊いた。

「お前は処女か!?」

そう、俺は誓いの呪いのために処女には手が出せない。

おそらく相手が死んでいようと生きていようと関係ないだろう。

だから、これはヒロインを選ぶのに重要な質問である。

キルルの顔が真っ赤だった。

モジモジしながら恥ずかしそうに答える。

『ひ、人柱の巫女は、基本的に汚れなき乙女しか選ばれませんでしたから……』

っと、言うことは……。

「ちくしょう!!」

俺は膝から崩れ落ちて、石畳の床を拳で叩いた。

「なんたることだ!!」

『ど、どうかしましたか!?』

俺は女神アテナの言葉を思い出していた。

それは処女の誓いの文言だ。

「俺は処女を抱くと死んでしまう。それが俺に着せられた誓いと言う名の呪いなのだ!」

死の呪い。

それは屈辱的な呪いだ。

ムカつく運命である。

「ち、ちくしょう! こんな可愛い娘に出会えたのに、抱くことが出来ないなんて、ガッカリだ! マジでガッカリだぞ!!」

『抱くってなんですか!!??』

こうして俺の異世界転生は、少しずつ歯車が噛み合わなくなっていくのである。

まるでネジが外れて演奏が可笑しくなったオルゴールのように……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...