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52【集合・前編】
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「アビゲイル、大鍋は持ったか?」
『はい、マスター。ヨーゼフさんからお借りしました。このサイズならば50人分ぐらいのスープが作れると思います』
アビゲイルが自分の異次元宝物庫から見せる大鍋はラーメン屋がスープを煮込むときに使うサイズの大きな鍋だった。今回の祭りで狩ったジャイアントレイクロブスターを煮込むために用意した鍋である。
何故に大鍋を用意するか?
それは単純である。巷の料理人が作った料理は味が雑で俺の口に合わないからだ。アビゲイルの作った料理のほうが断然に美味いのである。だから俺たちは俺たちで食事を作ろうと考えていた。
この異世界は料理に使う調味料が少ない。それは都会に行けば行くほど調味料が高く売られるようになるからだ。都会だと需要と供給が一致していないのである。
しかし、田舎だとハーブなどの香辛料は結構と採れる。そして、その調理法を知っている者も多い。俺の家で雇っているヨーゼフも俺たちと同じトウエ村の出身だから、その辺のハーブの使い方も心得ているのだ。だからヨーゼフから調理を習ったアビゲイルも当然ながら料理が上手いのである。
「香辛料もちゃんと持ったよな」
『ご心配は御座いません、マスター。塩、胡椒、山椒、シナモン、バジル、ローズマリー、生姜、ニンニク、唐辛子。今回あるのはこのぐらいです』
「まあ、そのぐらいあれば美味い飯が作れるだろう。知らんけど……」
天童と謳われる俺であっても不得意なものがある。それは料理だ。料理だけはいくら勉強しても上達しない。
以前ドロシー婆さんに習って料理にチャレンジしたが、意味が分からん。言われた通りに玉子を焼いてみたが焦げてフライパンに張り付くし、野菜炒めを作ろうと野菜を刻めば指を切る。何故に彫刻で刃物の扱いに慣れているはずなのに調理になると指を切るのかが理解できないのだ。
まあ、これは呪いだな。運命である。神様は俺に調理をするなと告げているのだ。ならばその定めを受け入れよう。だから俺は料理をしないと決めたのだ。だからメイドゴーレムを作ったのである。
「よーし。それじゃあ冒険者ギルドに向かうぞ」
『畏まりました、マスター』
「わぁ~~い、遠足だぁ~」
俺たちが屋敷を出るとテンションが早くもアゲアゲなアンジュがアビゲイルの頭上で踊っていた。完全に遠足気分である。
まあ、今回のミッションが遠足と言われても無理はないだろう。何せ総勢100人近くの人間が動員される討伐作戦なのだ。賑やかしの妖精がはしゃぎ出すのも無理がない。
あ、でも、最近の子供たちって遠足って無いんだっけ。それも淋しい話だね。皆でワイワイ騒ぎながら目的地を徒歩で目指して青空の下でお弁当を食べる。それはそれで和やかなイベントだったのだが。
そんなことを俺が考えながら歩いていると、やがて冒険者ギルドの前に到着した。ギルドの前には複数の冒険者たちが屯している。冒険者だけだなく一般人も混ざっていた。後方支援の人たちだろう。
そして、俺たちを見付けて手を振るボーイッシュな美少女が居た。ミゼラちゃんだ。
ミゼラちゃんは豪華な服の上に高価な革鎧を纏って宝刀のようなサーベルを腰に下げていた。その成りは周囲の冒険者たちと比べて豪華に見えた。完璧に成金の出で立ちである。
そんなミゼラちゃんの横には大女が立っていた。白銀のプレートメイル。背中には大きなグレートソードを背負っている。そしてゴリラ顔が強烈なインパクトを放っていた。年齢不詳の女騎士カルラだ。ミゼラちゃんの護衛としてギランタウンに残った王都の騎士である。
「アトラス先生、遅いですよ。遅刻寸前じゃあないですか」
「遅刻寸前は遅刻していないから問題ないだろう」
「駄目ですよ、アトラス先生。貴族たるもの時間には厳しく行動しなくてはなりませんよ」
「俺、まだ貴族じゃあないもんね~」
「子供みたいなことを言わないでください」
ミゼラちゃんが呆れる中で俺は周囲のメンバーをチェックした。
冒険者たちは様々だ。剥げでマッチョマン、モヒカンのデブ、ガリガリの魔法使い、オバサンシーフ、貧乏臭い僧侶などなど様々居た。どいつもこいつも冒険者としては一流なのかも知れないがやさぐれている。一般人とは違って見えた。
そんな中でも一際目立つ者たちも居る。
まず目に入ったのはタイガーキャットたちのパーティーである。アニマルルックの一団だったから目立ったのだ。
虎の毛皮を被った幼い乙女。わんぱくそうな表情には野性味も映っていた。その背後に立つのは熊の毛皮を頭から被った中年の大男だった。おそらく身長は2メートルは遥かに超えている。腹は出ているが筋肉質。腕の太さなんてタイガーキャットの腰回りと同じである。そんな巨体の背中に巨大な鉄鎚を背負っている。完璧なパワー系ファイターだろう。
更に二人。
一人はロングスカートに革ジャンを纏い鍔の広いトンガリ帽子を被っていた。しかし、そのトンガリ帽子には長い兎の耳が飛び出ている。バニーガールだ。しかし手に持ったスタッフからマジックユーザーだと分かる。
最後の一人は矮躯な男。頭から大鼠の毛皮を被って不精髭を蓄えている。おそらく30歳過ぎの中年である。ネズミを被っているせいか清潔感が乏しく見えた。体はローブで隠していたから装備は分からないが、雰囲気からしてシーフだろう。陰気さがそれを臭わせる。
この四人でアニマル冒険団パーティーと名乗っているらしい。衣装が衣装だけに有名な連中である。
しかし、冒険者としての実力もかなり優秀だと聞かされていた。リーダーのビッグベアーはギルドで一番の力持ちだそうな。確かにあの巨体ならば怪力無双だろう。
『はい、マスター。ヨーゼフさんからお借りしました。このサイズならば50人分ぐらいのスープが作れると思います』
アビゲイルが自分の異次元宝物庫から見せる大鍋はラーメン屋がスープを煮込むときに使うサイズの大きな鍋だった。今回の祭りで狩ったジャイアントレイクロブスターを煮込むために用意した鍋である。
何故に大鍋を用意するか?
それは単純である。巷の料理人が作った料理は味が雑で俺の口に合わないからだ。アビゲイルの作った料理のほうが断然に美味いのである。だから俺たちは俺たちで食事を作ろうと考えていた。
この異世界は料理に使う調味料が少ない。それは都会に行けば行くほど調味料が高く売られるようになるからだ。都会だと需要と供給が一致していないのである。
しかし、田舎だとハーブなどの香辛料は結構と採れる。そして、その調理法を知っている者も多い。俺の家で雇っているヨーゼフも俺たちと同じトウエ村の出身だから、その辺のハーブの使い方も心得ているのだ。だからヨーゼフから調理を習ったアビゲイルも当然ながら料理が上手いのである。
「香辛料もちゃんと持ったよな」
『ご心配は御座いません、マスター。塩、胡椒、山椒、シナモン、バジル、ローズマリー、生姜、ニンニク、唐辛子。今回あるのはこのぐらいです』
「まあ、そのぐらいあれば美味い飯が作れるだろう。知らんけど……」
天童と謳われる俺であっても不得意なものがある。それは料理だ。料理だけはいくら勉強しても上達しない。
以前ドロシー婆さんに習って料理にチャレンジしたが、意味が分からん。言われた通りに玉子を焼いてみたが焦げてフライパンに張り付くし、野菜炒めを作ろうと野菜を刻めば指を切る。何故に彫刻で刃物の扱いに慣れているはずなのに調理になると指を切るのかが理解できないのだ。
まあ、これは呪いだな。運命である。神様は俺に調理をするなと告げているのだ。ならばその定めを受け入れよう。だから俺は料理をしないと決めたのだ。だからメイドゴーレムを作ったのである。
「よーし。それじゃあ冒険者ギルドに向かうぞ」
『畏まりました、マスター』
「わぁ~~い、遠足だぁ~」
俺たちが屋敷を出るとテンションが早くもアゲアゲなアンジュがアビゲイルの頭上で踊っていた。完全に遠足気分である。
まあ、今回のミッションが遠足と言われても無理はないだろう。何せ総勢100人近くの人間が動員される討伐作戦なのだ。賑やかしの妖精がはしゃぎ出すのも無理がない。
あ、でも、最近の子供たちって遠足って無いんだっけ。それも淋しい話だね。皆でワイワイ騒ぎながら目的地を徒歩で目指して青空の下でお弁当を食べる。それはそれで和やかなイベントだったのだが。
そんなことを俺が考えながら歩いていると、やがて冒険者ギルドの前に到着した。ギルドの前には複数の冒険者たちが屯している。冒険者だけだなく一般人も混ざっていた。後方支援の人たちだろう。
そして、俺たちを見付けて手を振るボーイッシュな美少女が居た。ミゼラちゃんだ。
ミゼラちゃんは豪華な服の上に高価な革鎧を纏って宝刀のようなサーベルを腰に下げていた。その成りは周囲の冒険者たちと比べて豪華に見えた。完璧に成金の出で立ちである。
そんなミゼラちゃんの横には大女が立っていた。白銀のプレートメイル。背中には大きなグレートソードを背負っている。そしてゴリラ顔が強烈なインパクトを放っていた。年齢不詳の女騎士カルラだ。ミゼラちゃんの護衛としてギランタウンに残った王都の騎士である。
「アトラス先生、遅いですよ。遅刻寸前じゃあないですか」
「遅刻寸前は遅刻していないから問題ないだろう」
「駄目ですよ、アトラス先生。貴族たるもの時間には厳しく行動しなくてはなりませんよ」
「俺、まだ貴族じゃあないもんね~」
「子供みたいなことを言わないでください」
ミゼラちゃんが呆れる中で俺は周囲のメンバーをチェックした。
冒険者たちは様々だ。剥げでマッチョマン、モヒカンのデブ、ガリガリの魔法使い、オバサンシーフ、貧乏臭い僧侶などなど様々居た。どいつもこいつも冒険者としては一流なのかも知れないがやさぐれている。一般人とは違って見えた。
そんな中でも一際目立つ者たちも居る。
まず目に入ったのはタイガーキャットたちのパーティーである。アニマルルックの一団だったから目立ったのだ。
虎の毛皮を被った幼い乙女。わんぱくそうな表情には野性味も映っていた。その背後に立つのは熊の毛皮を頭から被った中年の大男だった。おそらく身長は2メートルは遥かに超えている。腹は出ているが筋肉質。腕の太さなんてタイガーキャットの腰回りと同じである。そんな巨体の背中に巨大な鉄鎚を背負っている。完璧なパワー系ファイターだろう。
更に二人。
一人はロングスカートに革ジャンを纏い鍔の広いトンガリ帽子を被っていた。しかし、そのトンガリ帽子には長い兎の耳が飛び出ている。バニーガールだ。しかし手に持ったスタッフからマジックユーザーだと分かる。
最後の一人は矮躯な男。頭から大鼠の毛皮を被って不精髭を蓄えている。おそらく30歳過ぎの中年である。ネズミを被っているせいか清潔感が乏しく見えた。体はローブで隠していたから装備は分からないが、雰囲気からしてシーフだろう。陰気さがそれを臭わせる。
この四人でアニマル冒険団パーティーと名乗っているらしい。衣装が衣装だけに有名な連中である。
しかし、冒険者としての実力もかなり優秀だと聞かされていた。リーダーのビッグベアーはギルドで一番の力持ちだそうな。確かにあの巨体ならば怪力無双だろう。
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