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28【ドラマチックショップに来店】

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これは、驕りだろう。

俺はアビゲイルの強さに奢っていたのだろう。それが、この結果だ。

唐突に迷い込んだ不思議空間。そこで出くわした謎の魔人。それでも俺ならば、俺が作ったアビゲイルならば乗り越えられると思っていた。この半透明な人間もアビゲイルならば軽々と倒して、次に進めると思っていた。

だが、結果はこのザマである。

アンジュは黒猫に拐われて、アビゲイルは半透明な人間に動きを封じられている。

「クソっ、なんだこれは……」

アビゲイルは半透明な人間に頭を地面に押し付けられて動けないでいた。あのアビゲイルがパワーで負けているのだ。それが誤算であった。

そもそもなんなんだ?

なんだ、この空間は?

なんだ、この半透明な人間は?

なんだ、このドラマチックショップってよ!?

俺が望んだのは楽しい冒険者のスローライフである。このようなことは企画外だ。

あり得ないことが連発して起きている。俺の認識を越えたことが一度に何個も起きている。

考えろ。何が起きているんだ?

しかし、俺が考えても悩んでも回答は出ない。ならば回答は行動で引き出すしかないだろう。

「やるしかねぇ……」

俺は異次元宝物庫からショートソードを取り出すと両手でしっかりと構えた。

半透明な人間に切りかかる。それしか次に進める方法が思い付かない。

多分無駄だろう。それでもやるしかないだろう。

「一か八かだ……」

そして、俺が敵意を視線だけで半透明な人間にぶつけると、半透明な人間がアビゲイルを押さえたまま頭を上げた。今度は俺を凝視している。

「うう……」

その見えない視線に俺が怖じけ付いた。

怖い……。

やっぱりこいつ、怖いよ……。

逃げたいわ~。もう逃げたいよ~。なんでこんなことになったんだ、畜生……。

そして、臆した俺が切り込めないでいると、お店の開いた扉の隙間から猫の鳴き声が聴こえてきた。その鳴き声に俺が釣られて視線を向けると、今度は女性の声が聴こえて来る。

「おやおや、怯えたかえ?」

「女……」

なんともねっとりした誘惑的な口調だった。大人っぽさの中に色気が充満しているような声色である。

その声は続く。

「ケット・シーの奴が珍しい少年を引っ張ってきたから様子を伺っていれば、思った以上に小者で残念だったわい」

「こ、小者……」

俺が小者だって?

天童で転生者の俺が小者だと?

舐められている。舐められてるよね。

まあ、しゃあねぇか。この醜態だ。小者と揶揄されても仕方あるまい。

だが、これはこれで好機!

会話が出来る。会話が出来るならば俺の出番だ。会話から今の状況を打開出来るかも知れない。

俺は扉の向こうの女性に問い掛けた。

「ここはいったいなんだ? 何が起きている?」

「知りたいのならば、店の中に来店して参れ」

「は、入っていいのか?」

「お主をお客と認めようぞ」

「で、でも……」

俺はアビゲイルを押さえ込んでいる半透明な人間を凝視した。こっちをずっとガン見している。

「安心せい。それは貴様に手を出さん。しかし、貴様のゴーレムはしばらく拘束させてもらうぞ」

「ああ、わかった……」

アビゲイルの拘束を解かないのならば、相手も俺を信用していないってことになる。まだ俺の反撃を恐れているってことになるな。

ならば俺も警戒は解けない。だが、店の中に歩みを進めないと成らないのは確定していることだ。店に入らなければ話は進まない。

俺は恐る恐る半透明な人間の横を過ぎると店の入り口前に立った。その間も半島目な人間は首だけの動きで俺を追っていた。それが不気味で堪らない。

俺は決意を固めて扉のノブに腕を伸ばす。そしてノブを握った。

「冷たい……」

まるで氷だ。氷で出来ているようなドアノブだった。

それでも俺は扉を引いて店内を覗き込んだ。

店の中は薄暗かった。そして、埃っぽい。

店内には陳列だなが並び、そこには骨董品のような物が幾つも並んでいた。その中には見たこともないアーティファクトや剣や鎧までも並んでいる。まさに骨董品屋といった景色であった。

そして、上を見上げれば、高い天井には古びたシャンデリアが吊るされていた。そのシャンデリアに複数の蝋燭が灯されている。店内の明かりはそれだけだったが、それ以上に明るく見えた。

その古びたシャンデリアを見上げながら俺は呟く。

「あのシャンデリア。マジックアイテムだな。それに、店内の品物全部がマジックアイテムばかりだ……」

すると店の奥から女の声が飛んでくる。

「少年。良い目を持っているようだねぇ。黙視で魔力が計れるかぇ」

俺が店の奥を見ると、陳列だなの向こうに真っ赤な長ソファーが見えた。その深紅の長ソファーにセクシーな女性が横たわっている。

長い金髪。化粧は厚い。年の頃は40を越えてそうな年増。だが、美人。

真っ赤なドレスは露出度が多い。そして、スレンダーで豊満なスタイル。要するに誘惑的な女性だった。

そんな誘惑的な女性が煙管をふかしながらこちらを見ている。その長ソファーの前に黒猫がうずくまっていた。黒猫はアンジュを抱え込みながら腰をヘコヘコと律動させている。

「あーーー! うちの使い魔が汚されている!!」

「にゃ~♡」

「ふにゃふにゃ……」

黒猫にヘコヘコされているアンジュは酔いつぶれて眠っているようだ。そんな泥酔している妖精を黒猫はヘコヘコしながら辱しめているのだ。

「ムムムムムムッ。なんて卑猥な光景だろう。ちょっとドキドキしちゃうじゃんか!」

「安心してちょうだいな。この子は矯正手術が済んでいるから危険は無いわ」

「でも、ヘコヘコしてるよ!?」

「これは生前の名残と言うか、まだあったころの本能と言うかのぉ。まあ、こいつにはついてないから安心するが良いぞ」

「まあ、何よりさ。そのヘコヘコはやめさせて。それは妖精に対してセクハラだぞ。このあと訴えてやる」

「そ、そうね……。今すぐやめさせるから訴えるのはやめてね」

女が煙管を一振りした。するとアンジュの上からヘコヘコやっていた黒猫の姿が消えた。イリュージョンである。

「消えた……」

「これで良いかしら?」

「あ、ああ……」

俺が気の無い返事を返すと女が自己紹介を始める。

「妾の名は、ミラージュ。このドラマチックショップの店主なり」

なんとも時代かかったしゃべり方だった。だが、見ただけで分かる。

この女、桁外れの魔力を秘めているぞ。いや、もう秘めていない。隠していないのだ。お色気と一緒でダダ漏れである。


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