上 下
599 / 604

第598話【ファイナルファイト】

しおりを挟む
アマデウスの野郎が三戦さんちんの構えで鋼鉄化していた。

ウルトラメタルボディーの魔法だ。

完全に引きこもり状態だぜ。

これだから魔法使いって人種は困るんだ。

何か都合が悪くなると直ぐに塔やらダンジョンに引きこもりやがる。

兎に角、陰気な野郎共なんだよな。

俺はオーガラージメイスで鋼鉄化したアマデウスの股間を集中的に乱打していた。

ガンガンっと叩く。

「こなクソ、こな糞、こなくそ~!!」

やっぱり効かねぇ~……。

頭をどついても、股間をどついても鋼は鋼だ。

この程度の強打じゃあ歯が立たない。

まさにウルトラメタル状態だよな。

悔しいが、この魔法のディフェンス力は完璧だ。

俺は肩を落として言った。

「それなら、手を変えて行きますか……」

オーガラージメイスを異次元宝物庫に仕舞うと別のマジックアイテムを取り出す。

「ジャジャ~ン。なら、今度はこれだ!」

俺が次に取り出したマジックアイテムはバトルアックスである。

そのバトルアックスを鋼鉄化するアマデウスの肩に乗せると顔を近付けながら言った。

「鋼鉄化してても見えてるんだろ。さっきも俺や糞女が居なくなってからこっそり魔法を解除してたもんな。って、ことはだ。視力や聴覚が残ってるのかな。もしかして両方とも残ってるのかな~」

俺は嫌らしく微笑みながら言う。

「それじゃあよ~。視力や聴覚が残ってるなら、勿論ながら嗅覚も残ってますよね~?」

俺はバトルアックスでアマデウスの鋼鉄の肩をポンポンっと叩いた。

「この斧は悪臭のバトルアックスって言うんだぜぇ~」

【悪臭のバトルアックス+2。魔力で強烈な悪臭を10分間放つ。命中率の向上】

「こいつは途轍もなく臭いぜ~。もう、鼻が捥げるほどにな~!」

アマデウスの首に巻き付いていたショートスピアが巻き付く位置を変えた。

首から頭に移動する。

口と鼻だけ見えるように巻き付く。

「これで、魔法を解いても鼻は塞げないぜ~」

俺は自分の口と鼻を布切れで縛るとマジックアイテムの効果を発動させた。

「悪臭、噴射っ!!」

刹那にバトルアックスから悪臭が流れ出し辺りに充満する。

空気に紫色が着色されていた。

悪臭が色となって見えているのだ。

俺は叫んだ。

「臭っ!!!」

凄い悪臭だった。

鼻を布で覆っているが、それでも臭う。

スバルちゃんの体臭にも劣らない悪臭だ。

激臭レベルだ。

臭いの攻撃に慣れているつもりだったが鼻が曲がりそうで耐え難い。

だが、これで次にレベルアップした時には悪臭耐性スキルを獲得できるだろう。

このスキルだけは獲得しなければ結婚生活が破綻するかもしれないので必須である。

俺は俺の嗅覚をスパルタ方式で強化しなくてはならないのだ。

一方のアマデウスは初めて体験するだろう悪臭攻撃に鋼鉄の身体を震わせていた。

鋼鉄化したボディーがカタカタと痙攣している。

「効いているな。もう少し待ってみるか……」

いずれ悪臭に追い詰められてアマデウスも鋼鉄化の魔法を解くはずだ。

その時は直ぐに訪れた。

悪臭に耐えかねたアマデウスがウルトラメタルボディーの魔法を解除する。

「臭い、臭いぞ!!!」

アマデウスは必死に自分の鼻を押さえようと試みるが頭部に巻き付いた手槍の厚みに阻まれて阻止されていた。

しかも視界も手槍によって塞がれている。

臭ううえに見えなくて、更には頭が手槍の束で重いのかふらついていた。

「ここは一丁、ぶん殴っておこうかな~」

俺は異次元宝物庫からスターメリケンサックを取り出すと両拳に装着した。

【スターメリケンサック+2。ショットガン式の連続パンチを一日一回繰り出せる。メテオ式巨大拳を一日一回繰り出せる】

「それじゃあ一発ドデカク行くぜぇ~。とうっ!!」

俺は高くジャンプしてから鉄拳を振りかぶった。

「メテオダイナミックパーーンチっ!!!」

巨大化する俺の右拳が空から振ってくる。

その一撃がアマデウスの頭を脳天からぶん殴った。

更に振りきられた巨体鉄拳が第九の脳天も殴り付ける。

ドシリっと周囲が揺れた。

あまりの衝撃に吹き飛んだアマデウスが転がると巻き付いていた蛇手槍も外れてしまう。

そして、転がったアマデウスの身体が第九の縁ギリギリで止まった。

「落ちなかったか、まあ落ちても追って行くけどな」

俺がアマデウスのほうに歩き出すとユラユラとアマデウスが立ち上がる。

「お、おのれ……、糞餓鬼が……」

アマデウスは肩で息を切らしていた。

呼吸がままならないのだろう。

足も若干だが震えている。

見るからに立っているのもやっとに見えた。

それらから決着が近いことが俺には悟れた。

俺は悪臭のバトルアックスを異次元宝物庫に仕舞う。

それから仁王立ちで言う。

「そろそろ決着を付けようか」

アマデウスが拳を構え直して怒鳴った。

「勝つのは私だ!!」

アマデウスが前に跳ねる。

低い跳躍から真っ直ぐに伸ばされた縦拳が俺の眼前に迫る。

その拳の形は一本拳。

その角先が俺の人中にヒットした。

「緩いっ!!」

人中で一本拳を受け止めた直後、俺は頭を反らした。

威力を受け流す。

更にカウンターの右アッパーカット。

俺のメリケン付き鉄拳がアマデウスの下顎を突き上げた。

そして、腕を振り切るとアマデウスの口から白い歯が数本飛んだ。

「ぐはっ……」

「ふっ!!」

続いて鍵拳。

左フックがアマデウスの頬を横殴る。

また、白い歯が血を混ぜながら飛んだ。

するとアマデウスの身体がフラリと回って俺に背を見せる。

完全なる隙──。

俺が背後からアマデウスの後頭部を殴ろうと拳を上げた。

直後、アマデウスの頭が前のめりに沈む。

その代わりにシーソーの原理で片足が跳ね上がって来た。

ここでアマデウスの反撃。

中段掬い後ろ蹴りが俺の股間に忍び込む。

本日五度目の金的だ。

ガンっと俺の身体が下半身から僅に跳ねた。

激痛──。

だが、耐えた。

金的に耐えられた。

俺は片玉だからダメージも半分なのだろう。

だから耐えられたのだろう。

代わりに俺がアマデウスの背後から掬い蹴りを股間に打ち込んだ。

「ぎぃゃっ!!!」っとアマデウスが悲鳴を上げる。

アマデウスの背筋がピンっと伸びた。

初めての感触だった。

蹴り足から伝わる感触は、球体が弾ける感触だ。

悟る。

ああ、アマデウスも潰れたな──。

そう俺が思った直後、アマデウスが顔から前に倒れ込む。

額を地面に押し付け、お尻を突き上げて爪先で立っている。

への字だ。

への字でダウンしてやがる。

俺は突き上げられたアマデウスのお尻に言った。

「なあ、アマデウス。これで決着ってことにしないか?」

和解だ。

そもそも俺にはアマデウスと戦う理由が無いに等しい。

それに俺には人を殺す趣味もない。

この異世界に転生してから一度も、一度たりとも人間を殺したことは無いのだ。

それは誇りだ。

まあ、アンデッドなら何体も退治はしたけれどね。

だから、そんなわけでアマデウスも殺す気はサラサラ無いのだ。

それに片玉の仇も取れたしね。

しばらくするとアマデウスがフラフラと立ち上がる。

その顔は汗だく。

苦痛に歪む顔は前歯が数本抜けており、十歳は年を取ったかのように老けていた。

そこからダメージの程が知れる。

それでもアマデウスの心は折れていない。

「ほざけ、糞餓鬼が……。私はお前を倒して、魔王城を占拠するのだ……。そして、宝物庫からハーデスの錫杖を奪い取る……。それで、冥界に妻を迎えに行くのだ……」

俺はサラリと述べた。

「じゃあ、ハーデスの錫杖をくれてやるよ」

「えっ……?」

アマデウスの怒りと執念に燃えていた瞳が点になる。

「俺さ、わけあって魔王になることにしたから、宝物庫の錫杖とらやを、お前に上げるよ。だから、もう喧嘩は止めようぜ」

「えっ……?」

アマデウスの両肩から力が抜けて脱力している。

俺は踵を返して魔王城のほうを見た。

そして大声を張る。

「マミーレイス婦人。マミーレイス婦人は居るか~。顔を出してくれ~」

俺が怒鳴ると魔王城のテラスからローブに身を纏った巨乳のリッチが姿を表した。

マミーレイス婦人が返答する。

『なんで有りましょう、アスラン様?』

「なあ、俺が新しい魔王になるから、宝物庫を開けてもらえないか~?」

『誠に魔王様に就任なされるのでありますか!?』

「ああ、魔王になる。なんか問題でもあるか?」

『いえ、ですが……』

「俺が魔王になっても、世界征服とかしないけど、それでも問題ないよな?」

『はい……、それは魔王様の自由。そもそも魔王様とは、世界最大の自由人ですから』

「よし、決まりだ!!」

こうして俺は、呆気なく第11代目魔王に就任した。

新たな時代が、ここから始まる。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

ゲームっぽい世界に転生したので人間性を捨てて限界まで頑張る ~転生勇者もヒロインズも魔王もまとめてぶちのめす~

無職無能の自由人
ファンタジー
経験値2倍?秘密ルート?スキルビルド?勝手にやってろ ゲームっぽい世界に転生したので頑張って頑張っていこう! 馬鹿で才能が無く特別な知識も無い、それでも人格持ち越しこそがウルトラチート

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

異世界で賢者になったのだが……

加賀 燈夜
ファンタジー
普通の高校生が通り魔に殺された。 目覚めたところは女神の前! そこで異世界転生を決意する 感想とアドバイス頂ければ幸いです。 絶対返すのでよろしくお願い致します。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界×ソロ冒険×ハーレム禁止×変態パラダイス×脱線大暴走ストーリー=前代未聞の地味な中毒性。 ⬛前書き⬛ この作品は、以前エブリスタのファンタジーカテゴリーで一年間ベスト10以内をうろちょろしていた完結作品を再投稿した作品です。 当時は一日一話以上を投稿するのが目標だったがために、ストーリーや設定に矛盾点が多かったので、それらを改変や改編して書き直した作品です。 完結した後に読者の方々から編集し直して新しく書き直してくれって声や、続編を希望される声が多かったので、もう一度新たに取り組もうと考えたわけです。 また、修整だけでは一度お読みになられた方々には詰まらないだろうからと思いまして、改変的な追加シナリオも入れています。 前作では完結するまで合計約166万文字で601話ありましたが、今回は切りが良いところで区切り直して、単行本サイズの約10万文字前後で第1章分と区切って編成しております。 そうなりますと、すべてを書き直しまして第17章分の改変改編となりますね。 まあ、それらの関係でだいぶ追筆が増えると考えられます。 おそらく改変改編が終わるころには166万文字を遥かに越える更に長い作品になることでしょう。 あと、前作の完結部も改編を考えておりますし、もしかしたら更にアスランの冒険を続行させるかも知れません。 前回だとアスランのレベルが50で物語が終わりましたが、当初の目標であるレベル100まで私も目指して見たいと思っております。 とりあえず何故急に完結したかと言いますと、ご存知の方々も居ると思いますが、私が目を病んでしまったのが原因だったのです。 とりあえずは両目の手術も終わって、一年ぐらいの治療の末にだいぶ落ち着いたので、今回の企画に取り掛かろうと思った次第です。 まあ、治療している間も、【ゴレてん】とか【箱庭の魔王様】などの作品をスローペースで書いては居たのですがねw なので、まだハクスラ異世界を読まれていない読者から、既に一度お読みになられた読者にも楽しんで頂けるように書き直して行きたいと思っております。 ですので是非にほど、再びハクスラ異世界をよろしくお願いいたします。 by、ヒィッツカラルド。

処理中です...