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第575話【海王】
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クジラ巨人が魔王城にしがみついていた。
身長はおそらく7メートルか8メートルは有るだろう。
巨人の頭はマッコウクジラだ。
身体はマッチョで人間型なのだが、黒い皮のような皮膚をしている。
そして、分厚い大胸筋の谷間に赤いヘルムを被った男が胸の高さまで埋まっていた。
男の名前はアルカナ二十ニ札衆の一人で、ムーンを暗示するカードの守護者、レッドヘルムだ。
元々彼は遠い場所で漁師を営んでいた青年である。
この世界にもちゃんと海はあるのだ。
だが、この魔王城からはかなり遠い。
ソドムタウンからガルマルに進んで更に西へと旅をすると王都がある。
その王都から更に一ヶ月ほど馬車で旅をすると海が見えてくるのだ。
だから、この辺にすんでいる者たちの殆どが海を見たことがないのだ。
そして、レッドヘルムは、その海の出身だ。
レッドヘルムは漁師でありながら魚類専門のテイマースキルに目覚めてから魚を取らなくなった。
シーテイマーだから魚が友達と言ったわけでもない。
彼は魚を取らなくなった代わりに、人を襲うようになったのだ。
自分でテイミングした海のモンスターたちで観光船や貨物船を襲う海賊に落ちたのだ。
このクジラ巨人のポセイドンアドベンチャーは、そのテイミングした内でも最強の一匹なのだ。
魚を取るより人を襲ったほうが金になる。
幸いレッドヘルムには罪悪感と言う人間性がモロに欠除していた。
人を殺しても、誰が不幸になっても、自分さえ良ければいいのだ。
そんな身勝手で屑な人格者である。
だからノストラダムスに魔王城の宝物庫を襲うと誘われた際には飛び付いた。
しかも、先人を切る四名で魔王城を落とせれば、四人で宝物庫の宝を山分けしても良いと言われたのだ。
アマデウスがハーデスの錫杖だけを貰えれば良いとのことなのだ。
レッドヘルム曰く、こんな美味しい話があるだろうか。
彼は強欲だ。
魔王城の宝物庫と言えば、代々の魔王が貯め込んだ財宝が眠っていると、誰でも知っている噂だ。
しかもノストラダムスが王家と話を付けて、魔王城を襲うことに王家は口を挟まないことになっている。
だから魔王城の宝物庫を堂々と襲えるのだ。
要するに略奪を働いても罪にならない。
これは合法的な取り締まりなのである。
なので、こんな美味しい話に乗らないのは損である。
「ぬぬっ、悪臭が薄らいだぞ」
ポセイドンアドベンチャーの胸元から顔を覗かせるレッドヘルムが鼻をこらして悪臭を確認していた。
悪臭が落ち着くとクジラ巨人は再び魔王城の壁を登りだした。
パンチで開けた穴を目指す。
あそこが謁見室なのは、ここに来る前に見せてもらった城の図面で分かっていた。
ノストラダムスが用意した魔王城の図面だ。
魔王城は魔王大戦後に500年も放置されていた。
その間、宝物庫を探すために徹底的に調査された。
城のマップも、地下牢獄のマップも、すべて作られている。
だから謁見室の場所も分かっていた。
分かっていないのは宝物庫の位置だけである。
レッドヘルムの役割は謁見室の破壊。
続いて指令室の破壊だ。
この二つを破壊してしまえば魔王城の指揮権は混乱するだろう。
魔王城には僅かな兵士か居ないと聞いていた。
その兵力も指揮権が乱れてしまえば、魔王城攻略も容易くなるだろう。
あとは四人目のチャリオットのアキレウスが歩兵を連れて城内を制圧してしまい、ザ・サンが地下をモグラで掘り進めれば終わりだ。
地下さえ暴ければ宝物庫も見つかるだろう。
作戦はバッチリである。
レッドヘルムは、そう目論んでいた。
赤い兜の下でレッドヘルムが微笑みながら述べる。
「さて、とっとと俺は俺の仕事を終わらせよう」
ポセイドンアドベンチャーが再び壁の穴から謁見室を覗き込んだ。
すると黒甲冑の騎士が槍を逆手に持って振りかぶっていた。
ハイランダーズのリーダー、ティラミスだ。
そして、槍を投擲する。
ティラミスが放った槍はポセイドンアドベンチャーの額に突き刺さった。
「ボェェエエエエエ!!!」
「うげぇぇええええ!!!」
ポセイドンアドベンチャーとレッドヘルムが同時に悲鳴を上げた。
そのまま城の壁から手を離して転落して行く。
どうやらクジラ巨人とレッドヘルムの痛覚は共有しているようだ。
ポセイドンアドベンチャーが湖に転落して水柱を上げた。
やがて直ぐにクジラ巨人は立ち上がる。
クジラの頭とレッドヘルムの頭が上を見上げながら愚痴を口走りながら額の槍を引き抜く。
「おのれ、ちょこざいな。こうなったら城ごと崩壊させて、生き埋めにしてやろうか。どうせ目的の宝物庫は地下なのだ、上の城には用がない!!」
クジラ巨人が腰を落として跳躍のための力を溜める。
身体を低くしたためにレッドヘルムの眼前ギリギリまで水面に漬かった。
そして、ジャンプ。
クジラ巨人が跳躍で水面から20メートルほど飛び上がった。
「食らえ、体当たりだ!!」
ポセイドンアドベンチャーが肩から魔王城に飛び込んで行く。
しかし、巨漢が肩から体当たりを決めようとした刹那、巨人の身体が衝突音と共に直角斜めに飛ばされた。
ど~~~んっと、音が空に響いていた。
「なんだっっ!!」
直角に飛ばされる刹那、身体に激しい衝撃がぶつかって来ていた。
その唐突な衝撃に弾かれたのだ。
再びポセイドンアドベンチャーが湖に墜落して水柱を上げた。
本日二回目だ。
「ぷはっ、何事だ!?」
ポセイドンアドベンチャーが水中から跳ね起きると、水面から顔を出したレッドヘルムが周囲を確認する。
状況が把握出来ない。
何に弾かれたか理解出来なかった。
「なあ、そこの赤頭。そのクジラを食べてもいいだろ?」
「女?」
それは若い女の声だった。
その声は城壁の上から聞こえて来た。
レッドヘルムとポセイドンアドベンチャーが同時に城壁の上を見る。
すると臍出しタンクトップにホットパンツ姿の女性が腕を組んで堂々と城壁の上に立っていた。
赤いショートヘアーの女性は凛々しくも自信に溢れた表情でこちらを睨んでいる。
「誰だ、貴様は!?」
「この泉の主、ガルガンチュワだ!!」
「泉? ここは湖だろ?」
「私にしてみれば、狭い泉と同じだ!」
ガルガンチュワが城壁の上から真っ直ぐジャンプした。
まるで弾丸のような速度でポセイドンアドベンチャーに迫る。
「キィーーーーーク!!」
そして、飛び蹴りがマッコウクジラの頭を蹴り飛ばした。
突き刺さるような凄い衝撃がポセイドンアドベンチャーの頭を揺らす。
まるで何トンもある鉄球をぶつけられたような凄まじい衝撃だった。
視界が揺れて巨体が吹っ飛ぶ。
身軽な女性が繰り出した蹴りとは思えない衝撃だ。
ポセイドンアドベンチャーは仰け反りながら飛ばされて、水中に沈んでいた下半身まで露にして水面を飛んだ。
更に水面を巨漢が三度跳ねる。
そして、四度目に跳ねてから水に沈んだ。
方や、クジラ頭を蹴飛ばしたガルガンチュワは蹴りの勢いで城壁まで跳ね戻っていた。
元の場所に着地する。
「ぶっは!!!」
水面を跳ね上げクジラ巨人が身体を起こす。
信じられない攻撃力だった。
だが、これは現実だ。
それはレッドヘルムにも理解できた。
レッドヘルムは恨み深い口調だが冷静に問うた。
「改めて、聞き直そう。貴様は何者だ。人間ではないだろう!?」
人間ではあり得ないパワーだ。
ならば、人間では無いのだろう。
レッドヘルムの結論は、魔王城なのだから、化け物ぐらい居るだろう。
それが、出て来ただけだ。
そう考えていた。
現実、ハズレではない。
ガルガンチュワは傲慢に笑顔を浮かべながら答えた。
「死海の王、レジェンダリークラーケンのガルガンチュワだ!」
【つづく】
身長はおそらく7メートルか8メートルは有るだろう。
巨人の頭はマッコウクジラだ。
身体はマッチョで人間型なのだが、黒い皮のような皮膚をしている。
そして、分厚い大胸筋の谷間に赤いヘルムを被った男が胸の高さまで埋まっていた。
男の名前はアルカナ二十ニ札衆の一人で、ムーンを暗示するカードの守護者、レッドヘルムだ。
元々彼は遠い場所で漁師を営んでいた青年である。
この世界にもちゃんと海はあるのだ。
だが、この魔王城からはかなり遠い。
ソドムタウンからガルマルに進んで更に西へと旅をすると王都がある。
その王都から更に一ヶ月ほど馬車で旅をすると海が見えてくるのだ。
だから、この辺にすんでいる者たちの殆どが海を見たことがないのだ。
そして、レッドヘルムは、その海の出身だ。
レッドヘルムは漁師でありながら魚類専門のテイマースキルに目覚めてから魚を取らなくなった。
シーテイマーだから魚が友達と言ったわけでもない。
彼は魚を取らなくなった代わりに、人を襲うようになったのだ。
自分でテイミングした海のモンスターたちで観光船や貨物船を襲う海賊に落ちたのだ。
このクジラ巨人のポセイドンアドベンチャーは、そのテイミングした内でも最強の一匹なのだ。
魚を取るより人を襲ったほうが金になる。
幸いレッドヘルムには罪悪感と言う人間性がモロに欠除していた。
人を殺しても、誰が不幸になっても、自分さえ良ければいいのだ。
そんな身勝手で屑な人格者である。
だからノストラダムスに魔王城の宝物庫を襲うと誘われた際には飛び付いた。
しかも、先人を切る四名で魔王城を落とせれば、四人で宝物庫の宝を山分けしても良いと言われたのだ。
アマデウスがハーデスの錫杖だけを貰えれば良いとのことなのだ。
レッドヘルム曰く、こんな美味しい話があるだろうか。
彼は強欲だ。
魔王城の宝物庫と言えば、代々の魔王が貯め込んだ財宝が眠っていると、誰でも知っている噂だ。
しかもノストラダムスが王家と話を付けて、魔王城を襲うことに王家は口を挟まないことになっている。
だから魔王城の宝物庫を堂々と襲えるのだ。
要するに略奪を働いても罪にならない。
これは合法的な取り締まりなのである。
なので、こんな美味しい話に乗らないのは損である。
「ぬぬっ、悪臭が薄らいだぞ」
ポセイドンアドベンチャーの胸元から顔を覗かせるレッドヘルムが鼻をこらして悪臭を確認していた。
悪臭が落ち着くとクジラ巨人は再び魔王城の壁を登りだした。
パンチで開けた穴を目指す。
あそこが謁見室なのは、ここに来る前に見せてもらった城の図面で分かっていた。
ノストラダムスが用意した魔王城の図面だ。
魔王城は魔王大戦後に500年も放置されていた。
その間、宝物庫を探すために徹底的に調査された。
城のマップも、地下牢獄のマップも、すべて作られている。
だから謁見室の場所も分かっていた。
分かっていないのは宝物庫の位置だけである。
レッドヘルムの役割は謁見室の破壊。
続いて指令室の破壊だ。
この二つを破壊してしまえば魔王城の指揮権は混乱するだろう。
魔王城には僅かな兵士か居ないと聞いていた。
その兵力も指揮権が乱れてしまえば、魔王城攻略も容易くなるだろう。
あとは四人目のチャリオットのアキレウスが歩兵を連れて城内を制圧してしまい、ザ・サンが地下をモグラで掘り進めれば終わりだ。
地下さえ暴ければ宝物庫も見つかるだろう。
作戦はバッチリである。
レッドヘルムは、そう目論んでいた。
赤い兜の下でレッドヘルムが微笑みながら述べる。
「さて、とっとと俺は俺の仕事を終わらせよう」
ポセイドンアドベンチャーが再び壁の穴から謁見室を覗き込んだ。
すると黒甲冑の騎士が槍を逆手に持って振りかぶっていた。
ハイランダーズのリーダー、ティラミスだ。
そして、槍を投擲する。
ティラミスが放った槍はポセイドンアドベンチャーの額に突き刺さった。
「ボェェエエエエエ!!!」
「うげぇぇええええ!!!」
ポセイドンアドベンチャーとレッドヘルムが同時に悲鳴を上げた。
そのまま城の壁から手を離して転落して行く。
どうやらクジラ巨人とレッドヘルムの痛覚は共有しているようだ。
ポセイドンアドベンチャーが湖に転落して水柱を上げた。
やがて直ぐにクジラ巨人は立ち上がる。
クジラの頭とレッドヘルムの頭が上を見上げながら愚痴を口走りながら額の槍を引き抜く。
「おのれ、ちょこざいな。こうなったら城ごと崩壊させて、生き埋めにしてやろうか。どうせ目的の宝物庫は地下なのだ、上の城には用がない!!」
クジラ巨人が腰を落として跳躍のための力を溜める。
身体を低くしたためにレッドヘルムの眼前ギリギリまで水面に漬かった。
そして、ジャンプ。
クジラ巨人が跳躍で水面から20メートルほど飛び上がった。
「食らえ、体当たりだ!!」
ポセイドンアドベンチャーが肩から魔王城に飛び込んで行く。
しかし、巨漢が肩から体当たりを決めようとした刹那、巨人の身体が衝突音と共に直角斜めに飛ばされた。
ど~~~んっと、音が空に響いていた。
「なんだっっ!!」
直角に飛ばされる刹那、身体に激しい衝撃がぶつかって来ていた。
その唐突な衝撃に弾かれたのだ。
再びポセイドンアドベンチャーが湖に墜落して水柱を上げた。
本日二回目だ。
「ぷはっ、何事だ!?」
ポセイドンアドベンチャーが水中から跳ね起きると、水面から顔を出したレッドヘルムが周囲を確認する。
状況が把握出来ない。
何に弾かれたか理解出来なかった。
「なあ、そこの赤頭。そのクジラを食べてもいいだろ?」
「女?」
それは若い女の声だった。
その声は城壁の上から聞こえて来た。
レッドヘルムとポセイドンアドベンチャーが同時に城壁の上を見る。
すると臍出しタンクトップにホットパンツ姿の女性が腕を組んで堂々と城壁の上に立っていた。
赤いショートヘアーの女性は凛々しくも自信に溢れた表情でこちらを睨んでいる。
「誰だ、貴様は!?」
「この泉の主、ガルガンチュワだ!!」
「泉? ここは湖だろ?」
「私にしてみれば、狭い泉と同じだ!」
ガルガンチュワが城壁の上から真っ直ぐジャンプした。
まるで弾丸のような速度でポセイドンアドベンチャーに迫る。
「キィーーーーーク!!」
そして、飛び蹴りがマッコウクジラの頭を蹴り飛ばした。
突き刺さるような凄い衝撃がポセイドンアドベンチャーの頭を揺らす。
まるで何トンもある鉄球をぶつけられたような凄まじい衝撃だった。
視界が揺れて巨体が吹っ飛ぶ。
身軽な女性が繰り出した蹴りとは思えない衝撃だ。
ポセイドンアドベンチャーは仰け反りながら飛ばされて、水中に沈んでいた下半身まで露にして水面を飛んだ。
更に水面を巨漢が三度跳ねる。
そして、四度目に跳ねてから水に沈んだ。
方や、クジラ頭を蹴飛ばしたガルガンチュワは蹴りの勢いで城壁まで跳ね戻っていた。
元の場所に着地する。
「ぶっは!!!」
水面を跳ね上げクジラ巨人が身体を起こす。
信じられない攻撃力だった。
だが、これは現実だ。
それはレッドヘルムにも理解できた。
レッドヘルムは恨み深い口調だが冷静に問うた。
「改めて、聞き直そう。貴様は何者だ。人間ではないだろう!?」
人間ではあり得ないパワーだ。
ならば、人間では無いのだろう。
レッドヘルムの結論は、魔王城なのだから、化け物ぐらい居るだろう。
それが、出て来ただけだ。
そう考えていた。
現実、ハズレではない。
ガルガンチュワは傲慢に笑顔を浮かべながら答えた。
「死海の王、レジェンダリークラーケンのガルガンチュワだ!」
【つづく】
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