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第557話【ナマズのリリース】

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俺はボロ屋敷の三階からすべての部屋の扉を開けて回っていた。

だが、全てが狭い部屋ばかりで目的の部屋を見付けられないでいた。

「何故だ、何故に無いのだ……」

俺は三階の扉をすべて開けてすべての部屋を調べたが目的の部屋は見付からない。

俺は三階から下りて二階の部屋を急ぎ足で探した。

それでも目的の部屋が見付からないのだ。

不覚だった……。

俺は足元をモジモジさせながら焦りを露にする。

「も、もう我慢できない……」

ぼ、膀胱が爆発しそうだ……。

爆発の矢を間近に食らったせいか、膀胱が破裂しそうなのだ。

膀胱たけでない。

肛門も爆発しそうだった。

ダブルでピンチなのだ。

ある意味で誘爆寸前である。

だから俺は急いでトイレを探していたのだが、何故かトイレが見付からない。

三階にはトイレが無かった。

二階の部屋をすべて探したが、二階にもトイレが無かった。

俺は初めて知る。

この世界の屋敷では、二階や三階にはトイレが無いのだ。

思い出してみれば、確かにそうだ。

宿屋とかでも、場所によっては建物内にトイレが無い店も少なくなかった。

離れにトイレがあるパターンが多かった。

トイレットペーパーも無いしさ。

もしかして、この屋敷もトイレは外なのか!?

失敗したぜ……。

まさか冒険中に、トイレに行きたくなるなんて……。

しかも小便だけじゃあない……。

大便のほうもだ……。

更に言うなら、デカくて太そうな物が出口前で待機している。

朝に食べたナマズなのか?

これを暴発したら、パンツが重みで垂れ下がりそうな感じのナマズである。

兎に角、トイレを探さなければ……。

ナマズをリリースしなければ……。

「だ、ダメだ……」

もう限界だ。

ここでするか……。

廊下でリリースするか……。

いや、せめて空き部屋で……。


否、まだ堪えるんだ!

我慢して探すんだ!

楽園の有りかを!!

二階を探し終わった俺は一階に到着する。

そして、幾つ目かの扉でトイレを発見で来た。

「た、助かった……」

トイレは個室で洋風の腰掛けるタイプのトイレだった。

俺は直ぐ様にトイレに飛び込むとズボンとパンツを下ろして便器に腰を下ろす。

だが、ここで予想外の出来事が起きた。

「か、硬い……。硬くてデカくて、なかなか発射されないぞ。これは延べ棒サイズだ……、延べ棒サイズのナマズ野郎だ……」

畜生、なんてこったい……。

まさかこんなことになるなんて……。

俺は腹に力を込めて踏ん張ったが硬いナマズはなかなか解放されずに出口側で引っ掛かっていた。

ナマズならウナギのようにヌルヌルしろよって感じである。

実に腹正しいナマズであった。

そして、俺の額が脂汗でダラダラとなる。

すると、突然にも俺か入っている個室の扉を誰かがノックした。

「コンコン……」

「マジでか……」

冒険中に……。

他人のボロ屋敷内で……。

鬼が徘徊しているボロ屋敷内で……。

大便に苦しめられている最中に……。

何者かに扉をノックされる……。

こんなに怖いことは無いだろう。

俺は大便が出ないで流していた脂汗とは別の脂汗を追加で流しだした。

ガマの油じゃあなくってナマズの油だ。

怖い……。

誰だよ、トイレをノックしたのは……。

仕方ないので俺は外の人物に返答する。

「は、入ってます……」

これで誤魔化せるか?

しかし、外からは返答は無い。

静かだ。

その静かさが怖かった。

やがてしばらくすると、再び扉がノックされた。

「コンコンコン、コンコンコン……」

ノックが六回……。

回数が増えている。

どうしよう……。

まだ俺のナマズは出口前で引っ掛かっていて、開通する目処は立っていない。

俺の心は更に焦りだす。

「コンコンコン、コンコンコン、コンコンコン……」

更に更にとノックの回数が増えて行く。

段々と外の様子も世話しなくなっていた。

誰だ!?

誰なんだ!?

鬼か!?

ギレンか!?

鬼なら、何故に扉を力任せに打ち破って突入して来ない。

ギレンなら、不法侵入者を咎めないのだ。

外でノックしているのは、いったい誰なんだ!?

怖いよ!!

逆に怖いよ!!

俺が恐れながらも踏んばっていると、扉の向こうから消え去りそうな声が聞こえて来る。

「は、早く出て来て……」

女性の声だった。

若い女性だ。

聞き覚えが有るようで無いような声だった。

誰だよ、こんなところでトイレを所望する女性ってよ!!

誰、オバケなの!?

まだ昼間だよ!?

「け、今朝食べた陸の生牡蠣がヒットしたの……。もう、お尻が爆発すんぜんなのよ。だから早く出てきて……」

陸の生牡蠣?

もしかして……。

もしも俺の予想が正しくっても、今は俺もトイレから出ていけない。

何せ俺も不発弾扱いのナマズを抱えて苦しんでいる最中なのだから。

あっ、出そうだ。

ああっ、出る!

産まれる!

でも硬い!!

お尻の穴が裂けそうだ!!

いや、裂けながら出て来るぞ!!

ナーマーズーがー!!

うおおおっ!!!

………………。

…………。

ふぅ………。

任務完了だ。

無事にナマズを出産出来たぞ。

さて、出るか──。

あれ、扉が開かない?

すると扉の向こうから啜り泣く彼女の声が聞こえて来た。

「終わりだわ……。私の輝かしい人生も終わりだわ……。も、漏らすなんて……」

臭い!!

これは後ろのダムが不運にも決壊して、大量の汚ならしい土砂を放出した感じの悪臭が漂って来ていた。

こいつ、漏らしやがった。

漏らしやがったぞ!

しかもビックなほうを!!

「貴方はしばらく出て来ないで、そこで待っててね!! 今、後始末するから!!」

何処にどう始末するのだろう。

だが、俺はしばらく待った。

そして、しばらくするとトイレの扉が外から開けられた。

そこにはガルマルのキシリアお嬢様が立っていた。

デブい彼女は悲しそうな表情をしている。

その手には、茶色い染みがこびりついた布袋を持っていた。

その布袋から臭って来る。

「す、すみません……。そこに捨てさせてくださいな……」

「はい、どうぞ……」

俺がトイレから出ると、キシリアお嬢様が代わりにトイレに入った。

手にある危険物を始末する。

ところで、このデラックスなお嬢様は、ここで何をしているのだろう?

それが大きな疑問だわ?


【つづく】
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