上 下
550 / 604

第549話【一発逆転】

しおりを挟む
巨鬼が場外まで追って来る。

ステージを降りて観客席に立つ俺に近寄って来た。

胸には怪しい御札が揺らいでいるが、マジックイレイザーですら燃えなかったようだ。

「一撃で、決めてやるぅうぅうううう!!!」

拳に生えた八本の角。

額に生えた一角。

鋭い白眼で俺を睨みながら巨鬼は爪先でステップを刻んでいた。

背筋を伸ばした体は横斜めの角度。

左肩が前で右肩が後方。

脇を閉めた右手は顔の脇に寄せている。

肩が前に有る左腕は下に垂らしながらも肘をL字に曲げていた。

ボクシングスタイル、サイドワインダーの構えだ。

主に距離を保って戦うアウトボクサーが取る戦術的な構えである。

「らしくねぇな~」

そう、らしくない。

今までのジオンググは防御を捨てた威力一辺倒の一撃必殺のスタイルだ。

なのに、今見せているスタイルは格闘技らしい戦術的な構えである。

しかも、攻撃よりも防御を優先した構えだ。

だから、らしくない。

鬼になってまで戦っているのに、ここで自分の信念を曲げるのだろうか?

普通は無意識でも曲げないだろう。

ならば、何かを策している。

全力の一撃をヒットさせるために何かを企んでいるはずだ。

もしも一撃必殺を狙ってなくても、あんな角が生えた拳で殴られたら穴だらけになってまうがな……。

「一撃、次の一撃で決めてやるぅううぅうぅううう!!」

こいつ、こればかりだな。

だが、次の一撃はキツそうだ。

あんな角付きパンチは食らえないぞ。

「行くぅうう!!」

巨鬼が前に出た。

一歩のステップからの左フリッカージャブだ。

長く延びた瞬速のパンチが俺の眼前に迫る。

そして、四本の角が俺の眼前で空振る。

否、当てる気が無いジャブだ。

だから俺は微動たりとも動かず対処した。

本命の一撃は次に来るはずだ。

「ぐぉぉおおおおおう!!!」

右拳の全力なストレートパンチが俺の顔面を狙う。

今までの中で最大の速度を有して最高の気迫が籠っていた。

あのパンチを食らったら角で串刺しどころか頭が木っ端微塵になるほどの破壊力が有りそうだ。

食らえない。

間違っても受けられない。

「そらっ!!」

俺は頭を屈めて回避すると同時に左肘を振るった。

鉄腕のエルボーで巨鬼のストレートパンチを打ち殴る。

しかもピンポイント中のピンポイントで肘の角を振るった。

巨鬼の角を避けて、更には精密に拳の小指だけを狙う。

ガンっと音が轟いた。

その音の後にボギっと鈍い粉砕音が響いた。

肘の角で、小指を折り砕いたのだ。

腕の中でも一番硬い骨の部位と、腕の中でも一番脆い骨の部位の激突である。

更には俺の左腕は女神から貰った鉄腕だ。

勝つのは当然ながら俺のほうである。

結果、鬼の小指が歪に曲がっていた。

更に俺は巨鬼がストレートパンチを痛みで引くよりも速く次の行動を取る。

ストレートパンチに伸ばした腕の肘裏にショート黄金剣を添えると、ロング黄金剣で内側から手首を強打した。

「ぐきゃっああああ!!!」

ボギリと音を鳴らして巨鬼の右腕が肘から折れた。

梃子の原理を利用した打撃だ。

幾ら刃物が通らないほどの硬い皮膚でも骨間接までは限度が有るだろう。

「うがぁぁぁ……!!」

巨鬼が呻きながらジャンプで下がった。

ステージ上に戻る。

「逃がすかっ!!」

俺もステージに駆け上がった、

そして、曲がった左腕を押さえている巨鬼に迫った。

「そらっ!!」

俺の掬い蹴りが巨鬼の股間を蹴り上げる。

「あがぁ、がっ、がぁ……」

タマタマを蹴られた巨鬼が苦痛に口を開けて身を屈めた。

「うらっ!!」

俺は巨鬼の喉を狙って黄金剣を横に振るう。

黄金剣が巨鬼の喉仏を叩いたが、刃は通らない。

だが、打撃として有能だったようだ。

「ごはっ!!」

巨鬼は喉を押さえて更に背を丸める。

「ふっ!!」

そして俺は巨鬼の横に回り込むと、二本の黄金剣を並べて巨鬼のアキレス腱を振り殴る。

「がっ!?」

その二つ振りで片足を跳ねられた巨鬼の下半身が飛び上がった。

そして、後頭部からステージに落ちる。

一人バッグドロップ状態だ。

「これで、終わりだ!!」

俺は両足を揃えてジャンプした。

跳躍からの両踵落としを巨鬼の顔面に慣行する。

要するに全体重を乗せたフットスタンプを巨鬼の頭に踏み落としたのだ。

俺に顔面を踏まれた音と、後頭部を岩のステージに激突させた音が連続で響く。

「もう一丁!!」

更にジャンプした俺は二発目のフットスタンプで巨鬼の頭を踏みつけた。

その一押しで巨鬼の頭が5センチほど岩にめり込んだ。

「決まったかな?」

巨鬼は痙攣しているが、動かない。

気絶したかな。

「よし、勝ったようだな」

巨鬼の顔面の上で俺が額の汗を拭った瞬間だった。

巨鬼が動いて俺の片足を掴んだのだ。

「マジかっ!!」

「がるっ!!」

「うそ、まだ動けるの!!」

巨鬼が俺の脚を引っ張った。

「うわうわうわわわっ!!」

巨鬼は俺の身体を顔面からどかすと立ち上がる。

俺も逆さ釣りで持ち上げられていた。

「うそ、これはヤバクねぇ!!」

「うがぁぁああああ!!!」

巨鬼が片腕で俺の身体を振りかぶる。

頭の高さまで上げると、更に背中の方向まで振り下げた

俺は逆さまになりながら戦慄に恐怖した。

脳裏に浮かぶイメージは、テニスのサーブ、バトミントンのスマッシュ、ベースボールのピッチングフォームなどのフルスイング。

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!」

刹那、俺の身体が弧を描いて振り上げられた。

巨鬼の背後から上り、頂点から前方に下る。

しかも、全力の超スピードでだ。

そして、叩きつけられた。

岩の床に背中から全身を叩きつけられる。

瞬間、全身に重さを強く感じた。

掴まれた足がモゲそうだった。

内臓が揺れた。

肺から空気が全部出て行った。

頭を打って景色が歪む。

身体がワンバウンドしてから全身に激痛が走った。

超痛い!!!

これが、叩きつけられる衝撃なのかよ!!

やぁ~~~べぇ~~~……。

身体が動かない……。

視界も歪んでドロドロだ。

景色が認識できないぞ……。

耳鳴りが五月蝿いし……。

まさに一発逆転状態じゃんか……。

何かが迫ってくる。

目が回って良く分からない。

たぶん巨鬼の手だな。

俺の頭を鷲掴みにする気だろう。

「アスラ~ン、困ってるか~?」

えっ、誰!?

女の子の声だ。

この声はガイアか?

「何だったら、助けてやろうか~?」

俺は倒れながら声が聞こえたほうを見た。

視界はグチャグチャだが、観客席にガイアとメタルキャリア、それにパンダゴーレムが立っているだろう歪んだ光景が見えた。

俺は倒れながら言った。

「すまん、助けて貰えるか?」

「Ok~」

ガイアは気軽に了承してくれた。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...