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第512話【盗賊ギルドの掟】
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「なあ、天秤──」
バーツは冷めた表情でミーちゃんに話し掛ける。
ミーちゃんは片膝を撃ち抜かれてしゃがみ込んでいた。
「お前も盗賊ギルドのメンバーならば、掟ってもんを心得ているよな」
「ガルルルルルルルル……」
喉を唸らせるばかりのライカンスロープが拳銃の銃口を向けるバーツを睨み付けていた。
撃ち抜かれた片膝は回復していない。
銀の弾丸──。
それが自動回復を妨げているようだった。
バーツが胸を張りながら両腕を広げて凛々しく語る。
「この町の裏社会を仕切っているのは親父だ。だからよ、親父の言葉は絶対なんだぜ。盗むも、奪うも、殺すも、犯すも、すべてが親父の意思で決まる。親父の許可無しには裏社会で生きていけない。それが掟で、それが盗賊ギルドのルールだ」
ドンッ!!
発砲。
バーツが二発目を発泡してミーちゃんの左膝を撃ち抜いた。
撃たれたワータイガーが前のめりにダウンする。
両足の膝関節を撃ち抜かれたんだ。
もう動けないだろう。
しかし、ミーちゃんは虎の表情を唸らせて立ち上がろうと両足を踏ん張っていた。
だが、勿論ながら立てやしない。
両手をついて腕立て伏せのように踏ん張るばかりだ。
「ほら、見てみろ」
バーツは手に在る拳銃の銃口を、町の四方に向けて、騒がしくなった町並みを刺して回った。
爆発されて煙を立てている診療所。
ミミズのような触手がはみ出たメタルドラゴン。
騒がしい野次馬たち。
「俺たち盗賊ギルドのメンバーは、闇に紛れて闇で働くのに、今回は、こんなに目立っちまっていやがる。これ、どうすんの?」
ドンッ!!
三発目の発砲。
その弾丸がミーちゃんの右肘を撃ち抜いた。
ワータイガーの姿勢が大きく崩れた。
頬を地面につけている。
「この落とし前は、高いぜ。楽に殺さねえよ。ケジメだからな」
ドンッ!!
四発目の発砲。
今度の発砲で左肩を撃ち抜いた。
これで四身が利かなくなったわけだ。
だが、ワータイガーは牙を剥いて威嚇だけは絶やさない。
「さて、あと一発残ってる。頭を撃ち抜いてやろうか。それとも心臓を撃ち抜いてやろうか。どっちがいい?」
「ガル……ルルルルル……ルル……」
「あー、もう言葉は通じないんだっけ。済まんな。あんまり動物をイビってると、動物愛護団体からクレームが入るかも知れないから、頭を撃ち抜いて決着だ」
言った後にバーツが俺を見上げた。
「それで、構わないよな、アスランの旦那?」
はぁ~……。
この外道が……。
このタイミングで俺に訊くなよな。
しゃあねえな~。
「スバルちゃん、ちょっと俺、下に行ってくるわ」
「えっ……」
俺はスバルちゃんの腕を振り払うと二階の窓から軽快に飛び降りた。
そして、ダンッと音を鳴らして着地する。
しかし──。
「うぐ……」
せ、背中が痛い……。
傷口が開いた感じがしたぞ。
ブチって聴こえたもの……。
視線は振らないがポタポタと血が垂れて行くのが分かった。
「アスラン君!!!」
二階の窓から顔を突き出したスバルちゃんが叫んでいた。
それでも俺は平然とした不利を演じながら、這いつくばるミーちゃんの前に立つ。
野生のように唸るミーちゃんの前で背を向けて、拳銃を構えたバーツと向かい合う。
俺はバーツを睨み付けた。
すると薄ら笑いを浮かべたバーツが嘗めた口調で言った。
「どう言う訳ですかい、アスランの旦那?」
俺は流血から青く成り始めた表情を引き締めながら述べる。
「すまなんだ。これは事故だ!」
「事故?」
俺は親指を立てて診療所の二階窓を指差しながら言った。
「あれは、ガス爆発だ」
「ガス爆発?」
「そう、プロパンガスのメーターが古くなっててガスが気付かないうちに少しずつ漏れてたんだよ!」
「ガス漏れだと?」
「そう、ガス漏れだ!」
「冗談が近代的ですぜ」
「疑うな!!」
俺が声を張ると、階段を使って一階に駆け下りて来たスバルちゃんが診療所を飛び出して来た。
俺の元に駆け寄ろうとしていたが、俺は掌をスバルちゃんに向けて止めた。
「来るな、スバルちゃん!」
「でも、アスラン君。凄い血が!!」
ウソ~ん。
そんなに血が出てるの~……。
俺は視線をバーツの眼光から外さないように睨み付けているから自分の出血がどのくらいか見ている余裕がないんだよね。
てか、今出血している傷を見たら意識が飛んじゃうかもしれないから丁度良いかも……。
でも、早くことを纏めないと──。
「兎に角、これは全部事故だ。爆発も事故。たまたま見舞いに来ていたミーちゃんが爆発に巻き込まれて、ネックレスが外れてライカンスロープに変身しちゃっただけなんだよ!」
「なんでアスランの旦那を刺した女が、脱獄までして見舞いにくるんだよ?」
鋭いな……。
でも、バーツの野郎は分かってて訊いてるんだ。
だって口元が笑ってるもの。
俺を茶化してやがる。
「兎に角、ミーちゃんは何も悪くない。だから、殺すな!」
「分かったよ、アスランの旦那……」
分かってくれたようだ。
だが、バーツは拳銃を下げない。
「そいつの命は助けてやる。だが、そいつの身柄は俺たち盗賊ギルドが預かるぜ。何せ、あんたらに預けて置いても、また脱獄されかねないからな。こちらの牢獄で管理させてもらう」
「それは構わないが、でも、拷問とかすんなよ!」
「それが、あんたの望みなら聞いてやろうじゃあないか。ただし、こっちからも条件がある」
「なんだよ?」
あー、もー、早く言ってくれ……。
失血が酷くて、そろそろ倒れそうなんだよ。
もう、目が霞んできた……。
スバルちゃんの前だからって、格好つけすぎたよ……。
「魔王城街の裏社会は、一手に俺らが仕切らせてもらうぜ」
「OK……」
もー、そんなの最初っからOKなんだよ。
裏社会は裏社会で勝手にやりやがれってんだ。
俺らのような堅気が、気軽に口出しする世界じゃあないもんな。
だから、さっさとミーちゃんを連れて行って、牢獄にブチ込んでくれよ。
「サンキュー、アスランの旦那」
バーツは強面をウィンクさせると拳銃を下げた。
すると拳銃がクネクネと形を変えて行く。
拳銃が長い鎖に変わったのだ。
それは、銀の鎖だ。
太くて長い銀の鎖は、拳銃と比べて体積が明らかに違う。
これが、こいつのチート能力だ。
そして、バーツは自分の手の中を見ながら言った。
「銀で拘束か──」
それからバーツが後ろに控えていた子分に銀の鎖を投げながら指示する。
「おい、サジ、マジ。それで天秤を縛り上げろ」
「「へい、兄貴!!」」
銀のくさりを手に持ったサジとマジがワータイガーに駆け寄った。
そして背後から鎖でライカンスロープの首を締め上げる。
「ガルル……ルルル……ルルル……」
苦しむワータイガーが徐々に萎み始める。
巨漢が小さく成り始めた。
怪物が身に付けていた甲冑よりも小さな女性に戻って行った。
するとサジとマジが甲冑を振りほどくと全裸のミーちゃんを更に鎖で縛り上げる。
ミーちゃんは意識を失っていた。
苦痛の表情でグッタリしている。
その手足は拳銃で撃ち抜かれた弾痕がハッキリと残っていた。
まだ血がダラダラと流れている。
「スバルちゃん、ミーちゃんの止血をお願い……」
俺が疲れた表情で言うと、スバルちゃんは一度俺の元に駆け寄った。
そしてタオルを俺の傷口に当てる。
「後で縫合し直すからね!」
真剣な眼差しのスバルちゃんの顔は怖かった。
しかしスバルちゃんは俺の返答を聞かずにミーちゃんの元に駆け寄って行く。
何やらポーションの小瓶を取り出すとミーちゃんの傷口に塗っていた。
「ふぅ……」
まあ、こんなもんかな……。
やべぇ~……。
ああ、目が回る……。
俺はそのまま路上に倒れ込んだ。
貧血だわ……。
【おめでとうございます。レベル46に成りました!】
あら、レベルが上がっちゃったよ。
ミッションコンプリートのようだな。
まあ、いいや、兎に角、いまは寝よ……。
路上だけど構わないや。
今は、眠……い……。
【つづく】
バーツは冷めた表情でミーちゃんに話し掛ける。
ミーちゃんは片膝を撃ち抜かれてしゃがみ込んでいた。
「お前も盗賊ギルドのメンバーならば、掟ってもんを心得ているよな」
「ガルルルルルルルル……」
喉を唸らせるばかりのライカンスロープが拳銃の銃口を向けるバーツを睨み付けていた。
撃ち抜かれた片膝は回復していない。
銀の弾丸──。
それが自動回復を妨げているようだった。
バーツが胸を張りながら両腕を広げて凛々しく語る。
「この町の裏社会を仕切っているのは親父だ。だからよ、親父の言葉は絶対なんだぜ。盗むも、奪うも、殺すも、犯すも、すべてが親父の意思で決まる。親父の許可無しには裏社会で生きていけない。それが掟で、それが盗賊ギルドのルールだ」
ドンッ!!
発砲。
バーツが二発目を発泡してミーちゃんの左膝を撃ち抜いた。
撃たれたワータイガーが前のめりにダウンする。
両足の膝関節を撃ち抜かれたんだ。
もう動けないだろう。
しかし、ミーちゃんは虎の表情を唸らせて立ち上がろうと両足を踏ん張っていた。
だが、勿論ながら立てやしない。
両手をついて腕立て伏せのように踏ん張るばかりだ。
「ほら、見てみろ」
バーツは手に在る拳銃の銃口を、町の四方に向けて、騒がしくなった町並みを刺して回った。
爆発されて煙を立てている診療所。
ミミズのような触手がはみ出たメタルドラゴン。
騒がしい野次馬たち。
「俺たち盗賊ギルドのメンバーは、闇に紛れて闇で働くのに、今回は、こんなに目立っちまっていやがる。これ、どうすんの?」
ドンッ!!
三発目の発砲。
その弾丸がミーちゃんの右肘を撃ち抜いた。
ワータイガーの姿勢が大きく崩れた。
頬を地面につけている。
「この落とし前は、高いぜ。楽に殺さねえよ。ケジメだからな」
ドンッ!!
四発目の発砲。
今度の発砲で左肩を撃ち抜いた。
これで四身が利かなくなったわけだ。
だが、ワータイガーは牙を剥いて威嚇だけは絶やさない。
「さて、あと一発残ってる。頭を撃ち抜いてやろうか。それとも心臓を撃ち抜いてやろうか。どっちがいい?」
「ガル……ルルルルル……ルル……」
「あー、もう言葉は通じないんだっけ。済まんな。あんまり動物をイビってると、動物愛護団体からクレームが入るかも知れないから、頭を撃ち抜いて決着だ」
言った後にバーツが俺を見上げた。
「それで、構わないよな、アスランの旦那?」
はぁ~……。
この外道が……。
このタイミングで俺に訊くなよな。
しゃあねえな~。
「スバルちゃん、ちょっと俺、下に行ってくるわ」
「えっ……」
俺はスバルちゃんの腕を振り払うと二階の窓から軽快に飛び降りた。
そして、ダンッと音を鳴らして着地する。
しかし──。
「うぐ……」
せ、背中が痛い……。
傷口が開いた感じがしたぞ。
ブチって聴こえたもの……。
視線は振らないがポタポタと血が垂れて行くのが分かった。
「アスラン君!!!」
二階の窓から顔を突き出したスバルちゃんが叫んでいた。
それでも俺は平然とした不利を演じながら、這いつくばるミーちゃんの前に立つ。
野生のように唸るミーちゃんの前で背を向けて、拳銃を構えたバーツと向かい合う。
俺はバーツを睨み付けた。
すると薄ら笑いを浮かべたバーツが嘗めた口調で言った。
「どう言う訳ですかい、アスランの旦那?」
俺は流血から青く成り始めた表情を引き締めながら述べる。
「すまなんだ。これは事故だ!」
「事故?」
俺は親指を立てて診療所の二階窓を指差しながら言った。
「あれは、ガス爆発だ」
「ガス爆発?」
「そう、プロパンガスのメーターが古くなっててガスが気付かないうちに少しずつ漏れてたんだよ!」
「ガス漏れだと?」
「そう、ガス漏れだ!」
「冗談が近代的ですぜ」
「疑うな!!」
俺が声を張ると、階段を使って一階に駆け下りて来たスバルちゃんが診療所を飛び出して来た。
俺の元に駆け寄ろうとしていたが、俺は掌をスバルちゃんに向けて止めた。
「来るな、スバルちゃん!」
「でも、アスラン君。凄い血が!!」
ウソ~ん。
そんなに血が出てるの~……。
俺は視線をバーツの眼光から外さないように睨み付けているから自分の出血がどのくらいか見ている余裕がないんだよね。
てか、今出血している傷を見たら意識が飛んじゃうかもしれないから丁度良いかも……。
でも、早くことを纏めないと──。
「兎に角、これは全部事故だ。爆発も事故。たまたま見舞いに来ていたミーちゃんが爆発に巻き込まれて、ネックレスが外れてライカンスロープに変身しちゃっただけなんだよ!」
「なんでアスランの旦那を刺した女が、脱獄までして見舞いにくるんだよ?」
鋭いな……。
でも、バーツの野郎は分かってて訊いてるんだ。
だって口元が笑ってるもの。
俺を茶化してやがる。
「兎に角、ミーちゃんは何も悪くない。だから、殺すな!」
「分かったよ、アスランの旦那……」
分かってくれたようだ。
だが、バーツは拳銃を下げない。
「そいつの命は助けてやる。だが、そいつの身柄は俺たち盗賊ギルドが預かるぜ。何せ、あんたらに預けて置いても、また脱獄されかねないからな。こちらの牢獄で管理させてもらう」
「それは構わないが、でも、拷問とかすんなよ!」
「それが、あんたの望みなら聞いてやろうじゃあないか。ただし、こっちからも条件がある」
「なんだよ?」
あー、もー、早く言ってくれ……。
失血が酷くて、そろそろ倒れそうなんだよ。
もう、目が霞んできた……。
スバルちゃんの前だからって、格好つけすぎたよ……。
「魔王城街の裏社会は、一手に俺らが仕切らせてもらうぜ」
「OK……」
もー、そんなの最初っからOKなんだよ。
裏社会は裏社会で勝手にやりやがれってんだ。
俺らのような堅気が、気軽に口出しする世界じゃあないもんな。
だから、さっさとミーちゃんを連れて行って、牢獄にブチ込んでくれよ。
「サンキュー、アスランの旦那」
バーツは強面をウィンクさせると拳銃を下げた。
すると拳銃がクネクネと形を変えて行く。
拳銃が長い鎖に変わったのだ。
それは、銀の鎖だ。
太くて長い銀の鎖は、拳銃と比べて体積が明らかに違う。
これが、こいつのチート能力だ。
そして、バーツは自分の手の中を見ながら言った。
「銀で拘束か──」
それからバーツが後ろに控えていた子分に銀の鎖を投げながら指示する。
「おい、サジ、マジ。それで天秤を縛り上げろ」
「「へい、兄貴!!」」
銀のくさりを手に持ったサジとマジがワータイガーに駆け寄った。
そして背後から鎖でライカンスロープの首を締め上げる。
「ガルル……ルルル……ルルル……」
苦しむワータイガーが徐々に萎み始める。
巨漢が小さく成り始めた。
怪物が身に付けていた甲冑よりも小さな女性に戻って行った。
するとサジとマジが甲冑を振りほどくと全裸のミーちゃんを更に鎖で縛り上げる。
ミーちゃんは意識を失っていた。
苦痛の表情でグッタリしている。
その手足は拳銃で撃ち抜かれた弾痕がハッキリと残っていた。
まだ血がダラダラと流れている。
「スバルちゃん、ミーちゃんの止血をお願い……」
俺が疲れた表情で言うと、スバルちゃんは一度俺の元に駆け寄った。
そしてタオルを俺の傷口に当てる。
「後で縫合し直すからね!」
真剣な眼差しのスバルちゃんの顔は怖かった。
しかしスバルちゃんは俺の返答を聞かずにミーちゃんの元に駆け寄って行く。
何やらポーションの小瓶を取り出すとミーちゃんの傷口に塗っていた。
「ふぅ……」
まあ、こんなもんかな……。
やべぇ~……。
ああ、目が回る……。
俺はそのまま路上に倒れ込んだ。
貧血だわ……。
【おめでとうございます。レベル46に成りました!】
あら、レベルが上がっちゃったよ。
ミッションコンプリートのようだな。
まあ、いいや、兎に角、いまは寝よ……。
路上だけど構わないや。
今は、眠……い……。
【つづく】
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