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第489話【テイアーの研究室】

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俺はクローンのバイオ研究室をメチャクチャに破壊してから先を目指した。

兎に角、ハンマーやら何やらを使ってメチャクチャに破壊したから研究設備の復元は二度と無理だろうさ。

残っていた書類やらレポートも全部燃やしてやったぜ。

これだけ徹底的に破壊したのならば、復元出来ても時間や資金が相当掛かるだろう。

正直、新しく作り直したほうが早くて安上がりだろうさ。

それと、残っていた試験管ベイビーたちには悪いが、産まれる前から死んでもらうしかなかろうて……。

そもそも俺のクローンを何体も何体も作られてたまるかってんだ。

テイアーが元に戻ったら、兎に角抗議せにゃあならんだろう。

マジで猛抗議だぜ。

それにしても、やっとだ。

やっとだが、なんとなく見覚えがあるような景色が見え始めた。

大きな通路の突き当たりに巨大な鉄扉が見えて来る。

7メートルほどの観音扉には鮮やかなドラゴン柄の装飾が施されていた。

スゲー豪華絢爛な扉である。

以前ここに来たさいには、この奥にテイアーの身体だけが眠っていたのだ。

「確か、隅っこに小さな扉が有ったよな~。あったあった~」

7メートルある鉄扉の隅に人間用の扉がある。

俺はそこから中に入って行った。

「鍵が掛かってないぞ。無用心だな。これじゃあ泥棒が侵入しても文句は言えないぞ」

俺が扉を潜ると巨大な室内には金銀黄金のベッドが広がっていた。

テイアーの本体であるドラゴンがベッド代わりに使っていた財宝の山だ。

金貨銀貨に黄金の財宝が山積みだ。

今ここに持ち主のテイアーは居ない。

もしかしたら、これって大チャンスじゃね?

超チャンスだよね!!

ドラゴンの財宝が盗み放題のガメ放題だよね!!

俺は何の迷いも無く財宝にスチャスチャと歩み寄った。

そして、財宝の山に手を伸ばした。

「んん……?」

だが俺は、財宝に触れる刹那に動きを止める。

財宝の中から気配を感じ取ったからだ。

「なんだ?」

財宝の中に埋もれて何かが居るのか?

──って、ことはガーディアンかな?

俺は手を伸ばした姿勢で動きを止めて、周囲を良く観察した。

チャリ……。

僅かに音が聞こえたぞ。

金貨と金貨が擦れた音だ。

やはり黄金の中に何かが潜んでいる。

「危ねえ、危ねえ……」

相手はドラゴンのテイアーだ。

防犯装置も今までの奴らとは桁が違うだろう。

何が黄金の中に潜んで居るか分からないが、ヤバイレベルのガーディアンと一悶着起こす理由はなかろう。

仕方無い。

テイアーの財宝は勿体無いが、手を出すのは危険だな。

しゃあ無いか、諦めよう。

俺は素直に財宝の山を諦めて奥の部屋を目指した。

「確か、この辺が研究所だったような……」

俺が部屋の扉を開けると研究室を見つける。

壁の戸棚には瓶や試験管に入れられた薬品がズラズラっと並び、テーブルの上には書物が山積みに鳴っている。

暖炉に掛けられた大きな釜戸には白骨した牛の頭部が頭を出していた。

なんとも禍々しい部屋だな。

魔力もプンプン感じられる。

「この部屋は、前に来た時に覗いているぞ。確かこの部屋に件の薬品があるはずなんだけれど……」

前に来た時には気が付かなかったが、あちらこちらから視線を感じる。

積み重ねられた書物の後ろから、戸棚に並んだ瓶の後ろから、暖炉に掛けられた大鍋の後ろから……。

複数の視線だ。

やはり何かが潜んでやがる。

黄金の間だけじゃあない。

俺の目に見えていない何かがいるぞ……。

こいつらがテイアーの留守を守るガーディアンだとするならば、俺が件のポーションを手にしただけで襲い掛かって来るんじゃあないか?

そうなるとヤバイよな。

ならば、無駄かも知れないが交渉するしかないかな。

まあ、試すだけ試してみるか。

俺は研究室の中央に立ったまま、誰に語り掛けるわけでもない口調で話し出した。

「俺の名前はソロ冒険者のアスランだ。このエリアのマスターであるドラゴンのテイアーの知人で友達である」

カサッ……。

カサカサ……。

僅かだが反応があった。

「お前らも主のテイアーがダンジョンのこの部屋に帰ってこないで心配しているだろうが、彼女は現在トラブルに巻き込まれて地上の城に居る」

カサカサカサッ……。

動きが速くなったぞ。

確実に反応しているな。

「彼女は自分で作った若返りのポーションを飲んで若返りすぎたんだ。そして身体も記憶も子供に戻っちまってね。だから俺は依頼されてここに、時間を戻すポーションを取りに来たんだ」

カサカサ……、カサカサ……。

複数居るのか?

しかも一体二体じゃあ無さそうだ。

五体から六体は居るぞ。

否──。

もっと居るのかな。

だが、どこに?

物陰?

壁の中?

異次元に潜んで居やがるのかな?

仕掛けは分からないが、居るのは間違いない。

問題は、俺の言葉が通じているかだよな。

知能が無かったり、防犯の使命だけに忠実だったらどうしよう。

「まあ、兎に角だ。俺はテイアーの依頼で、時間を戻すポーションが必要なんだ。それだけ持って行くからな……」

俺は戸棚の前に立つと薬品が入った瓶の群れを眺めた。

瓶の数は複数。

その数は百は有りそうだ。

その瓶の中には、様々な色の薬品が入っている。

赤、青、黄色、緑、紫、桃色、土留色──。

色鮮やかを超えている。

「あれ………」

俺は瓶の群れを眺めながら首を傾げた。

「そう言えば……。時間を戻すポーションって、何色のポーションだったっけ……」

忘れた……。

完全に忘れたぞ。

閉鎖ダンジョンに再チャレンジしてから、スゲーいろいろと有ったから、完全に忘れてもうたわい……。

確か赤いポーションか、青いポーションだったよな……。

でも、どっちだったかな?

赤いポーションが若返りのポーションで、青いポーションが時間を戻すポーションだったっけな?

あれれ、逆だったっけな……。

赤いポーションが時間を戻すポーションで、青いポーションが若返りのポーションだったっけ?

てかよ……。

棚を見てみれば、赤いポーションも青いポーションも沢山あるじゃあねえかよ……。

分かりやすいようにラベルとか貼ってないのかな?

畜生、貼ってねーわー……。

あれ、この小瓶にはラベルが貼ってあるぞ。

しかもタイトルは人間語じゃあねえか。

なになに──。

【惚れ薬】

マジか!?

下に説明文が付いているぞ。

【使用方法。この薬品を一滴ほどお酒に混ぜて相手を眠らせたあとに、その人物が目覚めてから初めて見た異性を結婚したくなる程度に好きにさせるポーションである】

なに、これ?

完璧な惚れ薬じゃね!?

なんか好きを通り越して、超愛し過ぎで相手を溺愛殺ししそうなぐらいの惚れ薬じゃあないしさ。

これ、欲しいな……。

これが有ったらハーレムなんてチョロく完成しませんか。

あたっ……。

あたったっ……。

まだ女性に惚れ薬を飲ませてエロイことを企んでもいないのに心臓が痛み出したぞ……。

せめてもう少し煩悩に浸ってから発動しろよな、呪いの糞野郎……。

カサカサ……。

おっと、ついつい我を忘れてしまったぞ。

イカンイカン。

そんなことよりも時間を戻すポーションだよ。

どれだ?

そもそも、赤だったっけな、青だったっけな?

あー、もー、忘れたよ。

俺は適当に瓶を摘まみ上げた。

赤いポーションが入った中瓶である。

これかな……。

どうせ一回戻って、なに色の薬かをもう一度訊いて来るなら、試しに一つぐらい持って帰ろうかな。

それなら、惚れ薬を……。

カサカサ、カサカサ……。

あー、これも泥棒と判断されちゃうのかな?

こりゃあ困ったぞ……。

俺は小声で呟いた。

「畜生、どれが時間を戻すポーションかが分からねえ……」

すると、戸棚の小瓶が一つカタカタと揺れた。

「えっ、これなの?」

俺が言うと、今一度カタカタと小瓶が揺れる。

俺はその小瓶を摘まみ上げた。

小瓶の中には青い液体が入っている。

ドロっとした濃いめのインクのような青い液体だった。

「これが、時間を戻すポーションか?」

周りは静かでなんの反応も無い。

まあ。兎に角、助かったぜ。

ガーディアンたちに知能が有ってさ。

「じゃあ、これを貰って行くぜ。たぶん直ぐにテイアーも帰って来るだろうさ」

俺が踵を返して部屋を出ようとした時に気づいた。

部屋の入り口の側に置いてあった椅子の上には綺麗な白い包装紙に包まれた箱が置いてある。

それは純白過ぎて目立つ白い箱だった。

俺が部屋に入って来た時には無かった箱である。

その包装紙に包まれた箱の上にメモが置かれていた。

「メッセージなの?」

俺はメモを開いて中身を読んだ。

【テイアー様を宜しくお願いします。これは詰まらない物ですが、皆様でお召し上がりくださいませ。ガーディアン一同より】

なんて忠義に溢れたガーディアンたちだ。

土産まで持たせてくれるなんてさ。

ヒルダやプロ子たちも見習うべきだよな。


【つづく】
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