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第482話【悪臭の戦い】

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「ふんっ!!」

バトルアックスのクローンが力任せにリストレイントクロスの束縛を振り払う。

腕力でレジストしたのだ。

砕けた魔法がキラキラと舞いながら消えて行った。

「おっ、魔法を解除しやがったね」

「こんなくだらん魔法でいつまでも縛れると思うなよ!!」

まあ、いいさ──。

俺の反撃開始である。

全身から力を抜いて脱力。

膝から僅かに姿勢を崩す。

それはトロけるように滑らかに──。

そして、突如のダッシュ!!

「Go!!」

まず俺は、俺の左手を束縛しているショートスピアのクローンに切り掛かった。

「とりゃ!」

「くくっ!!」

瞬時の突進に、ロープのように柔軟なスピアを盾に俺の黄金剣をクローンが受け止める。

俺の振るった胴斬りを両手で持ったスピアで絡めるように防いで見せた。

「どうだっ!!」

「甘い甘いっ!!」

俺は絡め取られているゴールドショートソードを手放すと、チョキでクローンの眼を狙った。

「目潰し!!」

ズブリっ!!

うわ、気持ち悪い!!

だいぶ深く刺さっちゃったよ!!

「ギィァアアアアア!!!」

自分で目潰しを繰り出しといてなんだけど、人差し指と中指が第二関節ぐらいまで突き刺さっていたわん。

生暖かい……。

これは完全に失明だろう。

「フギャャヤアアア!!!」

眼を突かれたクローンが仰け反りながら後ろに転倒した。

そして、悲鳴を上げながらのたうち回る。

「「テメー!!」」

その光景を見ていた二体のクローンがヒステリックに怒声を揃えて攻撃して来た。

「本日二回目、マジックアイテム解放!!」

再び頭身を巨大化させるウォーハンマーでクローンが殴り掛かって来た。

またもや縦振り。

だが俺は素早く右前方にダッシュして前進すると巨大ハンマーの一撃を難無く回避する。

巨大ハンマーが石床を叩くと激しい震動と共に頭身が床にめり込んだ。

そこから──。

「ダッシュクラッシャー!!」

俺は僅か1メートルの距離を3メートルダッシュで縮める。

残り2メートルの距離を、体当たりでクローンの身体を押し飛ばしてやった。

そして、クローンが跳ね飛ぶ刹那にスキルの斬擊を繰り出した。

「のわぁわぁっ!!」

「斬っ!!」

俺の袈裟斬りが、体当たりに飛ぶクローンの左腕と胸を斬り裂いた。

肘から切断された腕が飛ぶと、切られた胸から鮮血が派手に舞う。

鎖骨を切り、肋骨を裂いた感触は、間違いなく肺を抉って、心臓まで刃が達していたたろう。

「がはっ……」

肺に入り込んだ鮮血を口から吐き散らかすクローンの身体が地面にゴロゴロと転がった。

「どうだっ!!」

瞬殺だ──。

本気を出した俺が、約1000文字弱の文章で二体のクローンを撃破する。

「畜生……」

後ろに数歩退いたバトルアックスのクローンが悔しそうに愚痴を溢した。

だが、闘志は衰えていない。

まだ、諦めていない表情だ。

一瞬で仲間二体を撃破されたのに、良い根性だぜ。

流石は俺のクローンなんだな。

諦めない心意気は感心するぜ。

そして、苦虫を噛み潰したような表情でバトルアックスのクローンが述べる。

「俺のマジックアイテムだけは使いたくなかったが、しゃあないか……」

えっ?

その戦斧の能力って、そんなにヤバイのか?

「マジックアイテム、能力解放!!」

両手で持ったバトルアックスを前に構えたクローンが全集中すると、斧の刀身が緑色に輝き出した。

それを見ていた小説家のクローンが慌て出す。

「そんな、アスオノさん。こんな狭い部屋でそれはないだろ!!」

「俺だって、出来れば使いたくないんだよ!!」

戦斧を輝かせながら構えるクローンが反論すると、小説家のクローンが扉に向かって走り出した。

逃げる気だな。

「とうっ!!」

俺は素早く腰からダガーを引き抜くと小説家のクローンに向かって投げ付けた。

「ギィアっ!!」

滑空したダガーが逃げ出そうとしたクローンの片足に刺さって転倒させる。

その直後だった。

突然ながら室内に悪臭が漂い始める。

「臭っ!!!」

俺は慌てて鼻を摘まんだ。

「臭いィィイイイ!!」

なんだ、この悪臭は!?

尋常じゃあねえぞ!!

マジで臭い!!

超臭い!!

臭すぎて全身が硬直してしまっている。

全身の毛穴が開いて汗がドッと湧き出た。

これは麻痺に近い悪臭だ。

鼻が曲がる!!

心が歪む!!

涙が出て来た!!

何も出来ないほどに身体能力を妨害してやがる。

「ぐっぐぐぐ………」

転倒している小説家のクローンが鼻と口を両手で押さえながらジタバタと悶えていた。

なんだ、この悪臭は!?

バトルアックスのクローンを見てみれば、片手をチョキにして、自分の鼻の穴に突っ込んでいる。

俺もそれを真似てチョキで二本の指を鼻の穴に突き刺す。

だが、それでも臭って来る。

眼が染みる。

口の中に臭い味まで広がって来た。

これはスバルちゃんの体臭よりも凄いぞ。

スバルちゃんが可愛く見えるぐらいの悪臭だ。

いや、激臭だ。

猛毒ガスだ。

ふと目潰しに沈んだクローンを見てみれば、口から泡を吹いて痙攣していた。

その痙攣も時期に収まる。

死んだんだ……。

激臭の臭さに生存を諦めるほどなんだ。

悪臭だけで死んでまう奴なんて初めて見たぞ。

「ぐふっ…………」

そんなこんなしている間に俺の膝が崩れて落ちた。

片膝立ちになってしまう。

全身に余計な力ばかり入って、バランスが保てないのだ。

どうやらマジックアイテムの能力を発動させているクローンのほうも同様のようだった。

表情を苦痛に歪めながら、激臭を放つバトルアックスを杖が割りにして、なんとか立っている。

「ぐぐぐぐぐっ…………」

「ぬぬぬぬぬっ…………」

完全に我慢比べだ。

どちらかが悪臭に耐えられるかの勝負と化していた。

それにしても……。

あまりの臭さに身体が思うように動かないのだ。

指先が痺れてきた。

足が痙攣する。

ヤバイ……。

ちょっと目が霞んできたぞ……。

胸が苦しい……。

呼吸が荒くなってきた。

いや、そもそも呼吸なんて出来ていない。

息を吸うのすら苦痛だ。

激痛だ。

肺が痛む。

敵のクローンはきっとこの能力に慣れているはすだろう。

だとするならば、俺のほうが不利なのか……。

うわぁ………。

力み過ぎて歯茎から血が出てきたぞ……。

鼻からも血が出て指をたどって肘から流れ落ちている。

小便もチビりそうだ……。

いやん……、ウンコも出そうだぞ……。

身体が力んで動かないのに、穴と言う穴が解放しそうだ。

あっ、新鮮な空気が僅かに入ってきた。

小説家のクローンが扉を開けて廊下に逃げ出したんだ。

ナイスだ!!

この新鮮な空気はありがたい!!

あーーーーー!!!

小説家の野郎、部屋を出た途端に扉を閉めやがったぞ、糞!!

折角の新鮮な空気が供給されないじゃあないか!!

「ぁぁ…………」

やべぇ……。

頭がクラクラしてきたぞ……。

意識が朦朧とし始めた。

もう限界が近い……。

「も、もう、ダメだ……」

言ったのはクローンのほうだった。

そのまま前のめりに倒れると、全身がドロドロと溶け始める。

肉体が溶けるほどの悪臭ってなんだよ!!!

マジで激臭だぞ!!

毒ガスじゃんか!!

科学兵器ですか!?

だが、クローンが死ぬことでバトルアックスの光が収まった。

悪臭が弱まる。

「畜生……。俺も外に出なくては……。溶けてまうぞ……」

俺は這いつくばりながら前進した。

匍匐前進したことで悪臭が少し揺るいだ。

どうやら戦斧から放たれた悪臭は、空気より軽いようだ。

それで少し呼吸が出来たのだ。

だが、まだ前進が痺れるほどの悪臭である。

悪臭で身体の自由が利かない。

俺は必死に這いつくばりながら扉を目指す。

そして、どうにか扉を開けて廊下に出た。

「ぷっはぁ~~~~、空気だっ!!」

新鮮な空気である。

生き返る。

息が戻る。

「たっ、助かった……」

こんなに呼吸が出きることに感謝したのは久しぶりのことだろう。

こんな酷い思いをしたのはスバルちゃんと出会った直後の定例儀式いらいである。

マジで空気に感謝である。

酸素って偉大だな。


【つづく】
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