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第479話【クローンの能力】

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俺は長い一本道の廊下を進んで歩いていた。

周りは石造りの壁だ。

床も天井も石造りである。

ここは湿っぽかった死海エリアと違って乾燥した空気が流れている。

それにしても──。

畜生、なんて日だ……。

まさか自分のクローンとご対面するとは思っても居なかったぜ。

しかも成長すると悪魔の姿に変貌しやがる。

前の部屋で遭遇した二体のクローンからして、他にもクローンは居そうだぞ。

おそらくダンジョンの奥に進めばクローンの巣に到着するだろう。

俺が歩いている石造りの床を見てみれば、溜まった埃の上を歩行した足跡が幾つも残されていた。

足跡の数は複数種類有る。

子供サイズから大人サイズと様々だ。

これは多分だが、繁殖しているな。

いや、クローンは男だけだろう。

だから繁殖での交配はないだろうさ。

先程出会ったクローンの反応からして女が居ないと思われる。

だからヒルダやプロ子を見ただけで、押し倒そうと飛び掛かったのだろうさ。

マジで飢えてたもんな。

ならば、繁殖では無く、クローンを製造して仲間を増やしているのかな?

まあ、少なくともこのエリアには俺のクローンが複数体巣くっているのは間違いないだろうさ。

あー、もー、ウザイな~。

なんでここまで来て自分のクローンを退治せにゃあならんのだ。

でも、あいつらは、ほっておけないよな。

もしもクローンどもが地上にでも出たら大変なことになりそうだ。

間違いなく町の女性に飛び掛かって、人前だろうと何だろうと問答無用で無理矢理にカクカクと腰を振りまくるのは間違いないだろうさ。

たぶん女性を見ただけで羞恥心なんて木っ端微塵に吹き飛んでしまうのだろう。

絶対に強姦罪で捕まるような恥さらしを繰り広げることだろうさ。

しかも万が一にそうなってから、あいつらがお縄について俺のクローンだとゲロったら大変だ。

それだけは避けなければならない最悪なストーリーだぞ。

そんな下品な方向に話が進む前にすべてのクローンを処分しなければなるまい。

地上に謝った誤解をばら撒くわけには行かないのだ。

今まで地道に積み上げてきた俺の名誉と誇りが傷付いてしまう。

テイアーが産み出した産物だが、俺自らがどうにかせにゃあならんだろうさ。

「殺すっ!」

俺は心に強い決意を抱きながら廊下を進んだ。

自分のクローンだろうが容赦はしないぞ。

慈悲も掛けてやらん。

詰まらない恥を晒すぐらいなら皆殺しにしてやるんだから!

「んん?」

扉だ。

木製の古い扉だ。

その扉の隙間から明かりが漏れ出ている。

扉の向こう側にクローンたちが居るのだろうか?

俺はランタンの明かりを絞ると、忍び足と気配消しを駆使して扉に近付いた。

そして聞き耳を立てる。

耳を当てた扉の向こうから声が聞こえてきた。

「なぁ~、アスノベ。新作は書けたか?」

「あー、もー、そんなに直ぐに書けるわけがないだろう!!」

「じゃあ早く書けよ~」

「昨日新作を更新したばかりだろ!!」

「もう皆で回し読みしちまったよ~。それに、アスエボが早く更新させろって五月蝿くってさ~」

「あの野郎、自分は小説を書いたことも無いくせに、勝手ばかりいいやがって!!」

んん、小説?

もしかしてクローンが小説を書いていやがるのか?

それよりも部屋の中には二体居るかな。

いや、三体かな。

小説を書いているクローンの他に、あと二匹のクローンが居るようだ。

間違いない、気配感知スキルで感じられるのは三体だ。

三体か──。

一人で行けるだろ。

幾ら俺のクローンとはいえ、ヒルダとプロ子が一撃で屠れる程度の実力だ。

俺との戦力差は歴然だろう。

よし、とっとと害虫駆除でも行おうかな。

俺はそっと扉を開けた。

隙間から室内を覗き込めば部屋の中央で、テーブルに肘を突いて小説を書いてる自分の姿があった。

額に角が生えているが、まだ堀まで深く変化していない。

俺に良く似た顔付きのクローンが全裸で小説を書いている。

まだ、完全に成長していないクローンなのだろう。

そのテーブルの横に一体のクローンが、こちらに翼の生えた背を向けて立っている。

あと一体のクローンは部屋の奥の椅子に腰を下ろしながら天井を眺めていた。

その脇に手槍が立て掛けてある。

武装もするんだな。

その二体は完全に悪魔化した姿である。

まだ誰も俺には気付いていないぞ。

ここは一気に部屋に飛び込んで、一瞬でテーブル側の二体を切り伏せるか──。

よし、この作戦で行こう。

そう企んだ俺は腰から黄金剣をゆっくりと静かに抜いた。

それから一気に部屋に飛び込んだ。

「うらっ!!」

扉を勢い良く開くと部屋に飛び込む。

いざ、テーブル前に駆け寄ろうとした刹那だった。

俺が通過した扉の陰に立っていた悪魔化クローンの二体が戦斧と戦鎚を振り下ろして来たのだ。

「えっ!?」

隠れてやがった!?

しかも気配を消してか!?

「りゃ!!」

「とりゃ!!」

「なんのっ!!」

俺は咄嗟に跳ね飛んで床の上を転がった。

俺の足元を戦斧と戦鎚が激しく叩く。

何とか回避に成功したぞ。

ちょっと危なかったわい。

俺は転がったあとに膝立ちで姿勢を正すと背後の二体を睨み付けた。

「気配消しスキルかっ!!」

俺が愚痴るとハンマーを背負った悪魔化クローンが述べる。

「気配消しだけじゃあないぜ。気配感知スキルでお前の存在は知っていた」

えっ、マジ?

こいつらスキルホルダーかよ。

「よっ、よっ、よっと」

小説を書いていたクローンともう一体がテーブルの端々を持って部屋の隅にテーブルを移動させて行く。

戦える広場を作っているようだ。

もう一体のクローンが手槍を構えながら言った。

「お前も新しいクローンだな。だが、まだ若い」

あー、俺の顔を見てクローンだと思ったのか。

あんな悪魔見たいな顔になる前は、こいつらも俺と同じ顔だったんだろう。

俺は部屋の中央で五体のクローンに囲まれていた。

部屋の広さは10メートル四方ってぐらいだろうかな。

天井は4メートルほどの高さだ。

それにしても最悪なポジショニングである。

囲まれちゃってるよ……。

バトルアックスを背負ったクローンが驚きながら言う。

「このクローンは凄いぞ。まだ変化が起きていないのに、全身マジックアイテムだらけだぞ!」

えっ、なに、こいつ!?

もしかして魔力感知スキルを持ってやがるのか!?

テーブルをずらし終わった悪魔化クローンが両手にメリケンサックを嵌めながら言う。

「このクローン。まだ成人前なのにスキルを何個か目覚めているんだ。しかもハクスラスキルが相当なレベルだぞ」

なんだって!?

マジかよ。

こいつらハクスラスキルまで知っていやがるのか!?

手槍を構えたクローンが俺に訊いてきた。

「なあ、さっきバイオ室に様子を窺いに行った二人のクローンはどうした?」

俺は正直に答えた。

「死んだよ」

「テメーが殺したのか!?」

殺気感知スキルにビビっと来た。

怒ってるのかな。

うん、怒ってるね。

戦斧のクローンが言う。

「って、ことは。こいつはもう既に二つ分の命を吸ってやがるのか……」

吸う?

どういうことだ?

ちょっと状況が分からなくなってきたぞ。

少し整理して考えるか──。

まず、こいつらは幾つかのスキルを有しているっぽい。

それは間違いないだろう。

それに持っている武器だ。

魔力感知スキルで見てみれば、青く輝いて見える。

あれは間違いなくマジックアイテムだ。

戦斧も戦鎚も手槍もメリケンサックもだ。

マジックアイテムの武器を持っていないのは、まだ若い作家のクローンだけである。

そして、何よりこいつらは、俺オリジナルのハクスラスキルの存在を知ってやがる。

これらから推測するからに、こいつらクローンは俺の使えるスキルを有してやがるぞ。

問題は、それが全部かだ。

俺が使えるスキルを全部有しているのかな?

いや、こいつらはクローンだ。

紛い物だ

粗悪品だ。

全部のスキルを有してないだろう。

おそらく一部一部を各自がバラバラで有している感じだろうさ。

こいつらは、オリジナルの俺より優れていない。

それは間違いないだろう。

たぶんだけれどね……。

ならば、五匹ぐらいなんとでもなるだろうさ。

余裕だ!

きっと余裕だよね!!

五体同時に戦っても勝てるはずだ!!


【つづく】
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