上 下
479 / 604

第478話【欲望の暴走】

しおりを挟む
ヒルダとプロ子が水槽の有る隣の部屋から戻って来た。

どうやらちゃんと赤ん坊をリリースして帰ってきたようだ。

それにしても、あの赤ん坊全員が俺のクローンだとは思わなかったぜ。

テイアーの野郎め。

本人の許可も取らずに他人のクローンを勝手に製造するとは酷い話である。

せめて許可ぐらい取れよな。

勿論ながら許可を求められても断るけれどさ。

クローンに著作権とかって無いのかな?

「ちっ、テイアーめ……」

俺は読んでいたレポートの本を机に放り投げた。

あのホムンクルスが俺のクローンだとヒルダやプロ子にバレたら面倒臭そうだ。

ここは一つ黙っておこう。

『アスラン様、お待たせいたしました』

「よし、じゃあ二人とも異次元宝物庫内に戻ってくれないか。俺は奥を探索してテイアーの研究室を目指すからさ」

俺は部屋の隅に有る木製の扉を指差しながら言った。

奥に進める通路だろう。

するとヒルダたちが返事を返す前に、その扉が唐突に開いたのだ。

そして、開いた扉から人型の誰かが会話をしながら入って来る。

「おい、本当に侵入者なのか?」

「ああ、テイアーママが残して行った魔法の防犯装置が作動したから間違いないだろうさ」

「また水槽から赤子が勝手に出たとかじゃあねえのか?」

「もお~、まったく面倒臭いな~」

それは二人だった。

扉の奥から出て来た二人は話に夢中で警戒していない。

侵入者の俺たちに気が付いていないのだ。

だが、俺たち三人は、そいつらの姿を見て少し驚いていた。

二人の人物は全裸である。

そして、額に二本の角を生やし、堀が深く、エラが角ばり、背中には蝙蝠の羽を持っていた。

肌は赤茶色で、矢印のような黒い尻尾を生やしている。

間違いないだろう。

俺のクローンが成長した姿だ。

しかも、それが二体も居る。

「えっ?」

「あっ?」

二人のクローンが部屋の中央に立つ俺たちに気が付いた。

両者共に僅かに固まる。

そして、沈黙が僅かに流れた後に、二人が俺たちに飛び掛かって来た。

「女だーーー!!!」

「テイアーママ以外に初めて見る女だーー!!!」

二人のクローンは目を血走らせながら飛び掛かって来た。

完全に理性が吹き飛んだ形相である。

角ばった口から長い舌と涎を垂らして、両手を前に突き出してワシャワシャと嫌らしく動かしていた。

「来るかっ!!」

俺が腰の剣に手を伸ばすとクローンたちは眼前のテーブルを踏台にしてジャンプした。

そして俺の頭の上を高々に越えると後ろに居たヒルダとプロ子に向かって飛び掛かって行った。

「「きょぇぇええええ!!!」」

『気持ち悪いですわ!!』

『どすこいっ!!』

「「ぎゃふん!!」」

瞬殺だった……。

ヒルダとプロ子に襲い掛かったクローンたちが瞬殺される。

二人とも一太刀である。

ヒルダは素早く背中からレイピアを抜き出すとクローンの頭を串刺しにした。

プロ子もスカートの中からバトルアックスを取り出すと、掬い上げるような一撃で、クローンの体を股間から頭へと切り裂いた。

「どわっ……」

ぐったりと倒れ込んだクローンたちはしばらく痙攣していたが、直ぐに動かなくなる。

死んじゃったようだ。

俺は呆然としながら二人のメイドたちに言った。

「な、何も殺さなくったって……」

背中にレイピアを戻しながらヒルダが答える。

『すみません、アスラン様。なんだか貞操の危機を強く感じましたゆえに』

隣でプロ子も真面目な眼差しで相槌を入れていた。

「そ、そんなにこいつらエロかった……?」

ヒルダが淡々と答える。

『はい、かなり煩悩の塊のような気配でした。むしろ煩悩のみで出来ているようにおぞましい表情でしたわ。もしも触られたら、それだけで妊娠してしまいそうなぐらいの気持ち悪さです。要するに女性全員の敵です』

「そんなに、気持ち悪いのですか……。しかも女性全体の敵かよ……」

俺のクローンなのに……。

『『はい!』』

二人が力強く頷く。

なんだよ、こいつら……。

さっきまで赤ん坊を欲しがっていたのに、俺のクローンに孕まされるのは嫌なのかよ……。

矛盾してないか.……。

「それにしても、こいつらはやっぱりあのクローンだよな……」

俺は壁に掛けられた進化図を眺めながら言葉を漏らした。

するとヒルダが分かりきったことを返す。

『間違いなく、あのクローンベイビーが成長した姿でありましょう』

『良かったですね、ヒルダちゃん。あんな変態な赤ん坊を育てなくってさ』

『まったくです、プロ子お姉さま』

『どんなに愛情を注いで育てても、絶対ろくな大人に育ちませんよ。間違いなく変態の屑に育ちますよ』

『わたくしもそう思いますは、プロ子お姉さま』

人のクローンを捕まえて言いたい放題だな……。

俺がグレそうだわ……。

「まあ、兎に角だ。二人は異次元宝物庫内に退却してくれ。あんなのに触られたぐらいで妊娠したくないだろう……」

『『畏まりました、アスラン様』』

二人がお辞儀をして踵を返した。

異次元宝物庫に入って行く。

しかし、その寸前でプロ子が振り返って言った。

『アスラン様も気を付けてくださいませ。さっきのクローンたちは飢えていましたから、もしかしたらアスラン様も襲うかも知れませんよ』

「襲うって……?」

『お尻を──』

いゃぁぁああああああ!!!

有り得る~~~!!!

あいつら女に飢えて飢えて飢えて、ヒルダとプロ子に襲い掛かったんだ。

相手が男でも鶏でも羊でも襲いかねないぞ!!

生きた穴ならなんでも良いかも知れないぞ!!

そのぐらい性欲がハングリーかも知れないな……。

怖いよ!!

「わ、分かった……。気を付けます……」

俺がお尻を押さえながら言うとプロ子は笑顔で異次元宝物庫内に消えて行った。

なんてこったい……。

今回は俺の貞操も守らなければならないのか……。

しかも自分のクローンから自分のお尻を防衛しないとならないなんて、馬鹿げた話である。

自分の初物を自分の分身に奪われるなんて有ってはならない事件だぞ。

そんなことが起きたら大事故だわい。

自爆敵な近親相姦だよ。

畜生、絶対にお尻を守り抜いてやる。

俺は意思を固めて二人のクローンが入って来た扉を潜った。

お尻を警戒しながら奥のエリアを目指す。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...