上 下
466 / 604

第465話【クラーケンの巣穴】

しおりを挟む
「おい、ゴラァ。寄り道せずに真っ直ぐクラーケンの住み処まで行くんだぞ!」

俺はノーチラス号の操縦桿を握るネモ船長の後ろに立つと、髑髏の首筋にダガーを添えながら脅すように言った。

「いや~、アスラン君……。何をそんなに苛立ってるんだい……?」

前方の三画面を凝視しながらネモ船長は髑髏の額に冷や汗を流していた。

「なんだ、お前は、この骸骨の中には脳味噌が入っていないのか?」

俺はネモ船長の軍帽を取り上げると髑髏の脳天をダガーでコンコンっと叩きながら言った。

空っぽの音が響く。

「そりゃあ苛立つだろうさ。騙されて男体盛りの皿として使用されたらよ、誰だってイライラするわな!」

「で、ですよね~……」

「しかも乳首を箸で長々と摘ままれたり、キャン玉を箸で何度も何度も持ち上げられれば、誰だってイラつきますよね!!」

「で、で、すよね~……」

「もしもテメエーに乳首とキャン玉が有ったら、マーマンやマーメイドたちの前で同じように身体全身に刺し身を盛り付けたあとに焚き火で丸焼きにしてから一週間ほど念入りに放置してやるのによ!!」

「放置プレイは、俺の専門外だわ~……」

「まあ、今回は許してやる。いい経験だったからな」

「癖になりそうかね?」

「なるか、ボケ!!」

俺は怒りに任せてダガーをネモ船長の脳天に突き刺した。

ガンっと音を鳴らしてダガーが脳天の骸骨を突き破りながら突き刺さる。

「いたーーー!!!」

「あっ、すまん……。ついつい刺しちゃった」

「ちょっと、何すんね。もしも俺がアンデッドじゃあなかったら、今ので死んでたぞ!!」

「まあ、これで許してやるから感謝しな」

「さっき許すって言ったんだから、それで許せよな!!」

「知るか、ボケ、変態、糞野郎」

「言いたい放題だな!!」

俺とネモ船長が喧嘩をしていると、スケルトンクルーの一人が言った。

「二人とも~。そろそろクラーケンの巣穴が見えてきましたよ~」

「なに、本当か?」

俺が三画面モニターを覗き込むと、巨大な岩山が逆さまに映り混んでいた。

天井から氷柱のように垂れ下がった岩山だ。

かなりデカイ規模である。

「あの氷柱のような岩がクラーケンの巣か?」

スケルトンクルーが指差しながら言う。

「上のほうを見てください。この辺です」

「あー、穴が有るな」

「これが巣穴ですわ~」

「ノーチラス号で入って行けないのか?」

「無理ですわ~。入って直ぐにカーブが有るんですがね。そこがノーチラス号だと曲がれないんですよね~」

「じゃあ、行けるところまで入って行ってくれないか」

「了解しやした、キャプテン」

ネモ船長がクルーを睨みながら突っ込む。

「キャプテンは俺だろ!!」

「すみません船長。でも、この際だからアスランさんとキャプテンを交代してはどうでしょうかね~」

「えっ、なんで!?」

「同じ変態ならば、強いほうがキャプテンに向いてませんか?」

「いやいやいや、それは違うだろ。このノーチラス号は、俺がアトランティス帝国から賜った船だぞ!!」

「いや~、そろそろ引退時期じゃあないでしょうかね?」

「えっ、なに、これってクーデターなの!?」

「おい、ちょっと待てよ。俺は潜水艦の船長なんてやらないぞ。海に縛られながら行きたくないからな」

「ほら、アスランもこう言ってるしさ。俺がキャプテンで我慢しないか!!」

「しょうがないですね……。じゃあネモ船長でもいいですよ」

俺はネモ船長の脳天からダガーを抜き取ると言った。

「良かったな、ネモ船長。クルーに見放されなくってよ」

「あ、ああ……」

なんだろう。

ネモ船長の骸骨な表情からは、何気に納得していないような不満気な色が見えた。

そんな沈んだネモ船長を無視してスケルトンクルーが言った。

「では、洞窟内に侵入しますぜ~」

「頼んだぜ、クルー!」

すると前方のライトを点灯させたノーチラス号が、ロースピードで洞窟に入っていった。

「結構広いな……」

洞窟の直径は30メートルは有りそうだ。

ネモ船長が奥の作りを説明し始める。

ノーチラス号がカーブを曲がれない理由を述べた。

「奥に進むほど洞窟は狭くなる。そして更にカーブだ。それでも軟体動物のクラーケンは優々と奥に進めるんだ」

「あー、なるほど。クラーケンは軟体か……」

タコは頭が通る隙間が有ればスッポリと狭い穴の中にも入って行けるって聞いたことがある。

だから岩場の陰などに居着くのだ。

「クラーケンもタコと一緒か……。でも、デカイんだろうな~」

俺のぼやきを聞いたネモ船長がクラーケンの体長を説明してくれた。

「泳いでいるときのクラーケンの全長は、30メートルから40メートルは有ったぞ」

「そんなにデカイのか……」

デカイデカイで有名だが、30から40メートルとは……。

俺、そんな怪物と一人で戦えるかな……。

「よし、到着だ。俺らが進めるのはここまでだぞ」

ノーチラス号が洞窟内で停止した。

「じゃあ、行って来るぜ。二時間ぐらいしても帰って来なかったら、俺が負けたと思って帰っていいぞ」

ネモ船長が腕を組ながら悩みだした。

そして悩んでみた結果を語る。

「二時間は長くないか。三十分ぐらいで良くね?」

「テメーやっぱり殺すぞ。新キャプテンは別のクルーに任せちまうぞ!!」

「ごめんなさい……」

「まあ、兎に角だ。行って来る」

俺はそう言うとコックピットを出て二重扉の部屋に入った。

内側の扉を閉めたあとにブーツを脱ぎ捨てる。

それから乙姫から貰った腕輪を足首に嵌めた。

手首には別の腕輪が付いているからだ。

足首には何も付けていなかったから丁度良さそうだった。

更にトライデントの先にマジックトーチの魔法を掛ける。

更に更にと魔法を連呼した。

「ジャイアントストレングス、ディフェンスアーマー、ディフェンスシールド、フォーカスアイ、カウンターマジック!」

よし、これでバフ魔法は良しだ。

準備を終えた俺は外側のハッチのバルブを回した。

すると海水が室内に流れ込んで来る。

直ぐに俺の身体は溜まり来る海水の中に沈んだ。

おお、本当だ。

海水の中でも呼吸が出きるぞ。

なんか肺の中に水が入ってきてるのに不思議だな。

ちょっと違和感が有るけど、直ぐに慣れるだろう。

俺は二重扉の部屋が海水に満たされるとハッチを開けて船外に泳ぎ出た。

そして船前に出て、コックピットから見ているだろうクルーたちに親指を立てる。

するとノーチラス号がウィンクするようにライトを点滅させた。

よし、行くか──。

俺はトライデントを翳しながら洞窟の奥を目指して泳ぎだした。

俺の記憶にあるスイミングスキルよりもスムーズに泳げていた。

これもトライデントの効果なのだろう。

それにしてもクラーケンと一騎討ちか~。

ちょっと無茶しすぎかな~。

まあ、何も作戦は無いけれど、正面から正々堂々と挑むまでだ。

できればクラーケンが寝ていてくれると助かるんだよな。

寝首を刈れればマジでラッキーだもん。

俺はそのような甘い期待を抱きながら洞窟の奥に向かって泳いで行った。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...