上 下
458 / 604

第457話【海中の奇襲】

しおりを挟む
俺はとりあえずだが、しばらくノーチラス号でお世話になることになった。

少なくとも安全な陸地まで運んでもらうためだ。

こんな死海のド真ん中で放置されたらたまらない。

そんな俺を変態ネモ船長は快く受け入れてくれた。

そして今俺は厨房に居る。

「いや~、新人さんなんて久しぶりだよ~」

俺と厨房に居るのはスケルトンなコックだった。

彼は50年ほど前に拾われて以来、ずっとノーチラス号内でコックとして働いているらしい。

俺とコックは暖炉の前に二人で並びながら魚を網で焼いていた。

魚は目が三つある怪魚だった。

死海の海で釣り上げた小魚だと述べていたが、その大きさは半メートルはある大物だ。

ここではこのサイズでも小魚扱いのようである。

俺はスケルトンコックに訊いてみた。

「この船に新人って、よく来るのかい?」

怪魚の焼き加減を眺めながらスケルトンコックが答えた。

「十年単位ぐらいで、何人か拾われるな~。私も百年ぐらい前に拾われた元冒険者なんだよね~」

「へぇ~、あんたも閉鎖ダンジョンに挑んだ冒険者だったんだ」

「閉鎖ダンジョンにパーティーで挑んで壊滅ですよ。生き残った俺は生き延びるために逃げ回った結果、この死海エリアに迷い込んだんだ。そこでノーチラス号に拾われたってわけよ」

「地上には帰ろうと思わなかったのか?」

「その時にはもう手遅れでね。この船に乗った時には、俺は死んでいたんだ」

「死んでいた?」

「そう、アンデッドになってたんだよ。でも意識があったから、この船に残った」

「それでも普通なら地上に帰りたいと思うだろ?」

「ダメダメ。一度はノーチラス号を降りたんだけど、しばらくしたら体が崩れだした。自分でも分かるぐらい弱ったんだ」

「なんでさ?」

「この船にはアンデッドとして人間を活かす機能があるんだよ」

「機能……」

そう言えば、ノーチラス号からはマジックアイテムに近い気配を感じる。

って、もしかして、この船ってマジックアイテムなんじゃあないか?

俺は魔力探知で船内を見回した。

案の定である。

ノーチラス号の厨房全体が青白く輝いて見えた。

「この船は……。この船全体がマジックアイテムなんだ……」

俺は壁に手を当てるとアイテム鑑定を試みた。

【ノーチラス号+6。船内の空気、食糧、水の自動生産。設備の自動再生。燃料無限。魚雷や弾丸の自動無限製作。人間のアンデッド化。アンデッドの自動再生】

「うわっ、凄いぞ!!」

なに、この船は!?

プラス6とか平気でぬかしてやがるぞ!!

まあ、なるほどね……。

これだけ凄いマジックアイテムならば、船長が変態スケルトンになるわけだわ。

納得納得……。

「ところで俺は船長にトイレ掃除とか厨房の手伝いを言われたんだが、お前らクルーって全員スケルトンだよな?」

「ええ、そうですよ。何せ身体の肉なんて一年もしないで腐り落ちますからね」

「じゃあホネホネなアンタに問う」

「なんでしょうか?」

「スケルトンって、飯を食ったり、トイレでオシッコとかするの?」

「食べるフリです。トイレもフリです」

「ふり?」

「人間として生活しているフリでもしないと、こんな海底の狭い潜水艦の中で、何年、何十年、何百年も生きて行けませんからね。飯もトイレも娯楽ですよ」

「侘しい娯楽だな……」

「じゃあ、食堂にお皿を並べましょうか。貴方を入れて十人分のお皿をテーブルに並べてください」

「今この船には九人のクルーが居るのか?」

「古株はコックピットの四人だけです。残りは俺と同じで拾われた冒険者たちですよ」

俺は皿を厨房から食堂に運びながらスケルトンコックに訊いた。

「ネモ船長は異世界から来たって訊いたが──」

「昔は古株も二十人居たらしいですよ。ネモ船長と一緒に来た面々ですな。それが今では四人です。みんなリタイアですわ」

「リタイア?」

「長く続かないんですよ。潜水艦生活なんてさ」

そう、何せ五百年も死海を徘徊してるんだもんな。

そりゃあ精神的にも耐えられまい。

「あんたは、どうなんだ?」

「私はまだキャリアが短いですからね。まだまだ十年ぐらいは正常でいられますよ」

「なるほどね。精神力が続かないと、長く持たないのか……。船長も変態になるわけだ……」

納得納得だわ~。

「あなたも長続きするといいですね」

「俺は直ぐに船を降りるぞ。たまたま、この船に拾われただけだから。別の目的が俺にはあるからな」

「あら、そうなんですか。生きてるって希望に溢れていて喜ばしいですな」

俺は話を変えた。

「ところであんた、クラーケンを見たことあるか?」

「ええ、何度もノーチラス号が戦ってますからね」

「大きさって、どのぐらい?」

「デッカイですわ~」

「デカイのか……」

「ノーチラス号の数十倍の大きさですよ。もしかしたら数百倍かもしれません。クラーケンの足一本でノーチラス号がグルグル巻き状態にされますからね」

「それはスーパーヘビー級だな……」

その時である──。

ドォーーンっと大きな轟音と共に船体が激しく揺れた。

まるで大地震だ。

俺は立っていられず床に尻餅をついてしまう。

「なんだっ!!」

焦る俺とは違ってスケルトンコックが冷静に述べる。

「何かの巨大魚と激突したのでしょうね」

「冷静だな、お前!?」

「まあ、日常的ですからね」

これがノーチラス号の日常なのかよ。

そして俺が戸惑っていると船内放送が鳴り響く。

『全員戦闘態勢。全員戦闘態勢。魚人マーマンと遭遇!』

えっ、マーマン?

マーマンって人魚の男バージョンだよな。

女がマーメイドで男がマーマンのはずだ。

俺は食堂から飛び出すと廊下に設置された丸くて小さな窓から外を見てみた。

海底をマーマンの群れが泳いでいやがる。

下半身は魚で、上半身は鱗肌の人間だ。

平目でエラが張り、鶏冠のような鰭が頭から背鰭に繋がっていた。

そのような半魚人が複数体、ノーチラス号と並走して泳いでやがる。

十や二十の数じゃあない。

海の果てまで見える数は百を越えているだろう。

そのマーマンの腕にはトライデントや大砲のようなハープーンガンが握られていた。

「うわっ、人魚だ。初めて見たぞ!」

海中を泳ぐ一匹のマーマンと目が合った。

すると海中のマーマンは手に持つハープーンガンの銃口を俺が覗き見ている窓ガラスに向けた。

「まさか、撃つの?」

ドンっ!!

「撃って来たーー!!」

だが、ハープーンガンから放たれた銛を窓ガラスが弾き飛ばす。

「防御スゲー!!」

スケルトンコックが俺の背後から言う。

「大丈夫ですよ。彼らの火力では、ノーチラス号を傷付けられませんからね」

「じゃあ、さっきの大きな衝撃はなんだったんだ!?」

「あれですか。その辺に見えませんか?」

スケルトンコックは海中を良く見て回れと述べている。

俺は角度を変えて窓ガラスから周囲を見渡した。

「あれか……」

見付けた……。

巨大な鯨だ。

全長20メートルほどの鯨だ。

頭の先端にドリルのような太くて長い一角が付いている。

その一角鯨の背中には、何体かのマーマンが股がっていた。

「さっきの衝撃は、あれがぶつかって来たのか……」

「一角鯨の体長は、ノーチラス号とほぼ同じぐらいですからね。体当たりされたらかなり揺れますよ」

「大丈夫なのか?」

「ええ、問題ありません。あの程度で沈むぐらいなら、とっくの昔にノーチラス号は沈んでますよ」

俺はスケルトンコックの話を聞きながら一つ疑問を抱いた。

それを訊いてみる。

「ところで、なんでマーマンはノーチラス号に攻撃を仕掛けて来るんだ?」

「あー、それは簡単な理由ですよ」

「なんなんだ?」

「その昔に、ネモ船長がマーマンの財宝を略奪したからですよ」

「それって、海賊じゃんか……」

「海の男ってヤツは、漁師か海賊のどちらかですからね~」

片寄ってやがる。

こいつらの脳味噌は片寄ってやがるぞ。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...