上 下
444 / 604

第443話【地上の太陽】

しおりを挟む
「さてさてと、これで二人目だ」

タピオカ姫が述べていたハイランダーズの強者たち。

隼斬りのエクレア。

炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟。

あと残るは、長槍のパンナコッタと、謀反軍リーダーで剣豪のティラミスだっけな。

残るは二人だ。

あと、雑魚が十六名か~。

まあ、雑兵どもはどうでもいい。

幹部だけ倒せばハイランダーズ全員を仲間に入れられるだろう。

二の間に一人残った俺は、扉に近付きトラップを調べる。

「罠や鍵は無し。たぶん今まで見てきたハイランダーズの性格からして、このエリアには罠は無いな」

あいつらは武士に近い戦士だ。

罠とかの小細工は使わないだろう。

そして、俺が扉のノブに手を掛けると、異次元宝物庫内からヒルダが声を掛けてきた。

『失礼いたします、アスラン様──』

「なんだ、ヒルダ?」

『そろそろ昼食のお時間ですが、お食事は如何なされますか?』

「あ~、もう昼飯の時間かぁ~」

確かにお腹が空いてきたぞ。

ここは一旦魔王城前のキャンプに帰って、ゆっくりと昼飯にでもするかな。

ちゃんと暖かくて旨い飯が食いたいのだ。

それに、ハムナプトラのことも気になるしさ。

俺は異次元宝物庫から転送絨毯を出して二の間の隅に敷いた。

「なあ、ヒルダ、プロ子。俺はキャンプに帰って昼飯を食って来るから、転送絨毯の見張りを頼むわ~」

『『畏まりました』』

異次元宝物庫内からゾロゾロと出てきたメイドたち21名が、俺が中央に立つ転送絨毯を囲んで背を向けた。

その手にはクロスボウが握られている。

『それでは昼食をお楽しみになられてくださいませ。転送絨毯の警護は我らメイドたちにお任せあれ』

「ああ、ヒルダ。任せるぞ。──チ◯コ」

合言葉を述べた俺は瞬時に魔王城前のキャンプに転送された。

俺がテントから出ると外では様々な者たちが土木作業に性を出していた。

マッチョなエルフたちが大木を切り倒し、サイクロプスが刈株を掘り返し、フォーハンドスケルトンたちが木材を運んでいる。

その足元を小人たちが煉瓦を背負って運んでいた。

人間も居るには居るが、亜種やモンスターの数が多く見える。

故にカオス!!

なんだか魔王城らしい光景が広がっていた。

「眩しいな……」

ダンジョンから出たばかりの俺は暗闇に目が慣れていたために、太陽の光が瞳に刺さるようで痛かった。

俺はローブのフードを被って日差しから視線を守る。

「まあ、目が慣れるまでだ」

すると美味しそうな匂いが微風に乗って漂って来た。

「クンクン──。炊き出しの匂いだ。石橋のほうだな」

俺は焼き肉の匂いに誘われて足を進める。

最近では倒壊している石橋の手前で炊き出しを作るのが日々の作業となっていた。

今日はユキちゃんとオアイドスが炊き出しを作っている。

「おら、へっぽこミュージシャン、早く肉を調理しないと作業員どもが昼食に来るぞ。急げ!!」

「はぁ~……。もう腕が疲れた……。私はリュートを弾く以外に腕を使いたくないのにさ……」

おうおう、オアイドスが愚痴ってる愚痴ってる。

俺は二人が調理に励む現場に入ると声を掛けた。

「ユキちゃん、オアイドス。ご苦労様~。もう昼飯は食えるか?」

「よう、ダーリン、おはよう。今頃の出社か!?」

出社ってなんだよ……。

こいつらもエルフたちの文化に汚染され始めたのか?

「ああ、今はゴモラタウンの閉鎖ダンジョンに籠ってる最中だ。なかなか金になる依頼を受けててな~」

「そうかそうか。ダーリンには外貨を稼いでもらって、早くこの町を完成してもらわないとならんからな!」

「そんなことより昼飯だ。何か食わせてくれ」

オアイドスが本日のメニューを言う。

「今日はケルベロスの焼き肉とワニガラスープですが、いいですか、アスランさん?」

「それしか無いなら、それでいいよ。兎に角暖かい食い物が食いたいんだよ」

俺が長テーブルに腰かけるとユキちゃんが料理を運んで来る。

「頂きまーーす!!」

俺がケルベロスの焼き肉にかぶりつくとユキちゃんが不機嫌そうに言った。

「ダーリン、飯を食う時ぐらいフードを取れよ……」

言うなりユキちゃんが俺のフードを剥ぐった。

「「ぶっ!?」」

二人は俺のハゲ頭を見た刹那に真顔で吹いてしまう。

そして、腹を抱えて笑い出す。

「わっひゃひゃひゃ~。なんだよダーリン、そのハゲ頭は!?」

「アスランさん、もうハゲ始めましたか? 若ハゲですか!?」

「ちゃうわい!!」

あー、もー、このハゲ頭もどうにかせんとならないな。

見る知人すべてに笑われる。

スゲー悔しいわ……。

まあ、なんやかんや笑われながらだが、俺は昼飯を食べ終わった。

俺は爪楊枝で歯の隙間に引っ掛かった肉片をホジリながら二人に訊いた。

「スカル姉さんとハムナプトラは話し合ったのか?」

オアイドスが答える。

「ハムナプトラって、あのミイラ男ですよね?」

「ああ、そうだ」

「今朝、二人が話しているのを見ましたよ。作業員として働く代わりに住人登録を契約してました」

「それは良かった」

流石はスカル姉さんだぜ。

相手がミイラだろうとモンスターだろうとすべてウエルカムだ。

話が面倒臭くならないで助かる。

オアイドスが遠くのミケランジェロを眺めながら言う。

「それにしてもアスランさんって、テイマーでもないのに、よくモンスターを仲間に出来ますね」

「ああ、最近特にモンスターに好かれていてな」

言いながら俺は異次元宝物庫の扉を開けた。

するとハイランダーズたち七名がゾロゾロと出て来る。

「ここは……?」

「「地上だな……」」

タピオカ姫、キャッサバ、スターチ、プディング、エクレア、バームとクーヘン兄弟は、地上の景色を見回して興奮していた。

「ここが地上か!?」

「地上!!??」

「わ、私、地上に出るのは初めてだぞ!!」

「わ、私だって!!」

「姫、こんなに明るいですぞ!!」

「皆、上を見ろ。あれが噂に聞いた太陽じゃあないか!?」

「マジ、あれが噂に名高い太陽か!!」

「「生きててよかった……。まさか地上に出れる日が来るとは!!」」

あらら……?

なんかスゲー感動している感じだな。

もしかしてハイランダーズってダンジョンで産まれてダンジョンで死んで行くようなモンスターだったのかな?

ちょっと訊いてみよう。

「お前ら、ダンジョンから出るのは初めてなのか?」

俺の質問にタピオカ姫が答えた。

「当然じゃ!!」

プディングに持たれたエクレアが続く。

「我々ハイランダーズは閉鎖ダンジョン特有のモンスターだと聞いています。だから地上を見るのは初めてですわ!」

「ほほう、なるほどね~」

このはしゃぎよう。

この感動の仕方。

使える!!

使えるぞ!!

残りのハイランダーズを仲間に引き込む餌が見つかった。

地上の感動を餌にハイランダーズ全員を仲間に引き込んで、魔王城の警備としてコキ使ってやるぞ!!

これって、もしかして──。

俺、もしかしたら魔王としてデビュー出来るんじゃね!?

俺、魔王の才能があるのか?

席を立った俺がハイランダーズに言う。

「よし、お前ら、閉鎖ダンジョンに帰るぞ!」

「えー、私はここに残りたいな~」

「黙れタピオカ、お前らも来るんだよ!!」

こいつらには他のハイランダーズに地上の感想を伝えてもらわなきゃならんのだからな。

そして俺はハイランダーズを異次元宝物庫に押し込むとテント内の転送絨毯で閉鎖ダンジョンに帰る。

だが、二の間に帰った俺の目の前に、とんでもない光景が飛び込んできた。

「なんじゃこりゃあ!!!」

それは、バラバラに刻まれたメイドたちの死体だった。

手足だけでなく首まで切り離されて、まさにバラバラ。

残酷で哀れな光景が室内に広がっていた。

そして二十一個の首が扉の前に、横一列で綺麗に並べられている。

その首の中には、ヒルダとプロ子の者も有った。

「ヒルダ……、プロ子……」



【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...