439 / 604
第438話【負けられない戦い】
しおりを挟む
薄暗い部屋だった。
10×20メートルの部屋だ。
洋風世界のダンジョンのはずが、足元は畳である。
壁際に座るのはフルプレートを纏った老体。
畳に正座をしている。
腰には鞘に収まったロングソードを指していた。
鎧を纏い、武器を刺したまま正座を組んでいるので座りずらそうだ。
何故にフルプレートなのに老体だと分かるか?
それは、ヘルムの顔に白い髭が生えているからだ。
その白い髭が、露骨に老人だと印象付ける。
そして、部屋の前方に座るのは、黒い女性用のフルプレートを纏った存在。
その背後には、奥に進む扉がある。
室内に居るのは、この二人だけであった。
その他には室内を照らす複数の灯台だけである。
蝋燭の火が幾つも揺れていた。
この部屋を、必ず通らなければテイアーの研究室に行きつけない重要なポイントだ。
更に説明するならば、この部屋を境にハイランダーズの勢力圏が分かれている部屋なのだ。
そして、女性用のフルプレートを纏った存在は、謀反軍の一人である。
その名を『隼斬りのエクレア』。
謀反軍の中でも剣技のスピードならば一番と言われる女剣士である。
老戦士と女剣士の二人は、フルプレートでありながら畳に正座していた。
そんな女剣士に老戦士が声を掛ける。
「まだ……、待たれるつもりですかな、エクレア殿?」
しゃべったのは、腰に刺されたロングソードだ。
そのロングソードの柄に老人の顔が有り、その顔がしゃべったのだ。
「キャラメル師範は、タピオカ姫が、もう、このまま引き下がっていると思ってますか?」
「その回答は、何度も言っているのでは……」
「来ると?」
「いえ、来ませんな……」
「何故っ!?」
「姫様はヘタレです。絶対に父上の無念を払いに来るようなことはございません」
「何故にだ!?」
「だから、ヘタレだから……」
「何故に、何故に、何故にだ!!」
「だーかーらー、ヘタレなんですよ、姫様は。だから私も忠義を捨ててティラミス殿の謀反に参加したのでありますぞ!!」
「私は信じないぞ。幼馴染のタピオカ姫が、必ず父上の無念を返すために、再びこの砦に挑んでくることを……」
「それでエクレア殿は、ここで待ち受けていると?」
「左様だ。でなければ門番なんて勝手出るか!」
「でえ、なんでエクレア殿は、慕っているタピオカ姫に付いて行かなかったのですか?」
「私は彼女のライバルだぞ。ならばいつでも彼女の敵に回るのが筋だ。それが運命だ!」
「面倒臭いな……」
「面倒臭いとか言うな!!」
「はいはい、老体なのに付き合わされる身にもなってくださいよ……」
「それは申し訳ないと思っている」
「そもそもアレでしょう……」
「アレとはなんだ?」
「彼氏の取り合いでしょう。なんて言いましたっけ、あの青年?」
「キャッサバは関係ないぞ!!」
「嘘おっしゃいませ。エクレア殿もキャッサバが好きなんでしょう?」
「私はキャッサバのことなんて、なんとも思ってないんだからな!!」
「はいはい、そう言うことにしといてあげますよ……。あー、面倒臭い……」
「ぬぬぬぬ…………」
このような会話を二人は何度も繰り返していた。
まあ、暇だから……。
そんな暇を持て余している部屋の扉が開いた。
その扉から一人の人間が入って来る。
「ごめんください……」
人間は少年だった。
一人である。
腰を上げたキャラメル師範が声を掛けた。
「どちら様かな?」
少年は答えた。
「ソロ冒険者のアスランって申しますが、ここを通りたいのですが宜しいでしょうかね~?」
「「ダメでしょう」」
エクレアとキャラメル師範の声が揃う。
「あー、やっばりダメですよね~」
キャラメル師範が理由を述べた。
「ここから先は下の階まで一方通行ですので、我ら謀反軍の本拠地を通らなければなりませぬ。故にここは通れませんぞ」
少年は頭をかきながら言った。
「じゃあ力ずくでなら、通ってもいいですか?」
「いやいや、ダメですぞ。力ずくだと、尚ダメですな……」
キャラメル師範とエクレアが立ち上がる。
すると少年は足元を見ながら述べた。
「えっ、床は畳なの?」
「ほほう、畳をご存知ですか」
「ああ、これだと土足厳禁だよね?」
言いながらも少年は土足のまま畳に上がる。
「貴様、無礼だぞ!!」
「お前らだってフルプレートのまま上がっているじゃあねえか」
「このプレートブーツは内履きだ!!」
「内履きの鉄靴かよ……」
キャラメル師範が腰の鞘からロングソードを引き抜いた。
ロングソードの刀身が輝いている。
「無礼な人間め。八つ裂きにしてやろうか!」
「爺さん、無理すんな。腰を痛めるぞ」
「我らハイランダーズに腰と言う概念は存在せぬ!」
怒りのままにキャラメル師範が前に出ようとした。
それをエクレアが声で止める。
「待たれよキャラメル師範。ここは私が人間の相手をしましょうぞ」
エクレアが腰の鞘から細身の剣を抜いた。
レイピアだ。
レイピアの刀身も目映く輝いている。
そのレイピアをエクレアがヒュンヒュンと可憐に振るう。
「人間の冒険者よ。私があなたを串刺しにしてあげますわ!」
「エクレア殿……」
キャラメル師範の呟きに人間の冒険者が反応を見せる。
「えっ、あんたがエクレアか?」
「ええ、そうよ」
「隼斬りのエクレアなの?」
「ああ、私が隼斬りのエクレアだ!」
「よし、勝負しよう」
「えっ、何故に?」
「お前はここから先に誰も通さないのが仕事なんだろ?」
「ええ、門番ですからね」
「俺は下の階に進みたいから、強引にでも通りたいんだ。だから戦ったほうが早いよね」
「そうね!」
「ただし、俺が勝ったらここを通してもらうぞ」
「ならば、私が勝ったらお前の身ぐるみは全て私の物とするぞ!」
「それは構わんぞ」
「荷物も死体も、全てだ!」
「ああ、いいだろう」
「後悔するなよ!!」
「ただしだ!!」
「えっ、まだ何か?」
「俺が勝ったら、お前を俺の物とさせてもらうぜ!!」
「「なにっ!?」」
キャラメル師範が言う。
「エクレア殿、もしも負ければ口では言えないような卑猥な行為を強制されますぞ!!」
「た、例えばどんな!?」
「亀甲縛りで吊るされて、前と後ろと横から同時に冷え冷えのアイスキャンディーをねじ込まれながら変顔しているところを動画に撮影されて、ネットに無料でバラ撒かれますぞ!!」
「そんな恥ずかしいーー!!」
「そんなことするか、ボケ……」
「こ、これは負けられないわ……」
「エクレア殿、これは負けられない勝負ですぞ!!」
【つづく】
10×20メートルの部屋だ。
洋風世界のダンジョンのはずが、足元は畳である。
壁際に座るのはフルプレートを纏った老体。
畳に正座をしている。
腰には鞘に収まったロングソードを指していた。
鎧を纏い、武器を刺したまま正座を組んでいるので座りずらそうだ。
何故にフルプレートなのに老体だと分かるか?
それは、ヘルムの顔に白い髭が生えているからだ。
その白い髭が、露骨に老人だと印象付ける。
そして、部屋の前方に座るのは、黒い女性用のフルプレートを纏った存在。
その背後には、奥に進む扉がある。
室内に居るのは、この二人だけであった。
その他には室内を照らす複数の灯台だけである。
蝋燭の火が幾つも揺れていた。
この部屋を、必ず通らなければテイアーの研究室に行きつけない重要なポイントだ。
更に説明するならば、この部屋を境にハイランダーズの勢力圏が分かれている部屋なのだ。
そして、女性用のフルプレートを纏った存在は、謀反軍の一人である。
その名を『隼斬りのエクレア』。
謀反軍の中でも剣技のスピードならば一番と言われる女剣士である。
老戦士と女剣士の二人は、フルプレートでありながら畳に正座していた。
そんな女剣士に老戦士が声を掛ける。
「まだ……、待たれるつもりですかな、エクレア殿?」
しゃべったのは、腰に刺されたロングソードだ。
そのロングソードの柄に老人の顔が有り、その顔がしゃべったのだ。
「キャラメル師範は、タピオカ姫が、もう、このまま引き下がっていると思ってますか?」
「その回答は、何度も言っているのでは……」
「来ると?」
「いえ、来ませんな……」
「何故っ!?」
「姫様はヘタレです。絶対に父上の無念を払いに来るようなことはございません」
「何故にだ!?」
「だから、ヘタレだから……」
「何故に、何故に、何故にだ!!」
「だーかーらー、ヘタレなんですよ、姫様は。だから私も忠義を捨ててティラミス殿の謀反に参加したのでありますぞ!!」
「私は信じないぞ。幼馴染のタピオカ姫が、必ず父上の無念を返すために、再びこの砦に挑んでくることを……」
「それでエクレア殿は、ここで待ち受けていると?」
「左様だ。でなければ門番なんて勝手出るか!」
「でえ、なんでエクレア殿は、慕っているタピオカ姫に付いて行かなかったのですか?」
「私は彼女のライバルだぞ。ならばいつでも彼女の敵に回るのが筋だ。それが運命だ!」
「面倒臭いな……」
「面倒臭いとか言うな!!」
「はいはい、老体なのに付き合わされる身にもなってくださいよ……」
「それは申し訳ないと思っている」
「そもそもアレでしょう……」
「アレとはなんだ?」
「彼氏の取り合いでしょう。なんて言いましたっけ、あの青年?」
「キャッサバは関係ないぞ!!」
「嘘おっしゃいませ。エクレア殿もキャッサバが好きなんでしょう?」
「私はキャッサバのことなんて、なんとも思ってないんだからな!!」
「はいはい、そう言うことにしといてあげますよ……。あー、面倒臭い……」
「ぬぬぬぬ…………」
このような会話を二人は何度も繰り返していた。
まあ、暇だから……。
そんな暇を持て余している部屋の扉が開いた。
その扉から一人の人間が入って来る。
「ごめんください……」
人間は少年だった。
一人である。
腰を上げたキャラメル師範が声を掛けた。
「どちら様かな?」
少年は答えた。
「ソロ冒険者のアスランって申しますが、ここを通りたいのですが宜しいでしょうかね~?」
「「ダメでしょう」」
エクレアとキャラメル師範の声が揃う。
「あー、やっばりダメですよね~」
キャラメル師範が理由を述べた。
「ここから先は下の階まで一方通行ですので、我ら謀反軍の本拠地を通らなければなりませぬ。故にここは通れませんぞ」
少年は頭をかきながら言った。
「じゃあ力ずくでなら、通ってもいいですか?」
「いやいや、ダメですぞ。力ずくだと、尚ダメですな……」
キャラメル師範とエクレアが立ち上がる。
すると少年は足元を見ながら述べた。
「えっ、床は畳なの?」
「ほほう、畳をご存知ですか」
「ああ、これだと土足厳禁だよね?」
言いながらも少年は土足のまま畳に上がる。
「貴様、無礼だぞ!!」
「お前らだってフルプレートのまま上がっているじゃあねえか」
「このプレートブーツは内履きだ!!」
「内履きの鉄靴かよ……」
キャラメル師範が腰の鞘からロングソードを引き抜いた。
ロングソードの刀身が輝いている。
「無礼な人間め。八つ裂きにしてやろうか!」
「爺さん、無理すんな。腰を痛めるぞ」
「我らハイランダーズに腰と言う概念は存在せぬ!」
怒りのままにキャラメル師範が前に出ようとした。
それをエクレアが声で止める。
「待たれよキャラメル師範。ここは私が人間の相手をしましょうぞ」
エクレアが腰の鞘から細身の剣を抜いた。
レイピアだ。
レイピアの刀身も目映く輝いている。
そのレイピアをエクレアがヒュンヒュンと可憐に振るう。
「人間の冒険者よ。私があなたを串刺しにしてあげますわ!」
「エクレア殿……」
キャラメル師範の呟きに人間の冒険者が反応を見せる。
「えっ、あんたがエクレアか?」
「ええ、そうよ」
「隼斬りのエクレアなの?」
「ああ、私が隼斬りのエクレアだ!」
「よし、勝負しよう」
「えっ、何故に?」
「お前はここから先に誰も通さないのが仕事なんだろ?」
「ええ、門番ですからね」
「俺は下の階に進みたいから、強引にでも通りたいんだ。だから戦ったほうが早いよね」
「そうね!」
「ただし、俺が勝ったらここを通してもらうぞ」
「ならば、私が勝ったらお前の身ぐるみは全て私の物とするぞ!」
「それは構わんぞ」
「荷物も死体も、全てだ!」
「ああ、いいだろう」
「後悔するなよ!!」
「ただしだ!!」
「えっ、まだ何か?」
「俺が勝ったら、お前を俺の物とさせてもらうぜ!!」
「「なにっ!?」」
キャラメル師範が言う。
「エクレア殿、もしも負ければ口では言えないような卑猥な行為を強制されますぞ!!」
「た、例えばどんな!?」
「亀甲縛りで吊るされて、前と後ろと横から同時に冷え冷えのアイスキャンディーをねじ込まれながら変顔しているところを動画に撮影されて、ネットに無料でバラ撒かれますぞ!!」
「そんな恥ずかしいーー!!」
「そんなことするか、ボケ……」
「こ、これは負けられないわ……」
「エクレア殿、これは負けられない勝負ですぞ!!」
【つづく】
0
お気に入りに追加
383
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる