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第420話【怪物幼女】

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俺がゴモラタウンのお城に出向いたころには夜になっていた。

城のあちらこちらの窓から明かりが漏れている。

俺の乗った馬車は、様々なゲートをノーチェックで通過して行った。

「へぇ~、俺って信用されてるんだぁ~」

そして間も無くして俺は城内に入った。

馬車を降りた俺は、若い執事の兄さんに案内されて謁見室に向かう。

俺は前を進む執事の兄さんに訊いた。

「なあ、ベオウルフのオッサンは、俺になんの用なんだ?」

執事の兄さんは振り返ることすら無く答えた。

「申し訳ありません。わたくしめは存じ上げません……」

素っ気無いな。

冷たいわ~。

まあ、城の人間なんて、こんなもんだよな。

パーカーさんやピーターさんのフレンドリーさが例外なんだよ、たぶん。

やがて俺は謁見室に通される。

謁見室の玉座に座るのは、髭オヤジのベオウルフだった。

ポラリスの父親である。

その横に立つ少年はベルセルクJr.だ。

老人から子供に戻ったベルセルク坊やはショタキャラだった。

なかなかの美形である。

たぶん、その手のキャラが好きな腐女子には、人気が出そうなビジュアルである。

更にワイズマンと新妻のマヌカハニーさんも居た。

ワイズマンはモッチリしているせいか、今は俺にも見えている。

僅か一日で太れるとは豪気なデブなり。

超リバウンドだな。

俺は護衛兵の視線を浴びながらレッドカーペットの上を進む。

すると俺を凝視していたベオウルフにベルセルク、それにワイズマンとマヌカハニーさんが「ぷっ」と笑った。

顔を反らして笑いを堪えている。

畜生……。

予想はしていたが、やっぱり笑われたぜ。

このハゲ頭のお笑いポイントは、相当ながら高得点のようだ。

知人ならば笑わずにはいられないのだろう。

何せハゲの上に眉毛まで無いからな。

所見でびっくりお笑いサプライズだろうさ。

「ちっ……」

俺は舌打ちの後に、君主の前に立つと、反発するように仁王立ちで言った。

「よう、ベオウルフのオッサン。元気だったか」

その言葉に護衛兵たちが甲冑を鳴らして一歩前に出る。

しかし、直ぐ様ベオウルフが声を荒立て護衛兵たちを静止した。

「構わん!!」

護衛兵たちは動きを止めると一歩下がった。

するとワイズマンが慌てて俺の側に駆け寄って来る。

「アスラン君、何を威張ってるんだ。君主殿の御前だぞ。片膝を付いて頭を下げなさい!」

「なんで?」

「なんでじゃあないよ!!」

珍しくワイズマンが狼狽しているな。

いや、狼狽ぐらい珍しくもないか。

あー、そうか~。

ワイズマンは俺とこの家族の関係性を知らないのか。

「構わんっと言っておるだろ、ワイズマン殿……」

ベオウルフが眉間を摘まみながらワイズマンを静止する。

まあ、諦めているのかな。

そして、次にはベオウルフが俺を睨み付けて来た。

そのためか緊張感が謁見室内にドヨドヨと流れる。

しかし──。

「ぷぷっ!」

また笑いやがった!!

この髭オヤジが!!

ハゲを笑いやがったな!!

「ア、アスラン君。まずは一つ訊いてもいいかな?」

ワイズマンが質問してきた。

俺は眉無しの視線でワイズマンを睨む。

「なんだよ」

「な、なんで髪の毛が無いんだい。……ぷぷぷっ」

畜生、このデブ豚野郎まで笑いやがる。

超ムカつくぞ。

「ジャイアントサンライズって言うモンスターに燃やされたんだよ……」

「ほほう、ジャイアントサンライズか。珍しいモンスターと戦ったようだな。……ぷっ」

そう述べたのは少年のベルセルク坊やだった。

しかし、この糞餓鬼まで笑ってやがる。

「お陰でこの有り様だ……」

俺は不貞腐れて横を向く。

「まあ、良いではありませんか、父上。早く仕事の話を進めましょうぞ」

ベルセルク坊やが息子のベオウルフに言った。

なんだか複雑な関係だな。

自分の息子の養子に入る父親だもんな。

訳ワカメだわ。

もう昆布のようにデロンデロンだぜ。

すると畏まったモッチリワイズマンが語り出す。

「アスラン君には悪いんだが、連続で依頼したい仕事が有るんだよ──」

「構わんよ。金になるならなんでも引き受ける。悪いことじゃあなければな」

「流石はソドムタウンのソロ冒険者、アスラン君だね」

このモッチリオヤジが。

おだてたってダメなんだからね、フンッだもん。

──兎に角だ。

「それで依頼の内容はなんだ。まずはそれを聞かせろよ」

するとワイズマンがベオウルフたちに視線を移す。

何やらアイコンタクトを送っていやがるぞ。

その視線を察したベオウルフが護衛兵たちに指示を出した。

「人払いだ。兵士たちは全員出ていけ」

その言葉に護衛兵がぞろぞろと謁見室を出て行った。

最後の一人が扉を閉める。

残ったのは四人と俺だけである。

「なんだ、一般には聞かれたくない仕事か?」

答えたのはベルセルク坊やだった。

「その通りだ」

なんだろう……。

ベルセルク坊やの表情が固いな。

「アスラン。お前に極秘で探してもらいたいマジックアイテムが有るのだ」

「マジックアイテム?」

「テイアーがな……」

テイアーとはドラゴンのテイアーだろう。

そのテイアーに何かあったのだろうか?

「マヌカハニー殿、テイアーをこちらに……」

ベルセルク坊やに言われてマヌカハニーさんが奥の部屋に移動した。

そして、しばらくすると女の子と手を繋いで戻って来る。

白い髪に整った顔立ちの少女は三歳ぐらいに窺えた。

普通でない不思議な気配の幼女だった。

「もしかして、このちっちゃいのがテイアーか?」

マヌカハニーさんの手を振りほどいた少女は俺の足元にテクテクと駆け寄ると、俺の下半身に可愛らしく抱きついた。

完全に子供だな?

完全無垢な子供だぞ。

なかなか可愛いぜ。

するとベルセルク坊やが言う。

「アスラン。その子は男性には危険だぞ」

「はっ?」

言ってる意味が分からなかった。

だがしかし、次の瞬間には言葉の意味を理解できた。

「おい、ちょっと待て!!」

『きゃはははは~』

三歳の少女が俺を持ち上げる。

軽々とだ。

怪力ってもんじゃあないだろ。

『きゃはははは~』

そして笑いながら俺を放り投げた。

まるでオモチャをポイするようにだ。

「ぐぽっ!!」

俺は10メートルほど離れた壁に激突して止まる。

そして逆さまに頭から床に落ちた。

「い、いてぇぇ………」

「ダメよ、テイアーちゃん、人間を投げ飛ばしたら!」

マヌカハニーさんがテイアーを止める。

もう遅いけれど……。

『きゃはぁはぁはぁ~~』

幼女テイアーは無邪気に笑ってはしゃいでいた。

まるでネジが緩んだ感じの子供である。

俺は壁際で逆さまにひっくり返りながら問う。

「もしかして、このテイアーって、自我が無いのか……?」

困った表情でベルセルク坊やが答えた。

「子供に戻ったようだ……。肉体だけでなく、精神までも……」

「なんで!?」

「また若返りのポーションだ……」

「またかよ!!」

若返りのポーションって、ベルセルクも坊やになった劇薬じゃあないか。

それをテイアーが飲んだのか?

『きゃは!』

「えっ……?」

そんな話をしていると、幼少テイアーが大きく胸を膨らまして息を吸い込んだ。

『すぅ~~~』

「「やーばーいー……」」

それを見てベルセルクとベオウルフは玉座の後ろに慌てて隠れる。

ワイズマンとマヌカハニーさんも部屋の隅に逃げ出した。

「も、もしかして……」

『がぉぉおおお!!!』

「ひぃ!!」

幼女テイアーが火を吹いた。

ファイアーブレスだ。

「ギィァァアアア!!!」

俺が炎に包まれる。

熱い!!

やはり幼女でもドラゴンである。

まさに怪物幼女だ。

そして、またファイアーブレスだよ。

人生何回目のファイアーブレスだろうか?

しかも今回のはドラゴンファイアーブレスだぞ。

堪らんわ!!

俺は丸焦げである。

最近なんだか火が運気を下げているような感じがするな……。

マジでさ……。


【つづく】
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