上 下
408 / 604

第406話【ここ掘れワンワン】

しおりを挟む
俺と凶介は森の中で神々のスコップを持ったまま立ち尽くしていた。

神々のスコップは凶介の手にある。

あるのだが──。

「アニキ、これ、キモイっすね……」

「だな……」

凶介が片手で持つ神々のスコップが、まるで鰻のようにクネクネと動いているのだ。

「まあ、ここまで来る際もクネクネと動いて歩行してたもんな。マジックアイテムって言うよりも、まさに生き物だぜ」

「アニキ、それにしても、こいつはここを掘れって言ってるんすかね?」

凶介がそう言うと、神々のスコップは頭をUの字に曲げて俺たちの足元を指した。

クイクイっと何度も頭で指す。

やはりここを掘れって言っているようだ。

「凶介、とりあえず掘ってみろや」

「了解しやした、アニキ!」

一時間後──。

「アニキ、何も出てきませんよ……?」

凶介が森の中を掘り続けたが、何も出てこない。

もう胸の辺りまで掘っている。

「本当に金なんて出て来るんですかね?」

「分からん……。だが、掘るしかないだろ……」

「それにしても掘った穴より積んだ土のほうが多く山になってやんすね……」

「そりゃあそうだろ。そのスコップで掘れば鉱物が倍に増えるんだから」

「アニキ、これってもしかして、このスコップで掘らないほうがいいんじゃあないっすかね?」

「そうかも知れんな……。金が出てきたら、そのスコップに交換したらいいかもな」

「アニキ、異次元宝物庫内に代わりのスコップとか在りませんか?」

「ねえよ。なんでも入ってるわけじゃあねえからな……」

すると異次元宝物庫内からプロ子の声が飛んで来る。

『在りますよ、スコップなら』

「えっ、本当か、プロ子?」

『魔王城に引っ越しが済んだら家庭菜園でもやろうと思ってたので、ちょっとした道具が揃ってますよ』

「やるな、プロ子。流石は冥土のメイドだ」

『てへへ~』

照れ笑いを浮かべながらプロ子が異次元宝物庫内から出て来る。

その両手には二本のスコップが握られていた。

「おお、ナイスだねプロ子ちゃん。スコップが二本あれば作業効率も倍っすよ!」

『てへへ~』

プロ子は笑いながら土の山にスコップ二本を刺してから異次元宝物庫内に帰って行く。

今は昼間だから、森の中とはいえ日差しがキツかったようだ。

アンデッドの定めなり。

「よし、俺も掘るぞ!」

俺はスコップの一本を凶介に手渡してから穴の中に飛び込んだ。

「ひゃっはー、掘りましょうぜ、アニキ!!」

「よーーし、目指すは金脈だ!!」

っと、ハイテンションで俺と凶介は穴を掘った。

それから瞬く間に一時間が経過した。

しかし──。

「アニキ、ぜんぜん金なんて出てきませんよ……?」

「だな……」

俺と凶介が掘っていた穴は既に俺たちの身長よりも深くなっていた。

もう土を上に投げるには深すぎるので、穴の横を崩して斜面を作り、そこから歩いて土を運ぶ作業をしていた。

よって掘れば掘るほど作業効率は低下している。

「アニキ……」

「なんだよ、凶介?」

「これは今こそスコップにアドバイスを貰う時ではないっすかね?」

「アドバイス?」

「だってこのスコップ、アドバイスが出来るんですよね?」

「ああ、出来るはずだ……」

しゃべれるのかな?

それどころかコミュニケーションが本当に取れるのか自信が無い。

「じゃあ、訊いてみましょうぜ」

「分かった……」

俺と凶介は泥だらけの体を払いながら穴から出ると地面に指して立っている神々のスコップの前に座った。

「おい、神々のスコップ。本当に、ここから金が出るんだろうな?」

俺がスコップに問うた直後、スコップの柄に縦書きの文字が浮かび上がる。

「アニキ、これ、何語ですか?」

「人間語だな」

「なんて書いてあるんすか?」

「えっ、おまえ読めないの?」

「勉強は苦手で……」

「おまえ、よくそれで一族の若様やってるな」

「それは言わないでくださいよ~……」

「今度ちゃんと勉強しておけ、社長も安心するぞ」

「うっす……。でえ、なんて書いてあるんすか?」

「この下に金脈があるって書いてあるぞ」

「マジっすか、本当に金脈があるんすか?」

するとスコップの柄に新しい文字が浮かび上がる。

「この下100メートルぐらい掘ると金脈らしい……」

イラっ!!

俺と凶介が立ち上がってから、手にしていたスコップをガンっと地面に叩き付けた。

冷静な表情で凶介が言う。

「アニキ、このスコップ叩き折りましょうか?」

俺も冷静に返した。

「明暗だな。俺も同じことを考えていたところだ」

しかし、神々のスコップがクネクネと走り出した。

「逃げだしたぞっ!!」

「追え、凶介!!」

「へい、アニキ!!」

俺と凶介の二人は逃げるスコップを全速力で追った。

「待てや、ゴラァ!!!」

「いてまうぞ、ワレっ!!、」

スコップと俺たち二人が森の中を全速力で駆け回る。

速いな、あのスコップ!!

スコップとは思えない速さで逃げやがるぞ!!

「まてゴラァ糞スコップ!!」

「捕まえたら尻の穴から手を突っ込んで奥歯をガタガタいわせてやるぞ! ねえアニキ!!」

ねえアニキじゃあねえよ!!

スコップに尻の穴も奥歯も無いだろうが!!

俺たち二人は逃げるスコップを追い続けた。

そして、50メートルぐらい森の中を走っただろうか。

突然に現れた岩場の陰にスコップが逃げ込んだ。

「ヤバイ、見失うっす!!」

「とうっ!!」

俺は自慢のジャンプ力を生かして岩場に在る巨大岩のてっぺんに飛び乗った。

「どこ行った!?」

下を見回せば神々のスコップが岩場に口を開けた洞穴に逃げ込んで行くところが見えた。

「あそこか!!」

俺は洞窟の入り口前に飛び降りる。

洞窟の入り口は人が一人ぐらい入って行けそうな幅だった。

後ろから凶介が追い付いて来る。

「アニキ、あの野郎は何処に!?」

「この中だ……」

「洞窟……?」

「おまえ、この洞窟を知ってるか?」

「いや、知りやせん……」

「ここはかつての魔王が封印されていた祠だ!」

「マジっすか!?」

「嘘だ。お前が知らないのに俺がこの土地のことを知ってるわけないだろ」

「そっすよね……」

そして俺が洞窟の中を睨んでいると凶介が訊いて来た。

「どうしやす、アニキ。中に入って追いますか?」

俺は怪しく微笑みながら答えた。

「丁度良い冒険だ。俺一人で入るぞ!」

「俺は留守番すか……?」

「じゃあお前が一人で入るか?」

「俺ら森の妖精っすよ。地中だとキャリオンクローラー以下ですがな」

「キャリオンクローラーって巨大芋虫だよな?」

「へい、そうですが」

「あれって蝶になるん?」

「なりやせん。一生芋虫です」

「可哀想なヤツラだな……」

「でえ、一人で行くんすか?」

「ああ、行って来る」

俺は虫除けのランタンにキャッチファイアーで火を灯すと割れ目に入って行った。

「さあ、冒険の始まりだぜ!!」

「よっ、アニキ、いかしてる!!」

そして、俺が洞窟に入って一分後──。

「神々のスコップ、捕まえたわ……」

「超はや!!」

俺は瞬時に帰還した。

冒険は終了である。

俺の手には、いまだに逃げようと踠く神々のスコップが在ったとさ──。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...