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第363話【バリスタ】

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俺はアキレスに股がり森の中を走っていた。

ソドムタウンを早朝に出て三時間ぐらいが過ぎている。

もうそろそろ目的地に到着するころだろう。

昔は歩いて二日も掛かった旅の道のりも、アキレスで疾走すれば僅か三時間だ。

速いと言うか、俺がいろいろな意味で成長したと言えよう。

何よりアキレスがマジで速いぜ。

普通の馬の数倍だもんな。

「さて、そろそろのはずだ」

アキレスが森を抜けて開けた場所に出ると走る速度を落とした。

目の前に目的地のチクチクとした風景が広がる。

茨の森だ。

1メートルほどの背丈に繁る茨の蔓が広がり、その向こうに魔法使いの塔が立っている。

トリンドルの塔である。

さてさて、トリンドルのヤツは、俺の訪問に気がついたかな?

あの色ボケ魔法使いが茨を退かしてくれないと、進む道が無いんだよね。

俺はしばらく待ったが茨は動かない。

ちっ、トリンドルの野郎、薬でも飲んで熟睡してるのかな?

まあ、アポ無しだもんな。

しゃーねーなー、剣で茨を凪払いながら進むか……。

そう考えて俺が腰の剣に手を伸ばした時である。

モコモコっと茨の蔓が動いて道を作った。

どうやら主が気付いたようだ。

「よし、手間がはぶけたぜ。進むかな」

俺は堂々と茨の中を進んで塔の麓に到着した。

そしてアキレスから降りて塔の中に入ると影の使い魔に出迎えられる。

「トリンドル様が最上階でお待ちです。どうぞ……」

「サンキュー」

俺は螺旋階段を上がって最上階を目指した。

そして、最上階の部屋に入る。

「ハロー、トリンドル。久しぶりー」

「お久しぶりです、アスランくん……」

トリンドルは薄暗い部屋で、暖炉の前に揺り椅子に腰掛けながら俺を出迎えてくれた。

金髪ロン毛のやつれた女性だ。

病弱だが性欲は高く、薬品でドーピングしているゲスなタイプのドルイド系の魔法使いである。

「おー、俺の名前を覚えてくれてたか」

「とうぜんです。何せ頭から投げ捨てられたのですからね」

あー、ちょっと怒ってるっぽい。

「あれはジャーマンスープレックスって言う投げ技だ」

「そんなのどうでもいいです。今日は何しに来たのですか?」

「頼みがあって来た」

「なんです、頼みって。まさか筆下ろしを私に願いたいと?」

「相変わらず煩悩の塊だな……」

「最近は人の出入りも少ないから干からびそうなのよ……」

「飢えてるな……」

「飢えてます……」

「じゃあ、ソドムタウンに行って男でも女でも誘えばいいじゃんか」

「貧乏でお金が無いのよ……。茨の管理だけじゃあ稼ぎが低いの。今は造花の内職までやってるのにさ……」

「それは困窮しているな」

「もう、別の仕事を探してここを離れようかしら……」

そうだとしても、こんな色ボケ女は俺の町には誘わないぞ。

絶対にな!!

「まあ、金に困ってるなら、俺が今日相談したい話は悪い話じゃあないぞ」

「お金儲けの話なの!?」

よし、食いついた。

流石は貧乏人だぜ。

「お前に売ってもらいたい物が有るんだ」

「何かしら?」

俺は天井を指差しながら言った。

「塔の屋上に設置されてるクインクレイクロスボウを売ってもらいたい」

「へっ、アレを?」

「そう、アレを」

「幾らで?」

「5000Gで売って」

「売ります!」

即決だった。

これがワイズマンなら三倍までふっかけられそうなんだがな。

本当に飢えてて良かったぜ。

「でも、どうやってアレを塔から運び出すの。塔から下ろすだけで大変よ?」

「それは考えがあるから」

俺はトリンドルと二人で屋上に上がった。

そして、クインクレイクロスボウの上に被せられた風呂敷を剥ぎ取った。

「立派だな……」

超大型の固定式クロスボウ。

全長は3メートルほどだ。

更に発射される矢も丸太サイズで長さが1.5メートルほどある。

これならシロナガスワニクジラも倒せるだろう。

捕鯨するならハープーンだ。

これなら威力的にハープーンの代わりになる。

ヒッポグリフも一撃で倒したのだ、期待はできるだろう。

俺は異次元宝物庫から大型転送絨毯を出して広げた。

「何それ、凄い魔法ね!」

「異次元宝物庫だ。魔法使いのお前が驚くな……」

そして俺は転送絨毯で一旦ソドムタウンに帰るとサンジェルマンさんやマヌカビーさんたちを呼んで戻って来る。

「男っ!!」

トリンドルがパーティーで一番若いマヌカビーを見て目を輝かせた。

その他五名はオヤジばかりだからな。

マヌカビーは背も高いし、平均点の取れた顔立ちもしている。

飢えた色ボケ魔法使いならば、ほっとかないだろうさ。

トリンドルがマヌカビーの腕に組つきながら言った。

「アスランくん、私の報酬は彼でいいわ!!」

「よし、交渉成立だ!!」

「勝手に決めないで……」

マヌカビーは困った顔をしていたが、組み付くトリンドルを振り払わない。

満更でもないようだ。

トリンドルがワイズマンも引くほどの絶倫だと知らないからだろう。

この際だ、二人をくっ付けようかな。

まあ、それはさておいてだ。

俺はクインクレイクロスボウを叩きながら皆に言った。

「じゃあ、皆さーん。このクインクレイクロスボウを運び出しますからお願いしますね!」

パーティーメンバーが「はーーい!」っと声を揃える。

すると──。

「ちょっと待ったー!」

サンジェルマンが手を上げた。

「なんだい、サンジェルマンさん?」

「それ、クインクレイじゃあなくて、クレインクィンじゃあないか?」

「その辺は発音の問題なので一緒の物と考えてください」

「じゃあクインクレイで良しとするが、クインクレイとは巻き上げ機が装着された強化型のクロスボウを指すのだよ。しかしそれは更に固定式だから、クロスボウと言うよりもバリスタじゃあないかな?」

「バリスタ……って、カフェ?」

「ちゃうちゃう……」

なに、この変態オヤジ?

こんなに理屈っぽいオヤジだったのかよ。

他人の矛盾ばかりほじくっていると嫌われるぞ。

あんましキャラの掘り下げがなかったから知らんかったけれど、本当にウザイは~。

「まあ、名前なんてどうでもいいから、これを運搬願います!」

パーティーのメンバーが「ヘェーーイ!」っと返事した。

流石は全裸パーティーだ。

働き者ばかり揃ってるぜ。

「じゃあ、マヌカビーさん以外はさっさと作業しましょうね~。俺も手伝うからさ!」

「えっ、僕は!?」

俺はマヌカビーさんの肩を叩きながら言った。

「そろそろマヌカビーさんも、マヌカハニー姉さんを安心させてあげなよ」

マヌカビーは苦笑いを溢すばかりだったが、トリンドルが頬を赤らめていた。

この二人に幸あれ──。


【つづく】
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