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第361話【水の王】

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いやいや、ポラリスには驚いたな。

強くなってると言いますか、賢くなってやがる。

本当に侮れん……。

昔はもっと馬鹿で可愛い子だと思ってたのにさ。

本当にチョロかったのに。

俺はログハウスの自室で防具に着替えると腰のベルトをボンっと叩いた。

相撲取りが廻しを叩いて気合いを入れるのを真似たのだ。

さて、魔王城の森に帰るかな。

まずは水の王たるワニを倒さなければ、魔王城に入れないぞ。

俺はいろいろと作戦を考えながらリビングに出た。

するとシルバーウルフたちを引き連れたカンパネルラ爺さんが、ガイアとアインシュタインを連れて散歩から帰って来たところだった。

ログハウス前で戯れている。

カンパネルラ爺さんの両手には、ガイアとアインシュタインの手が繋がれているのだが、中心のカンパネルラ爺さんが全裸なので犯罪者にしか見えない。

変質者が子供二人を連れている風景だ。

警察に通報したら即逮捕案件だぞ。

まあ、いいか。

「よう、カンパネルラ爺さん、散歩から帰ったのか?」

「ああ、この子たちが暇だと言うから狼たちの散歩に付き合ってもらってたんだ」

「アスラーン、散歩楽しかったぞー(棒読み)」

俺はホビットを無視してガイアに話し掛けた。

「ガイアも楽しかったか?」

ガイアはボーっとした眼差しで答えた。

「まあまあだった。お世辞にも楽しくない……」

「そうか、ガイアは素直だな」

「うん、素直で可愛い子だよ」

うんうん、相変わらすの娘だな……。

「アスラーン、これ、爺さんに買って貰ったー(棒読み)」

アインシュタインがポケットからフニャフニャのオナホールを出して見せた。

「ジジイ、とんでもないアイテムを子供に買ってやるなよな!」

「す、済まん……。欲しがってたから、ついつい……」

「オラは子供じゃあないぞー(棒読み)」

「じゃあ、何歳だよ?」

「オラ、九十歳だー(棒読み)」

「あー、ホビットジョークだな。ホビットって妖精の血を引く亜種だから長生きなんだろ。人間に置き換えると何歳ぐらいだ?」

「ホビットは人間の三倍の寿命だぞー(棒読み)」

「じゃあ、四十歳のおっさんじゃあねえか!?」

カンパネルラ爺さんが訂正する。

「三倍なら二十歳だろ!」

ガイアが更に訂正する。

「三十歳よ……。馬鹿ね」

男たち三人が数秒間ガイアを見詰めながら固まった。

「まあ、とりあえず、なんにしろだ。こいつは子供じゃあない、おっさんだ!」

「そうだー。オラはおっさんだー(棒読み)」

俺はアインシュタインの襟首を掴まえて持ち上げた。

「兎に角、帰るぞ。アインシュタイン」

「何処にだー、アスラン?(棒読み)」

「魔王城の森にだ」

「なんでだー?(棒読み)」

「あそこにお前の家が在るからだ」

「オラの家はもうここだー(棒読み)」

「ふざけんな、お前は餌なんだから帰るぞ!」

「餌って、なんだー?(棒読み)」

「これから釣りをするんだよ」

「何を釣るんだー(棒読み)」

「決まってるだろ。ワニだよ」

「ワニー?(棒読み)」

「水の王を釣り上げるのに、お前を餌に使うんだよ!」

「なんだー、そう言うことかー(棒読み)」

「だから一緒に帰るんだ」

「分かったー、帰るー(棒読み)」

アインシュタインは俺に担がれながらカンパネルラ爺さんとガイアに別れの挨拶をする。

「じゃあなー、二人ともー。生きてたらー、また会おうぞー(棒読み)」

手を振るアインシュタインを連れて俺はログハウスの部屋に入った。

自室から転送絨毯でアインシュタインの巣穴に帰る。

「ソドムタウン、楽しかったなー。また遊びに行けるかなー(棒読み)」

「行けるといいな……」

こいつ分かってるのか?

これから自分がワニを釣るための餌になることを?

冗談で言ったんだけど、こいつがビビらないから、マジでやってやるぞ。

俺たちは巣穴を出て魔王城の方向に進んだ。

そして、しばらく歩くと魔王城が見えて来る。

木々の頭の向こうに城の上部が見えた。

城の形はだいぶ保っているが、倒壊している部分も目立って見えた。

人が住めるか住めないかって言ったら、ちょっと難しそうだ。

修繕作業は必須だろう。

あれだと雨漏りも酷そうだし、暖も取れないだろうさ。

やがて俺たちは森を抜け出て開けた水辺に出る。

そこから魔王城全体が窺えた。

湖に囲まれた島に魔王城が立っている。

なんだか城の全体が黒く見える。

その黒い岩に蔓や蔦やらが巻き付いていた。

城のデザインはオドロオドロしいファンタジー全開の魔王の城といった感じでは無い。

四角い箱物の施設の上に中世の城が鎮座しているイメージが強かった。

言うなれば、戦争を想定した、実戦的な作りに窺える。

前魔王って、理想主義ではなく、現実的な実用主義者なのかな?

そして、湖は広い。

湖の中心に建つ魔王城まで200メートルから、それ以上はありそうだった。

ここに水の王とアインシュタインが呼んでいる巨大ワニが住んでいるのだろう。

「あっ、あっちに橋が在るじゃんか」

「でも、途中で崩れているぞー(棒読み)」

確かに石作りの橋は途中から崩れて使用不可能だ。

100メートルほどが倒壊している。

修復するのにも大変そうだな。

「とりあえず、橋の上から湖でも見下ろしてみるか」

「そうだなー、行こー(棒読み)」

俺たちは石橋を渡れるところまで進んでみた。

高さは25メートルほどある橋だ。

たぶん月日が経って倒壊したか、戦争で破壊されたのだろう。

石橋の上から水面を見下ろせば、澄んだ水面が見下ろせた。

ワニが住んでるって言うから、熱帯雨林の川のような泥水を連想していたのだが、思っていたより綺麗な水である。

これなら飲み水にも使えそうだぞ。

町作りの第一条件である水問題は解決だ。

だが、ここに巨大ワニが住んでいるとしたら、それでまた別の問題が発生する。

「あっ、鹿だー(棒読み)」

アインシュタインが遠くの水辺を指差しながら言った。

立派な角を生やした雄鹿が水を飲んでいる。

「へぇー、この森って鹿も居るんだ~」

なるほど、熊が巣食ってるくらいだ。

ならば鹿だって居るだろう。

動物が沢山住んでいるのは有難いことだ。

何せ食料になる。

水問題に続いて、食料問題も解決だぜ。

そんな感じで石橋の上から雄鹿を眺めていると、水中から巨大な黒い影が鹿に接近して行く。

「デカ……」

水中を進む黒い影の大きさは、大型トラックのサイズだった。

もう、ワニのサイズでは無い。

「鹿さん、逃げて!!」

俺の大声に水を飲んでいた鹿が反応した。

首を上げて俺のほうを見上げる。

しかし、鹿は逃げない。

水中から近付く巨大な黒い影には気付いていないのだ。

次の瞬間である。

猛スピードで水面に飛び出す巨大なワニの口が、一口で雄鹿を包み込む。

「えっ!?」

一口だ。

たった一口で2メートル有る雄鹿の体がスッポリとワニの口の中に消えたのだ。

ワニの口から角の端も足先もはみ出ていない。

要するに、ワニの口だけで2メートル以上の雄鹿を余裕で補食できるサイズがあるのだ。

そして、直ぐに巨大ワニは水中に戻って消えた。

「あれが水の王だー(棒読み)」

大きすぎる……。

なんてサイズだ……。

サイクロプスのミケランジェロより大きいぞ……。

そうだ、ネーミング判定だ!

【シロナガスワニクジラです】

シロナガスワニクジラって!!

確かにシロナガスクジラの頭部がワニに変わった感じだったよ!!

でも、シロナガスワニクジラって、そのまんまじゃんか!!

てか、あれは釣るのは無理だわ!!

アインシュタインを餌に使って釣りたいけれど、あのサイズを引っ掻けたら、パワーだけで水中に引きずり込まれるぞ。

ならば……。

釣り以外の討伐方法を考えなければならないか……。

これは困ったな……。


【つづくワニ】
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