上 下
348 / 604

第348話【勇者宣言】

しおりを挟む
若様エルフが血走った目を剥きながら唖然としていた。

「ア、アンドレアが、素手で負けた……。し、信じられるかよ……」

「お、おにーちゃん……?」

「なんだ、凶子……」

「もしかして、あの人間ってイケてるの?」

「いや、外観はかなりダサイぞ……」

「だよね……」

なに、この兄妹!?

超失礼だぞ!!

喧嘩売ってますか!?

「強いから、もう少し格好良ければアタックしたのにさ……。あたいは愛の決勝がハーフエルフでも可愛がれる広い心のエルフなのに」

そんなエルフは好ましいぞ!!

「いや、凶子。だからお前の伝説の木刀でやっつけてくれよ……」

風林火山だもんな……。

「だから何度言わせるのよ。あいつのほうが、あたいより強いってばさ。おにーちゃんバカなの!?」

「な、ならば……」

若様エルフが片手を高く上げて背筋を伸ばした。

「全員、出やがれ!!」

そう叫ぶと、今まで隠れて見ていたエルフたちが一斉に姿を表した。

木の陰、家の中、様々なところから姿を現すエルフたち。

人数は百人は居そうだ。

その手には全員弓矢を構えていた。

しかし、その姿は全員が普通のエルフだ。

やんちゃな格好はしていない。

「なんだよ、俺を村の中まで案内してくれたエルフと一緒で、普通のヤツラばかりじゃんか?」

俺のぼやきを聞いて若様エルフが答える。

「この格好は特別な衣装だからな。代々の特攻隊しか着れねーんだよ!」

まさにヤンキールールだな。

「人間で言うところの騎士の正装みたいなもんなんだぜ!!」

違うと思います。

それに、やっすい騎士の正装だわ……。

てか、なんで特効服なんだよ。

ここは埼玉か千葉かよ?

「でぇ~、そのお偉い特攻隊が負けたからって数で勝負に変更ですか~。ダサ、超ダサ!!」

「な、なにぃぃいいい!!!」

「だってそうじゃんか、こっちは一人だよ、一人なんだよ。それが腕力に自信があるヤツラがタイマンでコテンパにやられたからってさ、今度は数の力に頼るのかよ。マジでダサイわ~」

「な、舐めやがって!!!!!」

よし、煽りが成功しているぞ。

正直なところ、この数の狙撃は不味いよね。

たぶん村の外でハイエナコボルトを全滅させたのは、この一般ピーポーなエルフたちだろう。

あの自在に曲がる弾道や、頭を木っ端微塵にするマグナム弾を撃ったのは、こいつら普通のエルフたちだ。

だとするならば──。

そんなヤツラの弓矢を百発同時に撃たれたら、流石に俺でも死んじゃうよ。

蜂の巣どころか、刺さった矢で新デザインの生け花状態だわ。

「ぬぬぬぬぬっ、ぷぷぷっん!!!!」

若様エルフは額に複数の青筋を浮かべながら歯軋りしている。

煽れてる煽れてる。

沸点には到達しているだろう。

でも、あともうちょっとかな?

俺は拳をアッパーカット気味に突き出してから勇ましく言う。

「どうだい、あんたが大将ならば、男らしく勇ましく、素手ゴロで勝負をつけようじゃないか!?」

どうだ、これぐらい格好良く言われたら、妹のハートをゲットできたかな?

もうメロメロのはずだ。

「おにーちゃん、落とし前だ。死んで来い! 男らしく玉砕して来い!!」

「凶子、酷い…………」

あー、若様エルフの腰が引けたよ。

心が折れたかな?

落としどころが無くなるじゃんか……。

ここは俺と若様エルフが殴り合って終わりでいいじゃんかよ。

そこに大きな声が響いた。

村全体に轟く大声は、男性の凛々しい大声である。

「社長のお越しでありまーーーす!!」

社長!?

えっ、なに、エルフの村で社長なの??

てか、まだ新キャラが来ますか!?

腹筋が耐えられるかな?

すると村の奥から渋いエルフのオヤジが五人ほど若い衆を引き連れて広場に入って来た。

社長らしき渋いオヤジは筋肉質でガタイが良い。

うっすらと脂肪を蓄えた逆三角形のマッチョマンだ。

そして髪型は金髪だが額から後頭部まで剥げ上がっている。

しかし、堀が深い強面には口髭を蓄えており、全体的に凛々しく貫禄が満点だ。

纏っている服はどことなく成金が着ているような豪華なスーツに似ている。

その成金風のスーツの上に、首から白いマフラーをぶら下げていた。

マフィアのボスかよ。

そんな感じだ。

こいつもエルフに見えないが、耳だけは長く尖っている。

そこだけは間違いなくエルフだろう。

んんーー……。

それにしても、見たことがあるぞ。

こいつを昔の世界で見たことがある。

誰だっけな……?

あー、思い出した。

そうだよ、あいつに似ているよ、あいつだよ。

名前が思い出せないが、アメリカのプロレスラーだ。

たしか「イチバーーン!!」とか叫んでパフォーマンスする昔のレスラーだ。

凶子がアフロのズラを投げ捨てて社長に駆け寄った。

「パパーーーン、帰って来てたの~~」

マスクを下げた凶子が笑顔で社長に抱き付いた。

それで分かった。

凶子が無邪気に抱き付いたのが、腹の部分だ。

そう、社長も背が高い。

アンドレアほとではないが、おそらく2メートルを越えてそうだ。

後ろに控えている五人の若い衆も190センチは有りそうである。

なに、この世界のエルフって、マッチョマンで長身とか普通に多いのかよ。

だいぶ俺のイメージと違うわ。

「パパ~ン、いつ帰って来たのよ」

「たった今だよ、凶子。……それよりもだ」

社長が抱きついていた凶子を片手で押し退けた。

そして、気絶して居る破極道山とアンドレアを見てから若様エルフを睨んだ。

その一睨みで若様エルフが縮こまる。

「凶介、これはなんだ?」

問う社長の渋い声は、凶子に話し掛けていた時とは違って冷やかだった。

冷めた脅しの抑揚である。

その質問に若様エルフが俯きながら答えた。

「な、舐めた人間が来たから、絞めてました、父さん……」

社長は溜め息を吐いてから言う。

「これが、絞めていたと言えるのか?」

「うっ…………」

「なあ、凶介。俺にはお前が絞められているように見えるのだが、気のせいか?」

「そ、それは……」

ろくに言い返せないよな。

だって俺が連勝で押しているもの。

すると突然に社長が大声で怒鳴った。

「サァーーーブっ!!!」

サブ??

「はぃいいいーーーー!!!」

引きつった声で返事をしたのは、最初に俺にハイキックで伸されたパンチパーマのエルフだった。

いつの間にか気絶から回復していたようだ。

「サブ、お前が報告しろ!!」

「オッ、オッス!!」

パンチパーマのサブが社長の前に駆け寄った。

サブは片膝をついて頭を下げる。

そして、今までの経緯を話し出した。

「この人間が、村を通って魔王城に行きたいと申しまして……」

「何故だ?」

「その目的が、魔王城を占拠して、悪魔を復活させ、魔王の軍勢を築きたいと!!」

うわー、そんなこと言ってねーよ。

俺は魔王城に住んで、その周りに町を作りたいって言ったよね。

言いましたよね?

あれ、言わなかったっけ?

いやいや、言ったよね、確かにさ。

すると社長の鋭い視線が俺のほうを見る。

「ほほう、前魔王が滅んで数百年で、新たな魔王候補が出て来るとは早いな。しかも人間とは面白い」

うん、誤解が全開だ。

完全に可笑しな展開だぞ。

凶子が社長の袖を引きながら心配そうに言う。

「パパン……。どうするの……」

社長は笑顔で愛娘に返す。

「凶子は何も心配しなくていいんだよ」

そう言いながら大きな手で金髪のショートヘアーを撫でた。

そして、瞬時に声色を変えて言う。

「凶介!!」

「な、なんだよ、父さん……」

「お前は、本当に俺の後継者に成りたいのか?」

「勿論だよ、父さん……」

「ならば、いつまでも父の背中ばかり追ってるんじゃあねえよ!!」

「と、父さん……」

「この人間みたいに、魔王になるぐらいのデッケー夢を持ちやがれってんだ、あー!!」

「ま、魔王って……」

「なあ、そうだろ、人間の新魔王さんよ!!」

俺に振るなよ。

それに俺は新魔王になりたいわけじゃあないから……。

ただお城が欲しくて町を作るのに丁度良いからここに来ただけなので……。

「俺にもときが来たようだな」

言いながら社長は首のネクタイを緩める。

「俺が、エルフの俺がだ。魔王を倒すエルフの勇者になる時がだ!!」

勇者宣言キターー!

うわー、勘違いにも程があるぞ……。

てか、この社長さんもノリノリだよ。

自分の世界に浸ってるわ~。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...