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第331話【ドワーフの村】
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俺がソドムタウンからイルミナルの町に帰って来た日には、その晩を宿屋で過ごした。
そして、休暇を取った次の日である。
朝早くから宿屋を旅立った。
イルミナルの町に在る蝋燭の油亭で聞いた話だと、旧魔王城までの道のりには二つの村しか無いらしい。
しかも一つはドワーフの村で、もう一つはエルフの村らしいのだ。
まあ、異世界だからドワーフやエルフなどの知的な亜種が居ても可笑しくないって話だ。
しかし、俺はドワーフやエルフに会うのも見るのも初めてである。
ちなみに今さら説明なんぞいらないだろうが、ドワーフとはデブで頑固なパワフルな種族で、白雪姫の物語に出て来る七人の小人どもである。
そんでもってエルフってやつは、森と自然を信仰する美しい容姿と心の民である。
精霊魔法に長けているとか。
まあ、どちらも種族的な理論が異なるために、あまり仲が良いとは言われていない。
もちろん人間とも考えが異なるために暮らしを別けているぐらいである。
何にしろ、どちらの種族も喧嘩をするほどではないが、人間とも上手くやってけてないってことだ。
そして、まずはドワーフの村からだ。
距離的にドワーフの村に一泊する予定で俺はアキレスを走らせていた。
周りは木々と岩山が多い土地である。
岩山と木々を縫うように道がクネっている。
「おやぁ、人影だ?」
さほど高くない岩山の天辺に人影を見つける。
その人影は大胆に剣を天に向けて立っていた。
反対の手には丸い盾までもっている。
「ありゃ~、人じゃあないな」
太陽の逆光で分かりずらかったが、それは丸々と太った矮躯なドワーフっぽい。
しかも距離が縮むにつれて分かったが、それは石像っぽいのだ。
何せ微動だに動かない。
剣を翳したドワーフの石像だ。
その石像を最初に次々と様々なポージングの石像が姿を現す。
その数は多い。
数十メートルも進まないで次の石像が道端に現れるのだ。
道の隅だけでなく、木々の隙間、岩の陰と、至るところに石像が置かれていた。
祀られていると言うより、見せびらかしたい感が窺える。
戦斧を持った戦士、ローブを羽織った魔法使い、両手にダガーを逆手に構えたシーフ。
すべてがドワーフをモデルにした石像っぽいのだが……。
なんだろう?
何かが変だ……。
何かと言うと分からない。
怪しい気配ではない。
危機感は何もない。
しかし────。
ポーズが可笑しいのか?
いや、違うな……。
いや、そうかな?
例えば今俺の横に在る石像を見てみればだ。
なんだかボディービルダーのようなマッチョマンなポーズを取っているのだが……。
何かが可笑しい?
俺には芸術のセンスは無いから分からないが、やはり何かが可笑しいのだ。
なんだろう?
俺はアキレスを降りて石像の一つをマジマジと見た。
「何が可笑しいのかな……?」
俺は石像の一つと、じっくりにらめっこをした。
それでやっとのこと気付く。
「この石像……、目の位置が可笑しくね?」
そうなのだ。
目の位置が可笑しい。
左目だけ、やたら上に上がっている。
よくよく見てみれば、鼻も曲がってる。
耳の大きさが左右で違う。
髭の長さも違和感がある。
輪郭が崩れているのかな。
それに体も可笑しいな。
右肩の筋肉だけ、やたらと小さくないか?
足の長さも可笑しい。
右と左の膝の高さが違うのだ。
「分かったぞ。この辺に置かれた石像は、すべてデッサンが狂ってるんだ」
一つ気が付けばあとは簡単だった。
次々と道端に現れる石像たちの可笑しなポイントを見つけられた。
俺はその数々を眺めながら道を進んだ。
なんだろうか?
この失敗作の山は?
何故にこれだけの失敗作が道端に放置されているのだろう?
すると、岩山の陰から巨大な石像が姿を現す。
それはドワーフ戦士の石像だった。
身長50メートルは有りそうな超巨大な石像だった。
戦斧を両手で抱えた勇ましい姿だが、やはりこの巨大石像ですらデッサンが狂っているのだ。
そのヘンテコな巨大石像の股を潜ると町となっていた。
いや、町にしては小さいかな?
村だな。
巨大石像がゲートの柱代わりになっている。
高い壁の向こうには山沿いに石作の家が沢山並んでいた。
ここがドワーフの村なのだろう。
町にも匹敵する防壁だが、家の数が少ないから村なのだろう。
おそらく人口も少ないのかな?
密集住宅っぽいな。
俺は道に並ぶヘンテコな石像たちに見送られながら、開きっぱなしの門を潜った。
門には警備兵も居なかった。
村の中は寂れている。
活気が無いな。
ドワーフって陽気で賑やかな種族かと思ってたのにさ。
それでも人影は見られる。
いや、ドワーフ影かな?
まあ、どっちでもいいか。
家の玄関先で椅子に座っているだけの老婆ドワーフ。
子供ドワーフは裸足で走り回り、鍛冶屋の親父が火鉢の前でトンカントンカンとハンマーを振るっている。
イルミナルの町と違って貧乏そうな町だな。
そして町中にもブサイクな石像が幾つも飾られていた。
俺は馬の上から近くの雑貨屋前で斧の歯を研いていたドワーフ親父に訊いてみる。
「なあ、オヤジさん。この村には宿屋は在るかい?」
斧を研ぐドワーフ親父は手を止めてからぶっきらぼうに言った。
「潰れかけているが、この先に在るぞ」
「サンキュー」
「いいって、ことよ」
ドワーフ親父はニヒルに笑うと斧を研ぐ作業にもどった。
ぶっきらぼうだが、悪い人じゃあないようだ。
これがドワーフとして普通なのかな?
俺はドワーフ親父に言われるまま先を目指して宿屋を見つける。
岩作りの建物で小さな入り口の上に看板が出ていた。
しかしドワーフの文字で書かれている。
俺には読めない。
だが俺は、ランゲージリング+2の効果を使って看板の文字を読もうとした。
【ランゲージリング+2。下等種族の言語が話せるようになる。下等種族の文章が読めるようになる】
あら、読めない?
どうやらドワーフって下等種族じゃあないようだ。
中級以上ってことかい?
「まあ、いいか~」
俺がアキレスから降りると背後から声を掛けられた。
「なんだ、人間か?」
俺が振り返ると薪を背負ったドワーフが立っていた。
厳つい顔で俺をにらんでいる。
「そうだ、人間の冒険者だ」
「お泊まりかい?」
「あんた、宿屋の店員か?」
「店員? 人間は宿屋の親父を店員と呼ぶのか?」
「そう呼ぶ地域も有る」
「まあ、いい。入んな。入り口がドワーフ用だから低いぞ。頭に気を付けろよ」
「ああ、気を付けるぜ」
それからドワーフの親父を先頭に店内に入って行くのだが、ドワーフ親父がかづいた薪を入り口に引っ掻けて立ち止まる。
何しとるん、この親父は……。
「す、すまん。ちょっと引っ掛かってる薪を外してくれないか……」
「ああ、分かったよ……」
俺は優しく引っ掛かってる薪を外してやった。
「す、すまなんだ……」
「いいってことよ」
それから低い入り口を潜って店内に入った。
もちろん頭なんてぶつけない。
【つづく】
そして、休暇を取った次の日である。
朝早くから宿屋を旅立った。
イルミナルの町に在る蝋燭の油亭で聞いた話だと、旧魔王城までの道のりには二つの村しか無いらしい。
しかも一つはドワーフの村で、もう一つはエルフの村らしいのだ。
まあ、異世界だからドワーフやエルフなどの知的な亜種が居ても可笑しくないって話だ。
しかし、俺はドワーフやエルフに会うのも見るのも初めてである。
ちなみに今さら説明なんぞいらないだろうが、ドワーフとはデブで頑固なパワフルな種族で、白雪姫の物語に出て来る七人の小人どもである。
そんでもってエルフってやつは、森と自然を信仰する美しい容姿と心の民である。
精霊魔法に長けているとか。
まあ、どちらも種族的な理論が異なるために、あまり仲が良いとは言われていない。
もちろん人間とも考えが異なるために暮らしを別けているぐらいである。
何にしろ、どちらの種族も喧嘩をするほどではないが、人間とも上手くやってけてないってことだ。
そして、まずはドワーフの村からだ。
距離的にドワーフの村に一泊する予定で俺はアキレスを走らせていた。
周りは木々と岩山が多い土地である。
岩山と木々を縫うように道がクネっている。
「おやぁ、人影だ?」
さほど高くない岩山の天辺に人影を見つける。
その人影は大胆に剣を天に向けて立っていた。
反対の手には丸い盾までもっている。
「ありゃ~、人じゃあないな」
太陽の逆光で分かりずらかったが、それは丸々と太った矮躯なドワーフっぽい。
しかも距離が縮むにつれて分かったが、それは石像っぽいのだ。
何せ微動だに動かない。
剣を翳したドワーフの石像だ。
その石像を最初に次々と様々なポージングの石像が姿を現す。
その数は多い。
数十メートルも進まないで次の石像が道端に現れるのだ。
道の隅だけでなく、木々の隙間、岩の陰と、至るところに石像が置かれていた。
祀られていると言うより、見せびらかしたい感が窺える。
戦斧を持った戦士、ローブを羽織った魔法使い、両手にダガーを逆手に構えたシーフ。
すべてがドワーフをモデルにした石像っぽいのだが……。
なんだろう?
何かが変だ……。
何かと言うと分からない。
怪しい気配ではない。
危機感は何もない。
しかし────。
ポーズが可笑しいのか?
いや、違うな……。
いや、そうかな?
例えば今俺の横に在る石像を見てみればだ。
なんだかボディービルダーのようなマッチョマンなポーズを取っているのだが……。
何かが可笑しい?
俺には芸術のセンスは無いから分からないが、やはり何かが可笑しいのだ。
なんだろう?
俺はアキレスを降りて石像の一つをマジマジと見た。
「何が可笑しいのかな……?」
俺は石像の一つと、じっくりにらめっこをした。
それでやっとのこと気付く。
「この石像……、目の位置が可笑しくね?」
そうなのだ。
目の位置が可笑しい。
左目だけ、やたら上に上がっている。
よくよく見てみれば、鼻も曲がってる。
耳の大きさが左右で違う。
髭の長さも違和感がある。
輪郭が崩れているのかな。
それに体も可笑しいな。
右肩の筋肉だけ、やたらと小さくないか?
足の長さも可笑しい。
右と左の膝の高さが違うのだ。
「分かったぞ。この辺に置かれた石像は、すべてデッサンが狂ってるんだ」
一つ気が付けばあとは簡単だった。
次々と道端に現れる石像たちの可笑しなポイントを見つけられた。
俺はその数々を眺めながら道を進んだ。
なんだろうか?
この失敗作の山は?
何故にこれだけの失敗作が道端に放置されているのだろう?
すると、岩山の陰から巨大な石像が姿を現す。
それはドワーフ戦士の石像だった。
身長50メートルは有りそうな超巨大な石像だった。
戦斧を両手で抱えた勇ましい姿だが、やはりこの巨大石像ですらデッサンが狂っているのだ。
そのヘンテコな巨大石像の股を潜ると町となっていた。
いや、町にしては小さいかな?
村だな。
巨大石像がゲートの柱代わりになっている。
高い壁の向こうには山沿いに石作の家が沢山並んでいた。
ここがドワーフの村なのだろう。
町にも匹敵する防壁だが、家の数が少ないから村なのだろう。
おそらく人口も少ないのかな?
密集住宅っぽいな。
俺は道に並ぶヘンテコな石像たちに見送られながら、開きっぱなしの門を潜った。
門には警備兵も居なかった。
村の中は寂れている。
活気が無いな。
ドワーフって陽気で賑やかな種族かと思ってたのにさ。
それでも人影は見られる。
いや、ドワーフ影かな?
まあ、どっちでもいいか。
家の玄関先で椅子に座っているだけの老婆ドワーフ。
子供ドワーフは裸足で走り回り、鍛冶屋の親父が火鉢の前でトンカントンカンとハンマーを振るっている。
イルミナルの町と違って貧乏そうな町だな。
そして町中にもブサイクな石像が幾つも飾られていた。
俺は馬の上から近くの雑貨屋前で斧の歯を研いていたドワーフ親父に訊いてみる。
「なあ、オヤジさん。この村には宿屋は在るかい?」
斧を研ぐドワーフ親父は手を止めてからぶっきらぼうに言った。
「潰れかけているが、この先に在るぞ」
「サンキュー」
「いいって、ことよ」
ドワーフ親父はニヒルに笑うと斧を研ぐ作業にもどった。
ぶっきらぼうだが、悪い人じゃあないようだ。
これがドワーフとして普通なのかな?
俺はドワーフ親父に言われるまま先を目指して宿屋を見つける。
岩作りの建物で小さな入り口の上に看板が出ていた。
しかしドワーフの文字で書かれている。
俺には読めない。
だが俺は、ランゲージリング+2の効果を使って看板の文字を読もうとした。
【ランゲージリング+2。下等種族の言語が話せるようになる。下等種族の文章が読めるようになる】
あら、読めない?
どうやらドワーフって下等種族じゃあないようだ。
中級以上ってことかい?
「まあ、いいか~」
俺がアキレスから降りると背後から声を掛けられた。
「なんだ、人間か?」
俺が振り返ると薪を背負ったドワーフが立っていた。
厳つい顔で俺をにらんでいる。
「そうだ、人間の冒険者だ」
「お泊まりかい?」
「あんた、宿屋の店員か?」
「店員? 人間は宿屋の親父を店員と呼ぶのか?」
「そう呼ぶ地域も有る」
「まあ、いい。入んな。入り口がドワーフ用だから低いぞ。頭に気を付けろよ」
「ああ、気を付けるぜ」
それからドワーフの親父を先頭に店内に入って行くのだが、ドワーフ親父がかづいた薪を入り口に引っ掻けて立ち止まる。
何しとるん、この親父は……。
「す、すまん。ちょっと引っ掛かってる薪を外してくれないか……」
「ああ、分かったよ……」
俺は優しく引っ掛かってる薪を外してやった。
「す、すまなんだ……」
「いいってことよ」
それから低い入り口を潜って店内に入った。
もちろん頭なんてぶつけない。
【つづく】
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