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第315話【森の奥の滝】

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俺たち三人は森の中の滝の前で話し合っていた。

俺とルークさんが向かい合い、ルークさんの背後にレイラ姫様が隠れている。

レイラ姫様は黒山羊マスクで顔が見えないが、威嚇的に喉を鳴らしていた。

どうやら俺には懐いてくれないようだな。

俺って獣や人外に結構懐かれやすいタイプなんだけどなあ……。

なのにこの姫様は俺に敵意満々だよ。

まあ、とりあえずルークさんがレイラ姫様を宥めているから大丈夫だろう。

「なあ、ルークさん。兎に角ダンジョンに入らないか?」

「そうですね。レイラ、頼むからダンジョンの扉を開いてもらえないかな?」

「がるっ!」

申し訳無さそうにルークさんがたのんだが、レイラ姫様は黒山羊頭をプイッと横に向けてしまう。

うん、臍を曲げてるようだ。

俺の何が気に食わないのさ。

「レイラ、そんな子供みたいに駄々をこねないでくれよ」

ルークさんが宥めていると、レイラ姫様がルークさんに耳打ちした。

何かをボソボソと言っている。

あれれ、ちゃんと言葉がしゃべれるのかな? 

そして、深い溜め息のあとにルークさんが通訳のように俺に言った。

「レイラは僕と二人っきりでダンジョンに入りたいらしいんだ……」

「え~、俺ってば、お邪魔虫ですか~~」

俺の言葉を聞いてレイラ姫様が再びルークさんに耳打ちする。

「アスランくん、気を悪くしないでもらいたいんだが、レイラが言うんだ。キミはデートの邪魔だって……」

「うわ、直球で言われたよ!」

「すまないが、今回はやっぱり無かったことでいいかな?」

「良くねーよ! こっちとら四日も待ってたんだぞ!!」

「だよね~……」

このイチャイチャ下手物カップルめ!!

堂々とダンジョン攻略を口実にデートしてやがるんだな!!

あー、もー、羨ましい!!

ち、違った……。

「分かったよ、ルークさん。じゃあこんな提案はどうだ?」

「提案?」

「がる?」

「ダンジョンの分かれ道で別々の方向に進むってので、どうよ?」

ルークさんとレイラ姫様は俺に背を向けて二人でこそこそと話し合う。

そして、しばらくするとレイラ姫様がルークさんの脇腹を人差し指で突っついた。

「いやん、やめろよレイラ!」

「がるる♡」

「もう、悪戯っ子だな、レイラは」

「がるる~♡」

えっ!?

なに!?

何をイチャイチャしてるのさ!?

スゲームカつくぞ!!

黒山羊頭を被った極上の廃人キャラの癖にカップルでイチャイチャしてるんじゃあねえよ!!

「分かったよ、アスランくん。その提案でレイラも納得してくれた」

「そ、そうかい……」

いや、なんか、俺が納得いかなくなったわ……。

そんな感じで俺が密かに腹を立てていると、レイラ姫様が滝の水辺に近寄って行った。

何をしやがるんだ?

すると滝壺横に有る大きな岩に手を伸ばす。

その岩は高さが3メートルほど有った。

「がるるっ」

そして、レイラ姫様が唸ると腕が岩の中に吸い込まれた。

おお、ダンジョンの入り口が出来たのか?

「アスランさん、扉が開いたようです。あそこからダンジョンに入りますよ」

見えない扉なのか?

レイラ姫様が岩の中に消えて行くと、それを追ってルークさんも岩の中に消えた。

俺も岩に近寄ると手を伸ばす。

あー、これ、前にも見たことあるな。

デカイババアの魔女キルケが使っていた、見えない何処でもドアに似ていやがる。

てか、同じ魔法かもしれないな。

そして俺が見えない扉を潜るとダンジョンの一室にテレポートした。

明かりはルークさんの指輪が光っている。

「ここは……」

10メートル四方の部屋だった。

壁は岩を切り出したブロックの建造物である。

その部屋には四方向に進む通路がついていた。

何となくだが、ゴモラタウンの閉鎖ダンジョンに似ているように思えた。

俺が入って来るのを待っていたルークさんが言う。

「このダンジョンはランダムダンジョンなんですよ」

「ランダム?」

「僕らが入る度に構造が違っているんです。だからマップを描いても次には使えないんですよ」

「魔法のダンジョンですか……」

するとルークさんがチョークで床に丸を描いた。

そこは見えない扉が在る場所である。

「ここに扉がある場所を示して置きますので、帰りはここに戻って来てください。万が一の時は、一人でダンジョンから出てくださいね」

「ああ、分かったよ」

「僕たちは、このライトの指輪が二回分でダンジョンから出ます。約五時間から六時間です」

たぶん指輪のライトが切れるのが、約三時間なのだろう。

二回分ってことは、まさに五時間から六時間ってところだろうか。

一回目のライトが切れたらダンジョンを引き返しているんだな。

なんだよ、結構考えて探索していやがるぞ。

俺は異次元宝物庫から虫除けのランタン+1を取り出すと明かりを灯した。

【虫除けランタン+1。明かりの中に昆虫が入ってこれない】

「じゃあ僕らは五時間か六時間でこちらに戻ってきますので……」

「あー、本当に別々に探索するんだ……」

レイラ姫様が、がるるって俺を睨んでいますわ。

やっぱり俺はパーティーを組めない星の下に生まれた冒険者なのね……。

グスン……。

俺がしょぼくれているとルークさんがゴーレムを召喚した。

周りの何も無い空間から現れた岩がゴロゴロと転がりながら合体すると2メートルほどの巨漢の大男を形作る。

そして、合体した岩の表面が磨かれ艶を映し出し大理石の石像のように輝きだした。

ゴーレムはただの荒々しいゴーレムでは無く、マッチョに彫刻された凛々しい石像と化していった。

『ゴォゴォゴォォオオオ!!』

唸るマッチョゴーレムが、ボディービルの大会で見せられるサイドチェストのポーズを取って見せた。

あら、まあ、凛々しいこと……。

流石はプラス5のマジックワンドが作り出した超超超超超ゴーレムだわ……。

この二人がなんでダンジョン内で死ぬこと無く今まで冒険が出来ていたかが、ハッキリと分かるほどの見た目ですわん……。

「それでは僕らはこちらに進みますからアスランさんもお好きに探索してください」

ルークさんが四方向在る内の一つの通路を指差しながら言う。

「ああ、分かったよ」

あーあ、俺はどっちに向かおうかな……。

「それでは五から六時間後に、またここで──」

そう言うとルークさんとレイラ姫様の姿がインビシブルの魔法で消えた。

姿が見えるのはマッチョなゴーレムだけだ。

そしてマッチョなゴーレムがドシンドシンと地鳴りを轟かせながらダンジョンの奥に進んで行った。

ズッケーー……。

あいつらズルイわ~。

戦うのはゴーレムで、しかも本体は消えて潜んでやがるなんてさ。

そりゃあ死なないでダンジョン探索も出きるよね……。

ナイスなコンビだよ、本当にさ……。

さて、一人になっちゃった。

まあ、しゃあ無いか。

俺も一人で探索しよっと……。


【つづく】
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