上 下
281 / 604

第281話【それぞれの覚悟】

しおりを挟む
やーべー!!

落ちてるわ~!!

ちくしょう!!

俺は空中で体を捻って手を伸ばしたが、とてもとてもテラスまでは届く距離じゃあなかった。

先を見ればテラスの端に頭の無い全裸のマッチョ野郎が立っている。

あの野郎に突き落とされたんだ。

「のぉぉおおおと!!!」

俺はそのまま落ちて行った。

確か塔の高さは20メートルから25メートルほどあったよな。

こりゃあ高すぎるわ~。

死ぬね~。

人間なんて3メートルの高さから落ちただけで死ねるほどに、か弱い生物なんだぜ。

それが20メートル以上の高さから落下したらヤバイだろ。

受け身スキルがあるけど役に立たないだろうな。

ちくしょう、マジでヤバイぞ!!

死ねるわ!!

俺は背中から落ちて行った。

このままでは確実に背中から地面に激突するぞ!!

どうにかせんと!!

「アスランさま、ここは我々にお任せあれ」

「えっ!?」

声の主はヒルダだった。

彼女が異次元宝物庫の扉を抉じ開けて、俺の背後に出て来る。

「おまえ、何してる!?」

「我々がクッションになります」

俺の背中に抱きついたヒルダは、いつものように淡々と言った。

彼女に続いて次々とメイドたちが異次元宝物庫から出て来て俺の背後に纏いつく。

「お前ら、何をしてやがる!! このままだと!?」

「大丈夫ですわ。我々は全員アンデッドですから、落下ダメージ程度では死なないと思います」

「思いますって、不確定じゃあないか!?」

「ただ、頭が潰れたり、長い時間太陽に晒されなければ死にませんですので」

「今は昼間だよ! それにこの高さだと、頭ぐらい潰れかねないぞ!!」

「ですが、これしかアスランさまが助かるすべは……」

ヒルダが話している最中に、俺たちは地面に激突した。

俺はメイドたちの体をクッションにしていたが、激突の衝撃で跳ね上がった。

そのあとに地面を転がる。

「いたた……」

痛い、が、無事だ……。

俺は直ぐに立ち上がると周囲を見回した。

するとメイドたちが地面に全員転がっている。

その光景は酷かった。

全員倒れているのだ。

中には手足がもげてバラバラになっているメイドも少なくなかった。

「アスラン! 大丈夫か!?」

結界の外からバーバラが心配の声を飛ばしていたが、それどころじゃあない。

俺のクッションになったメイドたちは大丈夫なのか!?

死んでないだろうか!?

意識はあるのかよ!?

「ヒルダ!?」

「アスランさま、ご無事ですか?」

ヒルダの声は俺の足元から聞こえた。

「ひぃ!!」

俺が足元を見るとヒルダの生首が転がっていたのだ。

そりゃあビビるわ!!

「だ、大丈夫か、ヒルダ……」

「このぐらいならば縫い合わせれば修復できるでしょう。それより太陽光が苦しゅうございます……」

「ああ、分かった!!」

俺は急いでメイドたちを異次元宝物庫内に戻した。

砕けた体の破片も手早く仕舞う。

最後にヒルダの生首が、別のメイドに抱えられながら言う。

「ざっと見た感じですが、七割のメイドが活動不能でございます。残った者たちも戦闘は難しそうです。我々負傷したメイドが活動可能になるまで、まことに申し訳ありませんがご不自由をおかけします」

「気にするな。本当にありがとう……」

「それでは失礼します」

そこまで述べると異次元宝物庫の扉が閉められた。

まさかミイラメイドたちに助けられるとは思わなかったぜ。

あいつらがそこまで忠義を果すとは思わなかったわ……。

今度から、もうちょっと優しく接してやろうかな。

「死ななかったなんて、ビックリだよ」

俺が振り返ると塔の螺旋階段を下りて来たマッチョ野郎が立っていた。

頭は無い。

その代わりに切断された首からニョッキリと『つくし』のような物が生えていた。

どうやらそのつくし君がしゃべっているようだ。

「この野郎! 良くも人を落としてくれたな!」

「あなたは私の頭を爆破してくれたじゃあないですか」

「確かに!」

反論できません!!

「でも、やっぱり人間って凄いですね。魔法ですか?」

つくし君が生えたマッチョ野郎は塔の上を指差しながら話していた。

「あの高さから落下して助かるなんて、考えもしませんでしたよ。せっかく簡単に新しい頭を手に入れられると思ったのに」

「テメー、俺の頭を奪うつもりだったのかよ!」

「当然でしょう。だって私の頭が無くなったんですよ。ならば新しい物を手に入れるのは当たり前のことです」

「だな……」

無くしたら新しい物を手に入れる。

それは生物なら当然の行為ってことか……。

こいつはいちいち正論ばかりでムカツクわ。

だが、分かったぞ。

あのつくし君が本体だ。

あれが寄生虫ベェノムの正体だろう。

あれはたぶん半分に切ったぐらいじゃあ死なないんだ。

巨大ムカデを胴体から半分に斬ったことがあったが、それでも巨大ムカデは死ななかった。

昆虫の生命力ってのは、そのぐらい強くてドン臭い。

だから完全に潰すか、焼き払うかだ。

それで確実に殺せる。

そしてあのバカは、塔から出た。

こっちが本気で火力を放たなかった理由を理解していない。

ここならばマジックイレイザーで焼き払える。

俺は異次元宝物庫からシルバークラウンを取り出すと頭に被った。

食らえ!

これで終わりだ!!

「マジックイレイザー!!」

俺は口から光の波動砲を吐いた。

「なっ!?」

その灼熱の閃光はマッチョ野郎を包み込む。

どうだ、焼けて灰になれや!!

ゴォォオオオオオっと空気が唸っていた。

やがて俺の口から光が止むと、眩んでいた視界が正常に戻って行く。

あれ……?

まだ、立ってますわ……。

「お、驚きましたよ……。超火力魔法ですね。ですが、どうやらこのボディーには、高いレベルのマジックプロテクションが施されているようです」

マッチョ野郎が言う通り、こいつの胸には魔方陣が輝いていた。

あれがマジックイレイザーを防いだのだろう。

「ちくしょう……」

あれは回数限定の魔法か?

それとも無限の効果か?

どっちだ?

マジックイレイザーは二発撃てる。

試すか!?

いや、不発したら勿体無いな。

ならば、別を試して見るか。

次に俺は金馬のトロフィーを取り出す。

「アキレス!」

俺は黒馬を召喚すると背中の鞍に股がった。

更にもう一つのマジックアイテムを取り出す。

「ブラックランス+2だ。本当はブラックカイトシールド+2とセットだが、左腕が無いから今回はランスのみだぜ!」

「今度は騎馬戦ですか……」

「これで、殺す!」

俺はランスを構えたままアキレスを走らせた。

マッチョ野郎に突進して行く。

「ランスチャーーーージィィイイ!!」

「ぐっほ!!」

ブラックランスがマッチョ野郎の胸の真ん中を貫いた。

疾走する勢いでランスはマッチョ野郎の胸から肩を破壊して上半身を真っ二つに引き裂いた。

「なんの、これしぃきぃ!!」

まだマッチョ野郎は倒れない。

俺はアキレスを旋回させると馬上からマジックイレイザー二発目を発射した。

「マジックイレイザー!!」

二発目の閃光がマッチョ野郎を包んで唸った。

だが、今度は違う。

全裸のマッチョ野郎が熱光の中で悶えている。

魔法は弾かれていなかった。

胸の魔方陣がランスによって破壊されたせいで、魔法を防げてないのだろう。

うし、狙い通りだ!!

「ぐぅぁああああ!!!」

閃光に押されてマッチョ野郎が後退して行く。

やがて結界に辿り着いたのか背中から別の光を放ち出した。

そこで押されるのが止まった。

マジックイレイザーと虫除けの結界に挟まれているのだ。

「グゥァアアあああ!!」

これで決まるだろう。

俺が吐いている光が止まると、丸焦げになった人形が立っていた。

消し炭状態だ。

その黒焦げは微風に吹かれて崩れ落ちる。

粉になった。

死んだか?

「お、俺は……」

あっ、まだ生きてる。

つくし君だと思ったらミミズ君じゃあないか。

丸焦げの炭の上で蠢いているよ。

踏み潰して殺そうかな。

俺はアキレスから降りるとミミズ君に歩み寄った。

「俺は人間に憧れて、森を出たかっただけなのに……」

あー、そっすかー。

だが、死んでもらうぜ、害虫野郎が。

メイドたちの仇だ!

「アスラン、止めて!!」

えっ!?

「バーバラちゃん??」

バーバラが駆け寄って来て、のたうち回るベェノムを両手で抱え上げる。

どうやらベェノムは結界を越えて反対側に出たようだな。

「アスラン、もういいでしょう。ベェノムを許して上げて……」

「えっ、どうして!?」

「だってベェノムは寄生虫だよ。もう人間に寄生しないから、人間には迷惑かけないから……」

「いや、でも、虫にも寄生するんだろ……?」

「だから、私に寄生させるから」

「えっ、マジですか!?」

バーバラはベェノムを自分の胸に近付ける。

するとベェノムはバーバラの体内に刺さるように侵入して行った。

それは、まるで母の胸に逃げ込むかのようにも見えた。

「これで、いいの」

バーバラは微笑んでいた。

「私には完全に寄生できないように、なっているの」

「どう言うことだ……?」

「私は実験体-10号。元々はベェノムの寄生による精神征服の防御研究用に作られた存在だから……」

「えっ……」

そう言う落ちですか……。

「ベェノムが私の体に寄生している間は、何もできないわ」

【おめでとうございます。レベル30に成りました!】

あっ、レベルアップした……。

俺の勝利なのか?

すると時間が止まって、周囲が灰色に染まる。

ここで糞女神の登場かよ……。

タイミングがウザいだろ。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

裏でこっそり最強冒険者として活動していたモブ職員は助けた美少女にめっちゃ見られてます

木嶋隆太
ファンタジー
担当する冒険者たちを育てていく、ギルド職員。そんなギルド職員の俺だが冒険者の依頼にはイレギュラーや危険がつきものだ。日々様々な問題に直面する冒険者たちを、変装して裏でこっそりと助けるのが俺の日常。今日もまた、新人冒険者を襲うイレギュラーから無事彼女らを救ったが……その助けた美少女の一人にめっちゃ見られてるんですけど……?

俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界×ソロ冒険×ハーレム禁止×変態パラダイス×脱線大暴走ストーリー=前代未聞の地味な中毒性。 ⬛前書き⬛ この作品は、以前エブリスタのファンタジーカテゴリーで一年間ベスト10以内をうろちょろしていた完結作品を再投稿した作品です。 当時は一日一話以上を投稿するのが目標だったがために、ストーリーや設定に矛盾点が多かったので、それらを改変や改編して書き直した作品です。 完結した後に読者の方々から編集し直して新しく書き直してくれって声や、続編を希望される声が多かったので、もう一度新たに取り組もうと考えたわけです。 また、修整だけでは一度お読みになられた方々には詰まらないだろうからと思いまして、改変的な追加シナリオも入れています。 前作では完結するまで合計約166万文字で601話ありましたが、今回は切りが良いところで区切り直して、単行本サイズの約10万文字前後で第1章分と区切って編成しております。 そうなりますと、すべてを書き直しまして第17章分の改変改編となりますね。 まあ、それらの関係でだいぶ追筆が増えると考えられます。 おそらく改変改編が終わるころには166万文字を遥かに越える更に長い作品になることでしょう。 あと、前作の完結部も改編を考えておりますし、もしかしたら更にアスランの冒険を続行させるかも知れません。 前回だとアスランのレベルが50で物語が終わりましたが、当初の目標であるレベル100まで私も目指して見たいと思っております。 とりあえず何故急に完結したかと言いますと、ご存知の方々も居ると思いますが、私が目を病んでしまったのが原因だったのです。 とりあえずは両目の手術も終わって、一年ぐらいの治療の末にだいぶ落ち着いたので、今回の企画に取り掛かろうと思った次第です。 まあ、治療している間も、【ゴレてん】とか【箱庭の魔王様】などの作品をスローペースで書いては居たのですがねw なので、まだハクスラ異世界を読まれていない読者から、既に一度お読みになられた読者にも楽しんで頂けるように書き直して行きたいと思っております。 ですので是非にほど、再びハクスラ異世界をよろしくお願いいたします。 by、ヒィッツカラルド。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...