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第269話【蜘蛛の擬態】

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俺が魔法使いの塔を目指して森の中を進んでいる間、俺の後ろを殿様バッタちゃんがついて来ていた。

なんでついて来るのか訊いたら俺の敗けだろうと思いしばらくほっておくと、森の景色に蜘蛛の巣が多く見えて来る。

すると足を止めた彼女が俺の背後で言った。

「それでは私はここまでです。ここら辺から黒の森ですわ。もうそろそろマリベルの縄張りですから……」

俺は振り返ると立ち止まっている殿様バッタちゃんに言う。

「お前も気を付けて引き返せよ。じゃあ、達者でな」

俺がそう言い足を進め出すと、名残惜しい殿様バッタちゃんが叫んだ。

「私はいつまでもあなた様を待っていますから、絶対に帰ってきてくださいませ!!」

俺は振り返らない。

あの糞バッタが!!

他人に死亡フラグが立ちそうな言い方をすんじゃあねえよ!!

お前が人間の美少女ヒロインなら、俺はこの先で死んでるぞ!!

本当に今回ばかりはあいつが殿様バッタで良かったわ!!

ええい!!

もう無視して先に進もうっと!!

俺は殿様バッタちゃんを無視して黒の森を進んだ。

しばらく黙々と黒の森を俺が進んでいると、背後でガサリと音が鳴った。

なに、背後を取られたか!?

俺は咄嗟に振り返る。

すると──。

「ついて来ちゃった。てへ♡」

そこには頭をコチンと叩いている殿様バッタちゃんが居たのだ。

「とっとと、帰れやーーー!!!」

「ひぃぃいいいい!!!」

俺が怒鳴りながら殿様バッタちゃんを蹴飛ばすと、彼女はキチキチキチっと羽音を鳴らして飛んで行った。

あっと言う間に森の向こうえ飛んで行って姿を隠す。

「うぜぇーー!! マジでうぜぇーーぞ!!」

ああ、気が付いたらロングソードを抜いていたわ。

俺は怒りに任せて、無意識にロングソードを抜いていたらしい。

危なく殿様バッタちゃんを斬り捨てていたかも知れないな。

まあ、別に斬り捨てても後悔は無いわ。

むしろ斬り捨てたいぜ。

「まあ、いいや。そろそろ巨大蜘蛛が出てきそうな雰囲気だから、気を引き締めないとな……」

ここからは武器を抜いたまま進もう。

俺が周囲を見回せば、木々の間に巨大な蜘蛛の巣が幾つも張られていた。

森の中を進めば進むほどに蜘蛛の巣の景色が増えて行く。

間違いなく居るだろう。

巨大蜘蛛たちが。

おそらく木々の上のほうや、巣の影に潜んで居るに違いない。

まあ、蜘蛛の習性からして、蜘蛛の巣に触れなければ襲われないのかな?

そんなに甘くないのかな?

どちらにしろ警戒しなければなるまい。

昆虫の擬態能力は侮れない。

さっきだって、あんなに大きなカマキリですら殿様バッタちゃんが捕獲されるまで、直ぐ側に居るのに気が付かなかったんだ。

カマキリがハントする際の擬態スタイルは、体を伸ばしながら逆さまになって草木を真似るパターンだ。

それは人間でも見付けようと思えば見付けられるレベルの擬態である。

だが、網目状態の蜘蛛の巣を張って狩りをするタイプじゃあ無い蜘蛛の擬態は、人間の目では見付けられないだろう。

枯れ葉に擬態したり、木の表面に擬態したり、土に擬態する。

そんな感じの蜘蛛は、素人じゃあ見付けられない。

だが、今回の救いは、相手が巨大化していることだけだ。

流石に擬態のプロでも、人間並みのサイズならば直ぐに見付けられるだろうさ。

「シャーーー!!」

「ぎぃぁぁあああ!!」

考えている最中に襲われた。

そいつは何も無い地面から飛び出して来やがった。

俺の足元からだ。

パッカリと蓋みたいな物が開いて、中から蜘蛛が飛び出して来たのだ。

たまたまロングソードを抜いて持っていた右側から巨大蜘蛛が飛び出して来たので、ロングソードで巨大蜘蛛の噛み付きを防げたのである。

巨大蜘蛛の牙がロングソードに阻まれキャシャンと鳴った。

奇襲が失敗した巨大蜘蛛は、飛び出して来た穴にすぐさま戻ると蓋をパタリと閉める。

その蓋は大地の色と同じで擬態化されていた。

「うわ……。危なかったぜ……」

そして、それっきり巨大蜘蛛は姿を現さない。

今のは巣なのかな?

巣の中からの奇襲なのか?

その奇襲が失敗したから、もう襲ってこないのかよ?

なんて警戒心が強いんだ。

確実に襲える時しか襲って来ないのかよ。

てか、やっぱり蜘蛛の擬態って凄いな。

今の蜘蛛は地蜘蛛ってヤツだな。

この先で、あんなのが無数も巣くって居るのかよ。

あんなのは何度も防げないぞ……。

これはだいぶ過酷な道のりになりそうだわ……。

「キキキィ。餌が来たぞ」

「キキキィー。餌が来たね」

唐突に話し声がした。

話し声は上のほうからだった。

俺が見上げてみれば、ゾゾッと寒気が走る。

俺の頭上の枝には、足の長い巨大蜘蛛たちが複数張り付いていたのだ。

その数は、まさに沢山だ。

おそらく三十体ぐらい居た。

不味いわ~……。

いつの間に接近を許しちゃったのさ……。

更に俺の首位の地面がパカパカと開く。

その数も複数で、二十ぐらいあった。

その蓋の隙間から足の短い地蜘蛛たちが顔を出しながら話している。

「俺が先に唾をつけたんだぞ。こいつは俺の餌だ」

「馬鹿言うな。ハンティングをミスったくせによ」

「い、いや……。あれは挨拶をしただけだぞ。ミスったわけじゃあないんだからね!」

「ほざいてろ」

いやいやいや……。

ほざいてろは俺の台詞だよ。

なんで俺がお前らの餌なんだ。

食われてたまるかよ。

俺はロングソードを腰の鞘に収めた。

それを見ていた足長巨大蜘蛛の一匹が言う。

「あれれ、もう観念したのか。詰まらないヤツだな」

「ちゃうわい」

俺は異次元宝物庫からポールウェポン斬馬刀を引き抜いて、頭の上でクルクルと回した。

それから両手で確りと構える。

腰を深く落とした俺は、威嚇的に言ってやった。

「糞蜘蛛どもが、全員真っ二つにしてやるぜ!」

決まったかな!?

巨大蜘蛛は上と下を合わせて五十匹か六十匹ぐらい居るだろう。

だが、宣言した通り全員殺す必要は無いだろうさ。

数匹派手に殺して俺のほうが、圧倒的に強いと示せれば、残りの奴らは逃げて行くはずだ。

まさに蜘蛛の子を散らすようにな。

よし、一丁やりますか!

アスランvs巨大蜘蛛チーム。

戦いの火蓋が今開かれる。

いや、戦いの幕が今開かれるかな……。


【つづく】
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